江戸前ラノベ支店

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斬竜剣外伝・騎士の在り方-第9回。

2017年09月02日 23時51分48秒 | 斬竜剣
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食糧問題の解決策

 ショーンは追いついてきたシグルーンの存在に気付いてはいたが、今更泣き顔を取り繕うのも潔(いさぎよ)くないと思い、涙は流れるに任せた。そして落ち着くと彼は、
「申し訳ありません、見苦しい所を見せてしまいました」
 と、照れ笑いを浮かべながら詫びた。
 シグルーンはそれを柔らかい微笑みで受け止めた。この飾らなさは好ましいと彼女は思う。不必要に高い誇り(プライド)は、時として己を縛る。信念があるのはいい。だが、それにこだわりすぎて判断を誤るのでは元も子もないのだ。
 その点ショーンは、まだ柔軟性があり、その若さが故に伸びしろもある。今後の成長が楽しみだとシグルーンは思う。だから、彼に妙案を与える。
「さて……今後の方針だけど、以前ウタラの問題はウタラ自身で解決すべきだと言ったわね?」
「ハイ……しかし街の状況を見た限り、民の方から何かできるとは……」
「そうね、少なくとも食料の自給に関しては、作れば作るだけ重税を課されて、更に貧しくなるだけなんだもの、みんな無駄だと思っているわね」
 それならば、やはり元凶であるウタラの王政を打倒するしかないのか──ショーンは暗澹たる気分に陥る。だが、シグルーンは、
「だから私達が少しだけ手助けをしてやる必要があるわ。ねぇ少年、その辺に転がっている石に価値があると思う?」
 と、問う。ショーンはその意図が読めずにポカンとする。
「は?」
「所有することで財産となり、徴税の対象になり得るか……という意味よ?」
「それは……その中身に貴金属が含まれているということでもなければ無理なのでは……? 何処にでも有る石ならば誰も欲しがらないですし、ほぼ無価値です」
「そうね。過去には何処にでも有り、生きる為に絶対必要な空気を呼吸する行為に対してすら税をかけた頭のおかしい君主もいなかった訳ではないけれど、通常はそこまでしないわ。
 物の価値というのは、稀少だからこそ多くの人間が欲し、その結果価値を高めるのよ。逆に誰もが手に入れられる物の価値が低いし、課税の対象外になるわ。そんな物にわざわざ重税を課せば、さすがに民も生きていけないと反発するからね。かといってその価値に見合う低税にすれば、税を徴収する過程でそれ以上のコストがかかってしまうのよね」
「……! つまり、ウタラの民が得る食料が、租税の対象にならないほどありふれた物にすればいいということですか!?」
 ショーンの答えにシグルーンは満足げに頷く。だが、ショーンの顔はまだ納得していない風であった。自分自身で答えておいてなんだが、そんな都合のいい食物があれば、この世から食糧危機なんて問題はとっくに払拭されている筈だ。
「あ~、少年の言いたいことも分かるわよ? でも、正直不味いのよねぇ……アレ」
「……不味い……のですか」
 シグルーンの意外な答えに、ショーンはわずかに脱力した。
「そう、その上栄養価もそんなに高くないから、あくまで餓死を防ぐ為のその場凌ぎにしかならないというか……。通常の市場で取引されるようになるまでには、もっと品種改良しないと駄目な代物なのよ」
「でも、あるのですね? このウタラの状況を少しは改善出来そうな物が!」
「ええ」
 ショーンの瞳に希望の色が灯る。この世の地獄とも言えるこのウタラの現状を打ち破る突破口があるのならば、それは純粋に喜ばしいことであった。
「それで、それは一体どのような食べ物なのですか?」
 子供のように──実際に子供とも言える年齢だが──急かすショーンの姿に、シグルーンは湧き上がった頭を撫で回したくなる衝動を抑えながら、また何処からともなく植物の苗を取り出した。
 それは何処かホウレンソウに似た植物であったが、その葉の裏に5mm程度の無数の何かが木の枝になる果実のようにぶら下がっているのが確認できた。
 それをよく見れば、苗の姿をそのまま小さくした物のように見える。
「これは……子株なのですか?」
「そう、葉の裏に大量の子株を付けて、短期間で爆発的に増えるわ。場合によっては親株に繋がった子株の状態の時から更に子株……いや孫株と言うべきかしらね、それを付けることすらある。
 しかも荒れた土地の少ない水でも育つから、本当に増やすのは簡単なのよ。この繁殖力に優れた植物は、名付けるなら緑の工場(グリーンプラント)って所ね!」
 シグルーンが自慢げにその植物を頭上高く掲げた。この奇妙な植物こそが、このウタラを革新的に変える救い主となるかもしれない物であった。
 それがショーンの目には、沈みかけた太陽の朱色にに照らされて、どことなく神聖な雰囲気を帯びてるようにも見えた。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。


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