常連の官僚Tさんのエネルギッシュさはとても同じ人間とは思えない。東大出のキャリア官僚としての仕事も激務だろうに、その合間を縫って年間百何十本もの映画を見る映画評論家としての顔があって、映画雑誌に原稿を執筆し、対談をこなし、映画関係のパーティに出席する。体がいくつあっても足りない筈だ。そんなTさんがある時は皆を引き連れて、ある時はひっそりとウチの店を訪れる。ひっそりの時は勿論だが、皆と一緒の時も隙を見て俺に近づいて来て二人きりでしか分からない秘密の話題?をコソコソとする。何だかこの話題をする為にウチの店を贔屓にしてくれているみたいで面白い。今日も又、秘密の話?をしていたら12時を過ぎた頃に「今54になっちまった」と云う。その言い方が官僚らしくなく可愛くて、つい俺としてはシャンパン一本をプレゼント。いつもはシャンパンが苦手な俺も今日は何故かうまい。きっと一緒に祝って、彼からエネルギッシュさのお裾分けをして貰いたかったのだろう。うん、俺はちょっと疲れている。