アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

La Femme Nikita

2009-12-28 19:05:59 | 映画
『La Femme Nikita』 Luc Besson監督   ☆☆☆☆

 DVDで再見。確かこれは私がニューヨークに来て最初に映画館で観た映画だった。友だちに連れて行かれたのだが、『ラ・ファム・ニキータ』というフランス映画だと言われて恋愛ものかと思ったら全然違い、スタイリッシュなスパイ・アクションだったのでびっくりした覚えがある。とても面白かった。最近でこそボーン・シリーズみたいにヨーロッパを舞台にしたスパイものがあるが、当時はそんなものは007以外なく、この映画のハリウッドとは一味違うヨーロピアンな香りは非常に新鮮だった。

 それからリュック・ベッソンの絵作り、演出はとても独特である。あまりリアリスティックではなく、大胆な構図、デフォルメ、そして省略法でスタイリッシュな画面を作り上げる。たとえばレストランの卒業試験の場面。ニキータが銃を構え、撃つ。ボディガードが飛び込んでくる。ニキータの姿はない。通路を走っていくボディガードたち。椅子から空中に飛び出している被害者の足。撃たれる被害者もその死体も画面には映らないし、構図もきっちり計算されている。

 物語そのものもユニークだ。銃撃戦や暗殺が出てくるスパイ・アクションなのだが、007みたいに何か特定の謀略や事件が題材になっているわけじゃなく、仕事の内容にあまり重要性はない。というより、仕事の内容は断片的にしか説明されず、ニキータ本人だって意味が分からずやってるものもある。最初の仕事はメイドの格好をして盗聴装置その他が仕掛けられたトレイを部屋に運ぶだけだし、ヴェニスの狙撃も標的が誰なのかどういう人物なのかまったく不明。だからこの映画はスパイ・アクションというより実は不良少女だったニキータが政府機関に教育され、生まれ変わり、恋をし、成長していく姿を描く青春ものなのである。ただし、断片的に挿入されるスパイの仕事は断片的で唐突であるからこそ不条理感に溢れ、スタイリッシュになるという効果もある。

 それからまたニキータを取り巻く三人の男たちが大層魅力的だ。教官ボブ、恋人のマルコ、そして掃除屋ヴィクター。教官のボブは諜報の世界に生きる男のうさんくささたっぷりで、サディスティックで酷薄、ニキータの理解者のようでいて迫害者、にもかかわらずどこか純情という複雑怪奇なキャラクターである。このチェッキー・カリョという俳優さんは独特の雰囲気があって実にいい。彼がニキータにケーキを持ってきて「誕生日おめでとう」というシーンは名場面だと思う。

 恋人マルコはジャン・ユング・アングラードで、ハンサムな優男ながら大人の男の魅力たっぷりだ。何も知らないと思っていると全部分かっているのがカッコイイぞ。それからちょっとしか出てこないけれども強烈な印象を残す掃除屋ヴィクター。演じるのはジャン・レノ。渋い。暴力的で人を殺すのをなんとも思わない、凶悪無比な殺し屋である。目障りな人間はすぐサイレンサーで撃ち殺し、死体処理用の硫酸を入れた鞄を持ち歩いている。この役をふくらませて『レオン』ができたというのは有名な話だ。もちろんジャン・レノをたっぷり堪能できるのは出ずっぱりの『レオン』の方だが、英語を喋っているのが惜しい。私としては、やっぱりフランス語を喋ってるこっちの方が好きだ。あの渋い声で喋るフランス語がいいのである。

 ついでにいうと、この映画では主役からちょい役にいたるまでみんなキャラが立っている。二キータの女を磨く教官役のジャンヌ・モローもいいし、ニキータに顔をはたかれる柔道の教官もいい。中でも私のお気に入りは最初の仕事の時に机に座り、ガムを噛んでいる濃い顔の禿げた男である。オレンジ・ジュースや紅茶をトレイに並べてニキータに渡すあの人。かったるそうに天井を見上げて座っているが、いざ仕事となるとプロの手際を見せる。顔はごついのに朝食セットを準備する手つきは妙に器用。セリフは一言もないが記憶に残る。

 そしてまたラストがいい。ボブとマルコのツーショットというだけで痺れるのに、あのばっさり切ったような終わり方。なんともクールだ。『レオン』も悪くないが、ちょっと甘すぎる。やはりこっちの方が上である。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿