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-キャンプのちファイヤー-
周囲は薄闇に包まれつつあった。さすがに暗がりの中の登山は危険なので、俺は山の斜面に適当な岩陰を見つけ、そこを今夜のキャンプ地とすることに決めた。ここならば強風や、山頂が火を噴いた時に降る火の粉から逃れることもできるだろう。
ただ、標高の高い山の上だから、そりゃあ夜は冷える。出来れば焚き火でもして暖を取りたい所だが、確か森林限界とか言ったか。周囲は既に樹木が生育できるような標高ではなく、燃やせるような枯れ枝などは無い。
まあ、あったとしても山頂から吹き上がった炎の火の粉を浴びて、とっくに燃え尽きていたかもしれないが……。実際、草程度ならまだあってもいいはずなのだが、周囲には黒くなった地面以外は見当たらなかった。
だから俺は、持ってきた毛布にくるまって、さっさと眠ることにした。……そういや、あの女はどうしたかな……。この暗闇じゃ、姿を確認することも難しいし……気にしても仕方がないか……。
「……!」
どれだけ眠っただろうか。俺は突然の震動を感じて目を覚ました。周囲は既に明るかったが、それは日の出を迎えたからではなく、山頂から噴いた火が周囲を照らし出している所為だた。俺は万が一に備えて身構える。
「やべぇ……!」
俺は思わずそんなつぶやきを漏らす。間近から見るその光景は、とてもこの世の物とは思えない。こんな巨大な炎があってたまるか……!! それはもう、見ているだけで生命の危険を感じるほどだった。
しかし実際の所、まだ数百mは山頂から離れている筈なのに、周囲の気温が数度は上昇したように感じる。あの火がほんの少しこちらへ向けば、俺はあっさりと焼死するに違いない。正直、このまま逃げ帰りたい気分だ。だが──、
「あれは……!」
山頂よりの山肌から光が見えていた。もしかして、あれが竜が潜むという洞窟か? 火口と繋がっているというから、そこから火の光が漏れ出ているのかもしれない。
目の前に目標の物がある──。その事実が俺を突き動かした。
慌てて荷物をまとめ、俺は洞窟と思われる場所へと向けて登り始めた。山頂の炎はもう消えているが、幸い周囲は降り注いだ火の粉がまだ残っており、明かりには苦労しなかった。
とはいえ、急斜面でしかも火山灰に包まれた山肌だ。やはり足場は悪い。しかも、急いでいれば尚更足を踏み外す危険性があった。だから俺は、細心の注意を払って歩みを進めていたのだが──、
「あっ」
それでも滑る足。重い荷物を背負った身体の重心は後ろに傾き、そのまま背中から後ろに倒れ込みそうになる。そうなってしまえば、最悪俺は数百mも転がり落ち、当然命を失うことになるだろう。
だが、この状態から体勢を立て直すことなど不可能だ。出来るとすれば、一旦倒れた状態から、どうにか転がり落ちることを止める──それが出来なければ、俺の挑戦はここで終わる。そんな最後に納得できる物か! 俺は必死で足掻く。
「うおぉぉぉぉぉーっ……アレ?」
その時、俺の身体の傾きは止まる。
「なん……?」
振り返ると、あの女が俺の身体を支えていた。しかも片腕一本だけで。
「……やっぱりあんたみたいな奴には向かないな、この仕事」
女はそれだけを言い残して、俺を押し倒すように斜面へと取り付かせてから、さっさとあの洞窟へと向かった。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「……礼ならいらんぞ?」
「そうじゃなくてっ!」
俺にはこの仕事が向かないってどういう意味だよ!? チビでガキだって言いたいのか!?
女を問い詰めて文句を言いたいのは勿論だが、このまま先を越される訳にもいかない。
俺は慌てて女の背中を追った。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。
-キャンプのちファイヤー-
周囲は薄闇に包まれつつあった。さすがに暗がりの中の登山は危険なので、俺は山の斜面に適当な岩陰を見つけ、そこを今夜のキャンプ地とすることに決めた。ここならば強風や、山頂が火を噴いた時に降る火の粉から逃れることもできるだろう。
ただ、標高の高い山の上だから、そりゃあ夜は冷える。出来れば焚き火でもして暖を取りたい所だが、確か森林限界とか言ったか。周囲は既に樹木が生育できるような標高ではなく、燃やせるような枯れ枝などは無い。
まあ、あったとしても山頂から吹き上がった炎の火の粉を浴びて、とっくに燃え尽きていたかもしれないが……。実際、草程度ならまだあってもいいはずなのだが、周囲には黒くなった地面以外は見当たらなかった。
だから俺は、持ってきた毛布にくるまって、さっさと眠ることにした。……そういや、あの女はどうしたかな……。この暗闇じゃ、姿を確認することも難しいし……気にしても仕方がないか……。
「……!」
どれだけ眠っただろうか。俺は突然の震動を感じて目を覚ました。周囲は既に明るかったが、それは日の出を迎えたからではなく、山頂から噴いた火が周囲を照らし出している所為だた。俺は万が一に備えて身構える。
「やべぇ……!」
俺は思わずそんなつぶやきを漏らす。間近から見るその光景は、とてもこの世の物とは思えない。こんな巨大な炎があってたまるか……!! それはもう、見ているだけで生命の危険を感じるほどだった。
しかし実際の所、まだ数百mは山頂から離れている筈なのに、周囲の気温が数度は上昇したように感じる。あの火がほんの少しこちらへ向けば、俺はあっさりと焼死するに違いない。正直、このまま逃げ帰りたい気分だ。だが──、
「あれは……!」
山頂よりの山肌から光が見えていた。もしかして、あれが竜が潜むという洞窟か? 火口と繋がっているというから、そこから火の光が漏れ出ているのかもしれない。
目の前に目標の物がある──。その事実が俺を突き動かした。
慌てて荷物をまとめ、俺は洞窟と思われる場所へと向けて登り始めた。山頂の炎はもう消えているが、幸い周囲は降り注いだ火の粉がまだ残っており、明かりには苦労しなかった。
とはいえ、急斜面でしかも火山灰に包まれた山肌だ。やはり足場は悪い。しかも、急いでいれば尚更足を踏み外す危険性があった。だから俺は、細心の注意を払って歩みを進めていたのだが──、
「あっ」
それでも滑る足。重い荷物を背負った身体の重心は後ろに傾き、そのまま背中から後ろに倒れ込みそうになる。そうなってしまえば、最悪俺は数百mも転がり落ち、当然命を失うことになるだろう。
だが、この状態から体勢を立て直すことなど不可能だ。出来るとすれば、一旦倒れた状態から、どうにか転がり落ちることを止める──それが出来なければ、俺の挑戦はここで終わる。そんな最後に納得できる物か! 俺は必死で足掻く。
「うおぉぉぉぉぉーっ……アレ?」
その時、俺の身体の傾きは止まる。
「なん……?」
振り返ると、あの女が俺の身体を支えていた。しかも片腕一本だけで。
「……やっぱりあんたみたいな奴には向かないな、この仕事」
女はそれだけを言い残して、俺を押し倒すように斜面へと取り付かせてから、さっさとあの洞窟へと向かった。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「……礼ならいらんぞ?」
「そうじゃなくてっ!」
俺にはこの仕事が向かないってどういう意味だよ!? チビでガキだって言いたいのか!?
女を問い詰めて文句を言いたいのは勿論だが、このまま先を越される訳にもいかない。
俺は慌てて女の背中を追った。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。