プロメテウスの政治経済コラム

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なぜいま「一括交付金」?  「地域主権」論の陥穽  「福祉国家型の地方自治」とは何か

2010-09-16 20:59:06 | 政治経済
国の財政危機の中で、民主党代表選でも「地方向け補助金の一括交付金化」が論議の焦点となった。「一括交付金」は菅・民主党政権が推し進めようとしている「地域主権」論と密接にかかわっている。国からの「ひも付き補助金」をやめて、「一括交付金」にすれば地方が財源を自主的に使えて「地域主権」の要求に叶うというわけだ。
民主党政権が掲げる「地域主権」戦略の本質はなにか。われわれが目指す新福祉国家のもとでの地方自治とどこが違うのか。市民が自分たちで自由に意思決定して、国に依存することなく自治体を運営することはいいことではないか。一見市民の共感を集め、市民運動の担い手にも受け入れられやすいように思われる。
しかし、この手の古典的市民自治論には、全国規模での福祉国家の機能を弱体化するという重大な陥穽がある。古典的な市民自治と、憲法に基づく福祉国家的地方自治とは明確に区別する必要がある(社会保障の分権的解体を露骨に主張する大阪の橋下知事や財界は論外として)

 財界の「構造改革」要求とは何か。端的に言えば、国際競争力強化の名による、第一は労働者、下請中小企業などに対する搾取・収奪強化を自由に行える法的規制の緩和・撤廃であり、第二は企業の負担軽減のための税制(法人税の引き下げ、消費税増税など)、財政支出(社会保障、医療費、教育費など)の削減である。
財政支出の削減のためには、2010年度予算で21兆円を占める国からの地方への補助金・負担金を「一括交付金」の名のもとにバッサリカットすることである。民主党代表選の中で小沢一郎・前幹事長が、財源を生み出す「一番有効な手段」だとして盛んに喧伝した。
しかし、一括交付金化で補助金を削減するのは小沢氏に限らず、民主党のもともとの方針である。菅政権は、参議院選挙を前に、新成長戦略(6月18日)、地域主権戦略大綱(6月22日)、財政運営戦略(6月22日)の3つを閣議決定した。
「地域主権戦略大綱」では、福祉などの最低基準を定めた「枠付け・義務付け」を廃止・見直し、来年度から地方に対する補助金を一括交付金に改めていくことを打ち出した。

 福祉などの最低基準を定めた「枠付け・義務付け」は本当に、地方の自主性を奪い、住民自治に反することなのか。社会保障、教育、福祉の分野での「枠付け・義務付け」は、健康で文化的な最低限の生活を国民に保障する国家の責任を明確にしたものである。「枠付け・義務付け」を廃止・見直することの本質は、全国レベルの福祉国家を縮小・解体する「小さな政府」論にほかならない。一括交付金化して地方が自由に使える財源を増やすのではなく、補助金を削減するのが狙いなのだから、これで地方自治権が拡大するはずがない。責任を押し付けられた基礎自治体は、コスト削減のために民営化に走り、非正規雇用が拡大し、住民へのナショナルミニマム保障は切り下げられるだけである。
大阪橋下、名古屋河村型構造改革の全国化である。

 橋下知事は、地域主権戦略会議でアジアの競争に打ち勝つ「広域地方政府」(=関西州)をつくる、広域地方政府に支援のターゲットを絞って集中し、住民に近い部分は、20~30万人規模の「基礎的地方政府」にして、教育や福祉はそちらに移すことを提唱した。この2年間、橋下知事がやってきたことは、その下準備である。教育・福祉のリストラを大幅に進め、浮いた財源は、多国籍企業の活動を支える大規模開発に回すという方向である。

 「地域主権」と「住民主権」は似ても似つかない。主権は国民=人にあるのであって、人ではない「地域」に主権を与えるとはどういうことか。市町村、都道府県、道州制など地域の範囲を自由に変更することを狙ったのだろうが、乱暴で無内容な概念である。
本来、地方自治というのは、住民の主権が発揮でき、一人ひとりの生活と基本的人権を保障することである。そして、憲法のもとでの地方自治というのは、教育権、生存権の保障といったナショナルミニマム保障と不可分のものである。自分たちで自由に意思決定すれば、それでよいというようなプリミティブな古典的市民自治ではない。
ナショナルミニマム保障は、憲法が定めた国の責任であって、これを自治体といえどもおろそかにできない。自治体の自由はそのうえでの裁量なのだ。
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