江戸前ラノベ支店

わたくし江戸まさひろの小説の置き場です。
ここで公開した作品を、後日「小説家になろう」で公開する場合もあります。

斬竜剣外伝・亡国の灯-あとがき。

2015年12月26日 01時16分52秒 | 斬竜剣
 ども、江戸まさひろです。これを読んでいる人が本編を読んでいるのかどうかは分かりませんが、ここを読んで「興味を持ったのでこれから本編を読む」というパターンでも全然OK。ただ、微妙にネタバレ要素が入っているかもしれないので、その辺は注意。


 ハイ、外伝の1作目はこれにて終了です。やはりある程度の〆切りを設定して描き下ろすスタイルはなかなか難しい物がありましたねぇ。とにかく、何度も読み返して熟考する事が出来ないのもそうですが、ある程度の時間を放置して客観視出来るようになってから修正を加えるという事が出来ないので、必ずしも満足の行く物に仕上げる事は出来ませんでした。たぶん、何らかの形でこの外伝をまとめる機会があれば、大幅に加筆修正する事になるだろうなぁ……と思います。

 ちなみにサエンとレクリオの子で、ザンの腹違いの兄ですが、彼がザンやベーオルフに出会う事はたぶん無かったと思います。しかし、その子孫達が知らず知らずの内に出会っている事はあったのかもしれません。また、トスラック王国の再興の物語については、ぼんやりとイメージはあるのだけれど、描く事があるのかどうかはまだ未定。少なくとも描くとしたら『斬竜剣』の外伝ではなく、独立した1本の作品としてでしょうねぇ。

 さて、次の外伝は今回とはちょっと違う雰囲気の話にしてみたいと思っていますが、もしかしたら文体を変えるかも……。いや、まだ未定だけどね。ただ、『斬竜剣』の登場人物が出てくる事は間違いないけれど、ちょっと脇役みたいな扱いになるかもしれません。

 ともかく、次回作の「火の山」にご期待ください……って、年内に公開する事は難しいが……。

斬竜剣外伝・亡国の灯-第13回。

2015年12月23日 00時38分10秒 | 斬竜剣
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-国の灯火-

 全てを終えたサエンは取り敢えず城外にを出て、適当な場所で休息を取るつもりであった。さすがに死者が無数に眠るこの城では落ち着けないと考えたようだ。だが、後に続くレクリオは、
「で、宝物庫は何処?」
 と、彼に問う。さすがに母子の別れの直後は空気を読んで、暫くの間感傷に浸る時間を与えたが、貰うべき報酬は貰わなければ生活が成り立たない。
「ああ……そのことなんだがな……」
 しかしサエンは、少し言い難そうにその提案を口にした。
「あんた、今回の報酬を俺に投資してみる気は無いか?」
「は?」
 サエンの言葉にレクリオの目が鋭く釣り上がる。まさか自分を上手いこと言いくるめて、財宝を独り占めするつもりなのではないか──と。
 だが、サエンの目は真剣で、
「俺はこの国を再興したい。その為には資金は多い方がいい。上手くいけばあんただって、建国メンバーとしての高い地位と領地、そして莫大な財産を手に入れる事ができる。……どうだ?」
 と、レクリオに持ち掛けた。当然、彼女は懐疑的である。
「はぁ~? そんな美味しい話がある訳無いでしょ! 再興するったって、こんな悪い噂の立った廃墟になんか人が集まる筈がないし、そもそも膨大な量の遺体をどうやって片付けるのよ?」
 そんなレクリオの指摘も尤もであった。まだまだ迷信深い者が多いこの時代、不吉な歴史のある土地に人を集めることは難しい。国どころか町を興すことさえ困難なことだろう。かつての国民の遺体の処理だって、万単位のそれを普通に埋葬しようとすれば、年単位の時間を要するかもしれない。
 しかし、サエンはレクリオの指摘については対策を用意しているようで、余裕の表情である。
「いや、遺体については、あの馬鹿親共がこの城に遺体を集めたお陰で、高位の僧侶(プリースト)を雇って浄化の術で清めて貰えばんなに時間もかからないだろうさ。最悪、この城を燃やしてしまえばどうとでもなる。それにこの王都は海に面していて、大きな港もあった」
 サエンの考えでは、港を整備し直して他の大陸との貿易を再開すれば、なんだかんだで雇用が生まれるので人が集まる筈だし、トスラックの悪い噂を知らない遠い土地の人々の移住も期待できるという。
 勿論、そんなサエンの計画が全て上手くいく保証は無いし、彼が想定していない問題も多々あるだろう。しかし──、
「ん~、そこまで言うのなら、私が数十年は遊んで暮らせるだけの財産以外は、投資してみるのもいいけど……」
 どのみち、城の財宝の半分を手に入れたところで、レクリオ独りで莫大な富を使い切るのは難しい。ならば、遊ばせてある資金を有効活用するのも悪くない。それに彼女は、このまま冒険者を引退して隠居生活を送るという人生ではつまらないと思っている。ここは更なる高みを目指してみるのもいいかもしれない。
 そんなレクリオの言葉にサエンは喜色を浮かべる。
「マジか! でも本当にいいのか? こんな胡散臭い話に……?」
「本当に胡散臭い奴はそういうことを言わないでしょーよ。むしろ私なんかが建国メンバーでいいのか?……って話なんだけど」
 レクリオとて身の上のよく分からない冒険者だし、サエンとだって信頼関係を築けるほど長い付き合いでもない。
「いや……あんたは信用できるからな……」
「え、なんで?」
 確かにレクリオは、サエンに悪魔を倒す為の方法を伝えて助けはしたが、それは彼女自身が助かる為の物でもあり、果たして信用を得られる程の物であったのだろうか。だが、サエンにとってはそれこそが充分な理由になっていた。
「まあ……その、さっきは色々とあんたのことも見えたし……」
「えっ」
 レクリオはノルンの記憶と想いだけをサエンへと届けたつもりだった。しかし、その中にはレクリオ自身のそれも混ざってしまっていたらしい。 そしてそれは、サエンにとって彼女の人柄を信用するに値する物だと判断させるだけのものだったのだ。
「はぁーっ!? なに勝手に覗いているのよ、このエロガキっ!」
「ちょっ、勝手に見せたのはあんただろ!?」
「それでも、乙女の秘密を秘密を覗き見たんだから、万死に値する!」
「乙女って年齢か……?」
「……よし、そこへなおれ、殴る!」
 二人が始めた言い争いは当分の間終わりそうにはなかった。だが、それは2人の間に遠慮が無いからなのかもしれない。そういう意味では相性がいい二人なのだろう。

 事実、後にサエンとレクリオは、再建されたトスラック王国の国王と王妃になった。

 そして更に時は流れ──。

 炎に包まれた街。
 逃げまどう人々。
 その上空を嘲笑うかのように泳ぐ竜の群れ。
 崩れかけた王城。
 折り重なる死体、死体、死体の山。
 そして、彼の手の中で息も絶え絶えの女性は──、
「大丈夫……私達の子供は……逃がすことができた……から」
 それだけを言い残して、永遠に口を閉ざした。
「レク……っ!!」
 怒りに燃える男は、女性の遺体を静かに床に下ろしてから、愛剣を引き抜き背後へと向き直る。
 そこには、黒く巨大な生物の姿があった。
 おそらく勝ち目は無い──かつて戦ったことがある悪魔以上に強大な敵である。
 だがそれでも、男の怒りの炎は彼を突き動かす。
 これが後に「斬竜王」と呼ばれる男の、人としての最後の戦いであった。

 この時滅びたトスラック王国は、後に生き延びた王子によって三度再興されることになるが、それはまた別の物語である。
 ただ、その国の灯火は、今度こそ長い年月の間消えることは無かったという。

                                                              亡国の灯-完


 あとがきへ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

執筆日記。

2015年12月19日 12時08分37秒 | 日記
 ども、江戸まさひろです。
 さて、そろそろ次の外伝の準備をしなければならない訳ですが、これから先は漠然としたイメージはあるものの、細かい所は全く考えていないので、かなり行き当たりばったりになるかと思います。アイデアを出すこと自体はそんなに難しくはないのだけれど、それが面白いか、あるいは前後の展開との整合性がとれているかは別問題なので、その辺をまとめるのは苦労しそうですねぇ。
 なお、次のエピソードは淡々とした内容にしたいと思っているので、派手な展開は無し。

斬竜剣のおまけマンガ29。

2015年12月16日 01時51分04秒 | おまけマンガ
 ここでは『斬竜剣』のおまけマンガを公開します。

 本編や続編のネタバレを含む事がありますので、それが嫌な人にもスルー推奨。











     
      

 ノルンは元々は箱入り娘だったので、結構天然系でした。あと、巨乳。それが国王に見初められた理由の一つですね。

斬竜剣外伝・亡国の灯-第12回。

2015年12月13日 01時17分54秒 | 斬竜剣
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-消える想い、消えない想い- 

  ノルンの意識に触れたレクリオは、流れ込んでくる断片的な記憶から、先程までの彼女が語っていた言葉に嘘偽りが無いことを知った。バンカーのそれとは違い、彼女は純粋に愛する男と息子のことを想い、そしてその行方を捜し回っていた。そこから生じた結果はとても認められるものではないが、その強い想いには共感できる部分もある。
 レクリオは人間との混血であるが故に、故郷(ふるさと)のエルフの里とは様々な軋轢もあった。そんな彼女を庇い続けたのは母であり、その強い愛情をノルンは思い出させたのである。
 だが、サエンはそんなノルンの想いを知らずに育った。レクリオにはそれが酷く寂しいことのように思える。だから──、
(この記憶をあいつに届ける!)
 自らを中継して、ノルンの想いをサエンに見せることを試みた。勿論、彼女が知り得たノルンの弱点と思われる部分の情報も含めて──だ。それは母の愛情を実感した瞬間に、その母を斬らなければならないという結末を招く、酷く残酷な行為なのかもしれない。あるいはサエンに迷いを生じさせ、バンカーに利する結果になる可能性もある。
 だが、ノルンが消滅してしまえば、記憶の中継は不可能になる。このまま何も知らずに終ってしまうのでは、あまりにも母子が不憫だとレクリオは思ったのである。
「──!!」
 そしていざ中継を行った結果、サエンの動きは止まった。唐突な精神への干渉を受け、茫然自失となってしまったのだろうか。そんな彼へバンカーの魔法攻撃が襲いかかる。
「やばっ!?」
 事態を悪化させてしまった──と、慌てるレクリオ。しかし、サエンは振り返ることもなく、
「……ったく、余計な真似を……」
 それだけを呟いて、襲いかかる魔法を剣で振り払う。すると、魔法は幻の如く霧散した。
「……もうあんたの顔を見るのが嫌になった。そろそろ消えてくれや、親父!」
 そんなサエンの言葉で、レクリオは自身の試みが成功したことを知った。しかし、空中にいるバンカーを斬る手段がサエンにあるのかどうか、それが問題だ。事実、バンカーも、
《クックック……る消えるのはどちらの方だぁ? いや、お前も我が死者の国の一員として、永遠に苦しんで貰おうかぁ?》
 余裕の態度を崩してはいない。
「そいつは、御免だ……なっ!」
 その時レクリオは、吹き抜ける突風が如き音を聞いた。その直後、バンカーの方から衝撃が伝わって来る。
《グオッ!?》
 そして再び風切り音。サエンの凄まじい斬撃が衝撃波を発生させ、それが空中にいるバンカーに炸裂したのである。剣術の奥義の1つとされる「烈風刃」──達人の放つそれは、遠く離れた位置にいる複数の敵を同時に斬ることも可能だという。
 だが、強靱な皮膚を持つ悪魔の肉体を破壊するには至らない。それは、サエンが「烈風刃」を何発撃ち込んでも同じことだろう。ただ、比較的厚味が無い翼の皮膜ならば、多少の穴を開けることくらいはできる。しかし──、
《これで、叩き落とすつもりかぁ? だが、この程度では無理だなぁ!》
 バンカーは空中でよろめき、わずかに高度を落としはしたが、墜落には至っていない。これではサエンの剣で直接斬り、トドメを刺すことはできないのだ。しかし、それは彼も承知の上である。
「……動きが鈍っただけで、充分だ!」
「なっ!?」
 レクリオは目を疑った。サエンは自らの身体を独楽(こま)のように回転させ、その回転力を利用して、大降りの「烈風刃」を放つ。しかし彼の回転はそれだけでは留まらず、更にもう一回りして再び「烈風刃」を放つのかと思いきや、あろうことか手にした剣を投げ放ったのである。
 そして剣は、先に放った「烈風刃」に追いついてその衝撃波を取り込む。衝撃波と剣の刀身を同時に敵へと炸裂させる「烈風刃」の上位技、「疾風刃」の変則技であった。
 その「疾風刃」の切っ先が吸い込まれていったのは、バンカーの胸部の下に埋もれた、ノルン額に輝く大粒の宝石をあしらえた装飾品である。これこそがバンカーの呪いが結晶化したものであり、死してなお彼女を動かし続けた力の源であった。
《ガアァ────!!!?》
 弱点を貫かれたバンカーは、堪らずに墜落を始める。だが、サエンは地に落ちるまで待たない。手に届くところまでバンカーが落ちてきたと見るやいなや彼は高く跳躍し、未だバンカーに突き刺さったままの剣に手をかけ、そしてそのまま悪魔の巨体を引き摺り落とすかの如く、強引に斬り下げた。
《アアアアアァァァァァ貴様ァァァァァァァァァァ!!》
 半ば真っ二つになって床に叩き付けられたバンカーの身体は、まるで腐り落ちるかのように急速に朽ちていく。そして、その中から露出したノルンの身体もまた、この15年間止まっていた時が動き出したのか、瞬時に白骨化していった。しかし──、
「……!!」
 ノルンが朽ち始める寸前、サエンには彼女が少しだけ微笑んだかのように見えた。彼の剣によって額から切り裂かれ、無惨な傷痕が残る顔であったが、それは何故かとても美しく、彼は思わず手を差し出しかけ──、
「…………」
 だが、その手は途中で止まり、朽ちて消えゆく母の姿を、サエンは為す術無く見送るしかなかった。そんな彼の寂しげな背を、レクリオは静かに見守っている。
 これでついにかつてのトスラック王国は完全に滅びた。

 そして──。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。