アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

西鶴一代女

2007-02-02 10:45:24 | 映画
『西鶴一代女』 溝口健二監督   ☆☆☆☆

 『人情紙風船』を観て衝撃を受け、古い日本映画で名作と言われているものをむしょうに観たくなり、いくつかDVDで入手した。まずは名匠溝口の『西鶴一代女』。これは溝口監督の代表作の一つで、ヴェネツィアで賞をもらっている。主演は田中絹代。パッケージはこんなだがもちろんモノクロ映画。

 溝口健二はずいぶん昔にビデオで『雨月物語』を観たが、他は観たことなかった。『雨月』では幽玄美みたいなものを感じたものの、強烈に印象に残っている映画ではない。古典的で端正な物語を繊細な映像美で見せる監督、というのが私の溝口監督についてのイメージだった。

 さて、この『西鶴一代女』、お春という女がどんどん不幸になっていくという、ひたすらそれだけの映画である。最初に年老いた街娼のお春が登場し、仏像を見て昔の男の顔を思い出し、そこから回想が始まる。美しいお春は貴族にちやほやされる宮中の女官だったが、身分違いの恋に落ちて男と逃げ、捕まり、両親ともども追放となる。男は処刑される。人前で踊っているとお殿様の妾にという話になり、両親の説得で城に入り妾になる。殿様の子供を生み、ようやく幸福を感じ始めたら用済みだといって実家に帰される。父親の借金を返すために傾城宿の女郎になる。ようやく借金を返して商家に奉公に出、「いい人でも見繕って結婚を」なんて感じになってきたところへ昔の顔なじみがやってきて、女郎をしていた過去がばれる。奥方にむりやり髪を切られる。旦那からは「お前は好き者だったんだな。いいんだよ、私の前では気楽にしてくれて」なんていいながら手ごめにされる。実家に戻って商人に見初められ、結婚し、ようやく幸せを手に入れたと思ったら亭主が殺される。絶望して尼寺に入ると、商家の主人がやってきてまた手ごめにされる。そのせいで尼寺を追い出される。商家の奉公人にかどわかされる。奉公人は捕まっていなくなり、やむなく物乞いとなる。…

 という具合に、どんどん不幸になっていく。これがひたすら続く。最後に回想が終わった後、母親がやってきて、お春の子供がお城を継いで、お春と一緒に暮らしたがっているという知らせを持ってきて、お春は感涙にむせぶ。これでようやくハッピーになって終わるのかな、と思うと、ああまたしても。

 とにかく、ようやく幸せになれるかと思ったら必ずより大きな不幸がやってくるのである。なんという残酷な物語だろうか。しかも最後まで救いがない。またそれが、お春が美しい故にというのが辛いところだ。男はお春を見て欲望をかき立てられ、女は嫉妬する。美しいが故の不幸な人生。たまらんなあ。

 どうでもいいが、お春の父親は何なんだあれは。妾になりたくないという娘を叱り飛ばし、娘が殿様の子を生んだと言っては舞い上がって借金しまくり、城を出された娘に身勝手な怒りをぶつけ、借金があるから女郎になれという。人間のクズとはまさにこのこと。

 田中絹代は当時40代だったそうだが、10代から50代までのお春を演じている。さすがに10代は無理がある、顔も童顔というより老け顔だし。しかしまあ、モノクロなのでなんとなくごまかされる。

 映像は美しく、画面には緊張感が漂っているが、ただ光と影が織り成す印象派的な映像美というよりは、セットや衣装の造形を含めた、舞台美術的な映像美という感じだ。溝口監督は長回しで有名だが、確かに普通ならショットが切り替わるようなところを、カメラ移動でやっている。まあ美術さんは大変だろう。しかしあれは結果的にどういう効果があるのだろうか。今ひとつよく分からない。見えないところで画面のテンションを高めているのだろうか。あるいは、浮遊感だろうか。いずれにしろすごく自然なので、あざとさみたいなものはまったく感じない。

 全体としては、映像美もいけるが物語の力が優れているというのが私の感想。救いのない残酷なプロットは非常に力強く、感傷性が排され、抑制がきいていて硬質な美を感じる。能のような音楽も日本的な美を感じさせて良い。しかしこれが黒澤や小津と並び称される監督の最高傑作と呼べるかどうかは、ちょっと疑問。他の溝口作品も観てみたい。


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1 コメント

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『特殊慰安施設協会』RAA (sunaoni)
2020-01-11 23:11:57
『特殊慰安施設協会』RAA

終戦後すぐに、アメリカ兵を迎え入れるために慰安施設が作られた.喫茶店、ダンスホールなどと同時に、『お国のために性の防波堤になって欲しい』と、特殊慰安婦の施設が造られ、多くの若い娘たちが特殊慰安婦になり、アメリカ兵の相手をした.
慰安婦たちはアメリカ兵に大人気で、一日に平均30人、多い日は50人以上の相手をしたという.
けれども、すぐに性病がまん延して慰安施設は閉鎖され、慰安婦達はお国ために働いたのに退職金も貰えず、行き場のない者達はパンパンと呼ばれる街娼になるほか無かったのだった.
そして、街娼になった慰安婦たちは、『売春婦はお国の恥だ』と言って、警察から追われる羽目に.....

世継ぎを産むために松平家に嫁いだ女.殿様に気に入られて、そのせいで殿様は病気になり暇を出された.お国のために世継ぎを産んだのに、くれたお金はチャリン.
仕方なく遊女をしていた女は、『遊女はお国の恥だ』と言って捕まった.女は逃げ出して.....映画は終わる.
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