アブソリュート・エゴ・レビュー

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ブルークリスマス

2006-04-27 22:08:41 | 映画
『ブルークリスマス』 岡本喜八   ☆☆☆☆☆

 『ブルークリスマス』という、竹下景子主演の暗いSF映画があるというのは昔から知っていたが、観る機会がなかった。DVDで発売されたことでもあるし、何か気になるので観てみようと思い購入した。

 観てびっくり、傑作である。間違いない。確かにどことなくB級感があるが、それはショボいからではなく、重厚な社会派ドラマ的アプローチとUFO、宇宙人という題材がミスマッチ感を醸し出しているせいである。SFでありながら特撮・SFXはほぼ皆無。そういう意味では、非常に珍しいジャンルの映画なんじゃないか。

 全体のムードはSFというよりポリティカル・アクションと呼ぶ方がふさわしい。謀略、それも国家の謀略とその恐ろしさがテーマである。その恐ろしさはもうションベンちびるぐらいであって、仲代達矢演じるジャーナリストの身辺がだんだん不穏になってくるあたり実にコワイ。敵の実体が見えないのが余計にコワイのである。急に上司の態度が変わる。仕事が打ち切られる。話の途中で電話が切れる。友人が事故で死ぬ。観ていると不安感がとめどもなく亢進していく。

 それから、竹下景子と勝野洋のカップル。この二人の話が本格的に始まるのは仲代達矢のエピソードがひと段落した後だが、途中から辛い展開になるのが予想され、イヤだなあ、と思っているとこれがまたドンドンそういう方向へ展開していくのである。竹下景子がまたメチャメチャ可愛いので余計に辛い。このヒロインにこの悲惨なラストを用意するか。Xデーであるクリスマス・イブの午後8時が刻々と近づく。竹下景子が床屋のシャッターを閉め、買い物をし、家に帰り、料理を作り、ケーキに火を点し、勝野洋を待つ。この緊張感はほとんど堪えがたい。

 脚本倉本聰、監督岡本喜八の強力タッグによる制作。キャストも信じがたい豪華さで、主演級の俳優や名バイプレイヤーがぞろぞろ出てくる。仲代達矢、勝野洋、竹下景子を筆頭に、沖雅也、田中邦衛、八千草薫、岸田森、大滝秀治、中谷一郎、天本英世、芦田伸介、岡田英次、小沢栄太郎、などなど。見ごたえありすぎである。

 全体が重厚な政治謀略ものとして作られているので、そこに「UFO」とか「宇宙人」とかいう言葉が混じると非常にミスマッチ感がある。だからそういうのに抵抗がある人は駄目かも知れない。けれども逆にそういうSF的設定を借りている(UFOを見た人は血が青くなる)ために寓話性を帯び、生々しさがやわらげられているともいえる。たとえばこの物語を、伝染病か何かを題材にしてリアルにやられたら、もう重すぎて見るに耐えなくなってしまうだろう。

 個人的に残念だったのは、映画の中にナチスとユダヤ人の映像を出してしまっていること。この映画全体がナチズムの暗喩になっているので、これを出す必要はなかった。あまりにあからさまである。それから沖(勝野洋)が偶然自分の恋人の処理担当になってしまうのも、話は盛り上がるが出来すぎだろう。

 その他、政治謀略ものの宿命かも知れないが話がゴチャゴチャしていたり、欠点は色々ある。しかしやはりこれは傑作である。観た人の心のどこかに爪あとを残す映画だ。日本人がこういうSF映画を作ったことが嬉しい。


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