平安夢柔話

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王朝序曲

2007-10-05 11:26:07 | 図書室3
 10年来の愛読書であるこの本を最近再読しました。やっぱり面白かったです。まだこちらで紹介していませんでしたので紹介させていただきますね。

☆王朝序曲 上 永井 路子 著
  1997 \504 角川書店・角川文庫

[要旨]
長岡京への遷都、蝦夷出兵と大胆な政治を押し進める帝王桓武。しかし、蝦夷攻略は
失敗、相次ぐ妃の死、大水害に見舞われ、かつて自らが宮廷から追放した早良親王ら
の怨霊に惑わされ、再び遷都を決意した。亡き母親への憧憬拭いがたい安殿は、後宮
入りした娘の母・藤原薬子の身体にのめり込み、その関係を咎める桓武帝と相剋を深
める。平安遷都七九四年、官等をめざして縺れあう藤原真夏、冬嗣兄弟の愛憎、皇太
子・安殿との骨肉の相剋に命をすりへらしていく帝王桓武を描く、長編歴史大河小説
の大作。


☆王朝序曲 下 永井 路子 著
1997 \504 角川書店・角川文庫

[要旨]
六十の齢に達し、病床の身にあった桓武帝は、いよいよ安殿に譲位した。平城帝が誕
生し、ひとつの時代が終りを告げた。新帝は、一度は遠ざけられた藤原薬子を近任さ
せ、薬子は宮廷での権力を強めた。出世に背を向けた冬嗣は、鷹揚な皇子・賀美能に
仕えるが、計らずも平城は、賀美能を皇太子に指名し、冬嗣もまた、政治抗争の中央
へ引き出されていく…。桓武から平城、そして嵯峨へ。権力と愛欲の葛藤がくりかえ
され、平和がくる。野望と挫折、長編歴史大河小説の力作。


☆永井路子歴史小説全集 4 王朝序曲 永井 路子 著
1995 \3,466 中央公論新社

[要旨]
平安時代は、薬子の変後の嵯峨朝に始まる。王朝の推進者藤原冬嗣、真夏兄弟を軸に
、桓武・平城・嵯峨の三代に亘る波瀾の時代を描く。


 なお、写真は私が所持している1994年発行の初版の単行本ですが、こちらはすでに絶版です。上記の2タイトルが現在でも入手可能のようです。

 この本は、「この世をば」「望みしは何ぞ」に先立つ、永井路子さんの「王朝三部作」の1冊です。本の紹介文にもありますように、桓武から平城、嵯峨天皇にわたる激動の時代を、主に藤原北家の内麻呂を父とする真夏・冬嗣兄弟の目を通して描いた歴史小説です。

 桓武天皇を父とする安殿親王、権力者藤原百川を父とする藤原緒嗣と同年代でありながら、父の官位が低かったためほとんど世間から注目されなかった真夏と冬嗣、しかし、運命は二人を政治の中枢へと導いていきます。まず、兄の真夏が皇太子となった安殿親王の側近となったことから官界にデビューすることになります。そして、父が少しずつ出世したことから、冬嗣も休廷に出仕、しかし冬嗣は出世に背を向け、帝位とは縁のないと思われた安殿の弟、賀美能親王に仕えることになるのですが、賀美能が平城天皇となった安殿の皇太子となり、やがて嵯峨天皇として即位したことから、彼もまた政治の中枢へと引き出されていきます。すなわち、平城太上天皇と嵯峨天皇が対立し、大同五年(810)、薬子の乱が勃発。しかしこの乱は、実際は平城太上天皇の寵姫である藤原薬子と、嵯峨天皇側近の冬嗣の戦いだった…と、この小説では描かれていました。

 この小説の特長は、永井さんの他の作品に見られるものと同じく、史実を忠実に、しかも面白くわかりやすく小説化していること、そして、登場人物が個性的で生き生きしていることでしょうか。桓武天皇、安殿親王、賀美能親王をはじめ、冬嗣の異父弟の良岑安世、冬嗣の妻の美都子、美都子の弟の三守、みんな魅力的ですが、一番心ひかれたのはやっぱり冬嗣です。

 私は、この小説を読んで、すっかり冬嗣のファンになってしまいました。人柄が穏やかで一見平凡で頼りなさそうですが、いざというときは力を発揮する、そんな人物に描かれているのです。そこがとても格好良いです。今回再読した理由も、「冬嗣さんにお会いしたい!」という単純な理由だったのですが、冬嗣さんは期待通りでした。(^^)

 また、今回の再読ではお兄さんの真夏さんにも注目してみました。冬嗣とは逆に、感情を表に出すことの多い人物ですが、安殿親王への忠誠心は一途で、すごく素直な人だなという印象を受けます。真夏は薬子の乱で失脚してしまうのですが、「何とか官界に戻れるように力を尽くしますから」と言う冬嗣に、「俺は安殿さまと同じ年だ。最後まで安殿さまと運命を共にする」と言って、剃髪した平城太上天皇のいる奈良の旧都に戻っていきます。この場面はさわやかで感動的でした。

 冬嗣は薬子の乱のあと出世をし、ついに左大臣に上り詰めます。彼の娘の順子は嵯峨天皇の皇子である後の仁明天皇に入内して皇子を生み、その皇子は文徳天皇となります。冬嗣の息子の良房は人臣初の摂政となり、藤原北家は天皇の外戚として絶大な権力を持ち、約150年後には道長が登場して全盛期を迎えることになりますが、政治面・文化面ともにその基礎を築いたのは冬嗣と嵯峨天皇ではなかったかと、この小説を読んで強く感じました。

 一方、真夏お兄さんの血統もしっかり続いています。彼の子孫には歌人の伊勢、藤原兼家側近の藤原在国(有国)、浄土真宗を開いた親鸞などがいます。足利将軍の御台所を何人か出している日野家も彼の子孫です。系譜の面白いところですね。

☆なお、藤原有国については「平惟仲と藤原在国 ー平安時代のライバル」もご覧下さいませ。

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