江戸前ラノベ支店

わたくし江戸まさひろの小説の置き場です。
ここで公開した作品を、後日「小説家になろう」で公開する場合もあります。

斬竜剣外伝・火の山-第5回。

2016年01月29日 23時39分52秒 | 斬竜剣
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-キャンプのちファイヤー-

 周囲は薄闇に包まれつつあった。さすがに暗がりの中の登山は危険なので、俺は山の斜面に適当な岩陰を見つけ、そこを今夜のキャンプ地とすることに決めた。ここならば強風や、山頂が火を噴いた時に降る火の粉から逃れることもできるだろう。
 ただ、標高の高い山の上だから、そりゃあ夜は冷える。出来れば焚き火でもして暖を取りたい所だが、確か森林限界とか言ったか。周囲は既に樹木が生育できるような標高ではなく、燃やせるような枯れ枝などは無い。
 まあ、あったとしても山頂から吹き上がった炎の火の粉を浴びて、とっくに燃え尽きていたかもしれないが……。実際、草程度ならまだあってもいいはずなのだが、周囲には黒くなった地面以外は見当たらなかった。
 だから俺は、持ってきた毛布にくるまって、さっさと眠ることにした。……そういや、あの女はどうしたかな……。この暗闇じゃ、姿を確認することも難しいし……気にしても仕方がないか……。

「……!」
 どれだけ眠っただろうか。俺は突然の震動を感じて目を覚ました。周囲は既に明るかったが、それは日の出を迎えたからではなく、山頂から噴いた火が周囲を照らし出している所為だた。俺は万が一に備えて身構える。
「やべぇ……!」
 俺は思わずそんなつぶやきを漏らす。間近から見るその光景は、とてもこの世の物とは思えない。こんな巨大な炎があってたまるか……!! それはもう、見ているだけで生命の危険を感じるほどだった。
 しかし実際の所、まだ数百mは山頂から離れている筈なのに、周囲の気温が数度は上昇したように感じる。あの火がほんの少しこちらへ向けば、俺はあっさりと焼死するに違いない。正直、このまま逃げ帰りたい気分だ。だが──、
「あれは……!」
 山頂よりの山肌から光が見えていた。もしかして、あれが竜が潜むという洞窟か? 火口と繋がっているというから、そこから火の光が漏れ出ているのかもしれない。
 目の前に目標の物がある──。その事実が俺を突き動かした。
 慌てて荷物をまとめ、俺は洞窟と思われる場所へと向けて登り始めた。山頂の炎はもう消えているが、幸い周囲は降り注いだ火の粉がまだ残っており、明かりには苦労しなかった。
 とはいえ、急斜面でしかも火山灰に包まれた山肌だ。やはり足場は悪い。しかも、急いでいれば尚更足を踏み外す危険性があった。だから俺は、細心の注意を払って歩みを進めていたのだが──、
「あっ」
 それでも滑る足。重い荷物を背負った身体の重心は後ろに傾き、そのまま背中から後ろに倒れ込みそうになる。そうなってしまえば、最悪俺は数百mも転がり落ち、当然命を失うことになるだろう。
 だが、この状態から体勢を立て直すことなど不可能だ。出来るとすれば、一旦倒れた状態から、どうにか転がり落ちることを止める──それが出来なければ、俺の挑戦はここで終わる。そんな最後に納得できる物か! 俺は必死で足掻く。
「うおぉぉぉぉぉーっ……アレ?」
 その時、俺の身体の傾きは止まる。
「なん……?」
 振り返ると、あの女が俺の身体を支えていた。しかも片腕一本だけで。
「……やっぱりあんたみたいな奴には向かないな、この仕事」
 女はそれだけを言い残して、俺を押し倒すように斜面へと取り付かせてから、さっさとあの洞窟へと向かった。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「……礼ならいらんぞ?」
「そうじゃなくてっ!」
 俺にはこの仕事が向かないってどういう意味だよ!? チビでガキだって言いたいのか!? 
 女を問い詰めて文句を言いたいのは勿論だが、このまま先を越される訳にもいかない。
 俺は慌てて女の背中を追った。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

執筆日記。

2016年01月26日 01時25分14秒 | 日記
 ども、江戸です。今のエピソードで、もうちょっと本編のキャラを出そうかなぁ……と思っていたのだけど、実際に描いていたら、登場させない方がスッキリとまとまりそうな感じ。ぶっちゃけるとエキドナなんだけど、たぶん出てこないでしょうなぁ。

 そして、そろそろ次の外伝の話も考えている所ですが、書いてみたいエピソードはあるのだけど、それだけだと物凄く短い話になるので、全体像をどうしたものかなぁ……と悩んでいます。昔はたった一つの台詞を書きたいが為に長編の物語を丸ごと1本作った事もあったのだけれど、最近は脳の働きが衰えてきたのでそうも都合良くいかんですなぁ……。あと、ギャグ話とかのノリや勢いを必要とする物も難しくなって来た感じ。ああいうのって、やっぱり若さが必要なんだな……。

斬竜剣外伝・火の山-第4回。

2016年01月22日 23時44分52秒 | 斬竜剣
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-そこに山があるから-

 結局、150人以上集まっていた冒険者達は、半数以下にまで減ってしまっていた。さすがに前金をちらつかされても、竜の名前を出されては怖じ気付いた者が続出するのも当然と言えば当然だった。
 俺だって情報を持ち帰るだけで追加報酬が貰えるのならば悪くない話ではあるし、竜の姿を目撃して生還できたのならば冒険者として箔が付くから挑戦するだけはしてみるが、命は惜しいのでいざとなれば逃げる心積もりだ。
 だが、俺の目の前には、竜よりも前に大きな壁が立ちはだかっている。それは火を噴く山そのものの存在であった。
 あの後、宰相から配布してもらった地図によれば、竜が目撃されたのは山頂付近から火口に繋がる洞窟の奥だという。
 そこが大体標高3200m辺り。竜とか関係無く、普通に滑落事故や高山病で命を落とす危険性がある。正直、そこまで登ることが出来るかどうかが最初の関門になりそうだった。しかも、俺は他の連中から出遅れている。
 登山に必要な道具や食料を備えるのに手間取った所為もあるが、小柄な俺の歩幅が小さい所為で、同じ歩数でも進むことが出来る距離に差が生じたからでもある。
 だが、山登りは体力のペース配分が大切だ。急ぎ過ぎていざという時に動けないような体力しか残らないようでは、元も子もないのだ。
 それに俺が最後尾という訳でもないので、まだ焦るには早い。
 振り返ると、俺の数十m後方にはあの銀髪の女が続く。やはり女の体力では、この登山はキツイのだろう。そう思うとなんだか同情したくなってくる。だから俺は、彼女に万が一のことが無いようにと見守っている……ということにしておこう。決して俺が遅い訳じゃねぇ。

     

 ……ん? 今あの女の側に丸い物体が浮いていなかったか? ……いや、気の所為……か? 消えたもんな。
 ともかく……だ。見上げた先にある山の山頂部分はまだ遠い。あまりの遠さに気力が萎えそうになるが、そこにチャンスがあるのだから、諦める訳にはいかない。
 例え力を使い果たしたとしても辿り着いてみせる……って、それじゃあ駄目じゃん!
 ……大事なのはペース配分だ。ゆっくりでもいいから、余力を残しつつ確実に前に進むのが大事なんだ。例えで遅れたって、余り物には福がある……って言うしな。心にそう言い聞かせて俺は前に進んだ。

「なあ、ファーブ……。あいつ大丈夫か? 放っておいたらのたれ死にしそうなんだが」
「さぁ……。だが、あいつにばかりに構っていたら、先行している連中が死にかねんぞ?」
「まあ、目の前の奴よりは大丈夫だろうが……。今回は邪竜じゃないはずだし。でも、先に行って見張っていてくれ」
「……分かった。お前は?」
「もうちょっと様子を見る。急いだって、どのみちこの国がもう駄目だっていうのは、もう変わらないだろうしな……」
「そう……だな」


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

斬竜剣外伝・火の山-第3回。

2016年01月19日 22時10分48秒 | 斬竜剣
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-火の山の脅威-

 受付を済ませた俺達は、城内の一室に通された。どうやらここで仕事の説明を受けるらしい。
 しかし受付を早めに終わらせてしまった所為で、受付が締め切られるまでのかなりの時間を待たされることになった。2時間以上はあっただろうか。こんなことなら、何処かで軽く食事を取って時間を潰しておけば良かったのかもしれない。
 そういえばあの銀髪の女は、気が付いたらいつの間にか室内にいた。10分くらい前までにはいなかったはずだから、上手いこと時間を潰していたようだ。……なんとなく敗北感。
 ……っと、文官らしき男が部屋に入ってきた。こいつから説明があるようだ。その男は室内に集った者達の顔をゆっくりと見渡してから、威厳のある声を発した。
「……え~、私はこの国の宰相を務めるセカである」
 宰相かよ!? そんな大物が直接出てくる辺り、やはりこれはかなりの大仕事であるようだ。
「我が国の危機に、に多くの勇者が集ってくれたこと、実に心強く思う。諸君の活躍が、必ずやこの国難を晴らしてくれると、私は信じてやまない」
 おべっかはいいから早く本題に入ってくれ。こっちは何時間待たされたと思ってるんだよ。そんな俺達の内心が漏れ出ていたのを察したのかは分からないが、宰相は咳払いをして一拍おき、詳細を語り始めた。
「……諸君も既に目撃しているであろうが、我が国を未曾有の危機に陥れているのは、あの火を噴く霊峰、エーゲ山である。
 エーゲ山は1年ほど前から突然火を噴き始めた。現時点ではこの国への直接的な被害は無いが、見ての通りあれは通常の火山活動ではない。人ならざる存在の仕業なのではないかと推測される。ならば、その者の魔の手がいつこの国を襲うかも知れず、このままでは我が国民の安寧は無い」
「つまり、山から火を噴き出させている何者かを見つけ出し、そいつを倒せばいいという訳か……」
 誰かがつぶやいたその言葉に、宰相は大仰に頷いた。
「その通りである。それを成した勇者には、この国での騎士の位と領地を有する権利を与えよう」
 大盤振る舞いである。おそらく一介の冒険者風情では、どんなに努力しても手に入れられない地位だろう。だが、それはこの仕事がそれほどまでに難しいということを物語っている。
 それを自覚している誰かが、手を挙げて宰相に質問する。
「我々のやるべきことは分かりました。しかし、それを達成する為にはもっと多くの情報が必要です。そのエーゲ山の地形的な情報などもそうですが、この事件の黒幕などに心当たりはあるのですか?」
「……うむ、エーゲ山周辺の地図は後ほど配布するとしよう。黒幕について……だが……」
 ここで宰相が言い淀む。何か都合が悪いことがあるようだ。
「……これまでに何度か我が国の兵士を調査に向かわせているが、尽く逃げ帰ることになった……。何故ならば、竜(ドラゴン)の姿を目撃したから……と!!」
 その大臣の言葉に、室内はざわめいた。中には驚きのあまり、席から立ち上がっている者さえいる。何を隠そう、俺もそうだ。
 だが、それを誰が責められるというのか。竜と言えば、この世界で最強の生物とされる存在だ。仮にこの仕事を成功させる為に、その竜を倒す必要があるのだとすれば、それは達成が不可能だと言っているも同然だった。
 まあ、竜が最下位の存在なら討伐は可能だろうが、山からあんな火を噴かせるような竜が最下位だとは思えない。それに例え最下位の竜だったとしても犠牲者は確実に出るだろう。
 さすがにこの仕事は受けられない──おそらく皆がそう思ったであろうその時、
「前金で金貨2枚を払う!」
 宰相のその言葉で、室内は静まり返った。
 金貨2枚もあれば、1ヶ月は余裕で生活していける。それを前金で払うだと!?
「無論、この任務が失敗しても前金を返還する必要は無い。ただし、何もしないまま持ち逃げすれば、近隣諸国に指名手配書が出回る事を覚悟せよ。これは諸君が生還を果たし、今後の対策に有益な情報を我が国にもたらすことへの報酬である。情報の内容次第では、更なる報酬の上乗せも約束しよう」
 なるほど、必ずしも竜を倒す必要は無い訳か。竜の種類や住処等、それらの情報収集だけならば、確実に死ぬという訳ではない。それこそ危険を感じれば引き返せばいいのだ。最悪、金貨2枚を持って、追っ手が及ばない遠い国へ逃げるのも有りだろう。少なくとも、参加するだけならば悪い話ではなくなった。
「更に、無事に任務を達成した勇者には、騎士の資格だけではなくこの国の王位継承権も与える」
 宰相のその言葉に皆が色めきたった。おそらくその継承権は最下位であり、まず国王になれることはないだろうが、それでもこの国に縁もない無い人間が王族の一員になれるのだ。ただ騎士の位を持っているよりも、得られる権力は大きい物になるはずだ。
 それならば命を懸けて、竜と戦ってももいいと思う者がいてもおかしくはない。
 ただ、この報酬の大きさは、それだけこの国が困窮していることの証明でもある。
 さて、俺はどうしたものかな……。何処で手を引くか、それが生命を左右するだけに、事は慎重に運ばなければならない。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

執筆日記。

2016年01月16日 22時57分53秒 | 日記
 ども、江戸です。外伝の第2弾も悪戦苦闘しながら執筆を続けています。やっぱりというか、当初は全く考えていなかったような展開も出てきますからねぇ。やはり漠然と頭でイメージしている時とは違って、文章にして内容を明確にすると、矛盾点とかが見えてきたりするんですよね。まあ、結果として軌道修正をしている内に自分でも予想外の展開になったりするので、それが面白い所でもありますが。

 なお、このエピソードの主人公については全部「俺」で通しているので、特に名前は考えていません。おそらく最後まで名前が出てくる事は無いような気もしますが、本人の扱いについてはちょっと思いついた事があるので、当初の予定とは全く違うオチになると思います。