アブソリュート・エゴ・レビュー

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ある結婚の風景

2013-05-18 14:03:44 | 映画
『ある結婚の風景』 イングマール・ベルイマン監督   ☆☆☆☆

 ベルイマン監督の『ファニーとアレクサンデル』にいたく感銘を受けたものだから、他の作品のDVDもいくつか入手した。これはクライテリオン版の『ある結婚の風景』である。もともとTVドラマだったらしく、TV版と映画版の両方が入っている。まずは短い映画版の方を観た。

 印象は『ファニーとアレクサンデル』と大分違う。スーパーナチュラルな要素は全然なく、結婚した男女の実も蓋もないやりとりを丁寧に見せる。物語というより緻密な対話劇であり、役者もほとんど夫と妻の二人だけ(最初にインタビュアーや友人夫婦がちょっとだけ出てくる)で、一つ一つの場面が長い。非常に演劇的だ。というか、これはもう演劇でしょう。

 この夫婦は結婚して10年、最初は「理想の夫婦」としてインタビューを受けたりしているが、ある日突然夫が愛人の存在を明かし、去っていく。妻は泣き崩れる。数ヶ月たって再会し、ここでも妻は彼への愛情と苦しみを打ち明ける。が、さらに月日がたってようやく離婚が成立する日、妻はやっと自分は解放された、なぜあなたをあんなに好きだったのかさっぱり分からない、とサバサバした表情で語り、一方夫の方は逆に未練たらたらで、家に戻りたい、お前を放さない、と執着し、しまいには暴力までふるって妻を流血させる。オーマイガー。修羅場である。そして離婚数年後、それぞれ別の相手と結婚した二人は、配偶者の留守にこっそり会ってダブル不倫をエンジョイしているのだった…。なんじゃそら。

 夫婦のやりとりが非常に生々しい。別れの痛みがリアルである。正直、自分が昔経験した別れの辛さを思い出してイヤーな気分になった。特に、突然夫に愛人がいることを告げられた妻の、茫然自失の苦しみが痛々しい。あまりにリアルで、瞬間的には恐怖すら感じたほどだ。

 とはいえ、この映画を観て強く感じたのは、男女の愛の修羅場の苦しみや悲しみというより、その不条理、謎、不可思議性である。男女の愛、夫婦の愛とは一体何なのか。二人の関係性、相手への思いは時とともに変化していき、一体どれが本当の自分の気持ちなのかすら分からなくなってくる。果たして愛とは何か。錯覚か、思い込みか、単なる状況と習慣の産物か。二人の心理の変遷はなぜ起きているのか。この変遷、人の心の移り変わりを支配している原理、一体何がそれを招いているのかを考えると、結構怖くなってくる。

 ラスト近くの場面で女が口にする、ひょっとすると私は今まで誰も愛したことがなく、誰からも愛されたことがないのかも知れない、という呟きが、妙に心に残った。


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