漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0874

2022-03-22 05:43:50 | 古今和歌集

たまだれの こがめやいづら こよろぎの いそのなみわけ おきにいでにけり

玉だれの こがめやいづら こよろぎの 磯の波分け 沖に出でにけり

 

藤原敏行

 

 あの小亀はどこへ行った。こよろぎの磯の波を分けて沖に行ってしまったんだなあ。

 難解な上に、深い含意があるとの説もある歌のようです。
 「玉だれの」は本来「緒」に掛かる枕詞ですが、ここでは「こがめ」の「こ(小)」に掛けられています。「小」にも「お」の音があるからでしょうか。「こがめ」は「小亀」と「小瓶」の掛詞。「こよろぎ」は地名です。この歌をそのまま解釈すれば上に記載した歌意になりますが、長い詞書には「控えの間にいた男達が、后のところから御酒のお下がりをいただこうとしたが、后の回りを世話する女官は笑って、瓶を后のところへ持って行くと言って出ていったまま、何の返事もなく返してくれなかった。仕方なく使いの者が帰ってきてこういうわけだと話したので、その女官の所におくった歌」との記載があります。これからすると、沖へ行って帰って来なかった亀の歌は、実は瓶を持って行ったまま戻って来なかった女官を「おいおい、それはないだろう」と戯れになじった歌ということになりますね。

 ただ、話はそこで終わりではなく、この歌は宇多天皇から臣籍にあった醍醐天皇への突然の譲位の暗喩であるとの解釈が古典和歌研究家の方のブログに載っていました。ここで詳しくは書きませんが、とても興味深かったのでご関心のある方は見てみてください。