プロメテウスの政治経済コラム

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「役員賞与」が消えた?  もう一つの隠れた大企業減税のからくり

2007-10-21 20:51:39 | 政治経済

友寄さんは、06年度の役員賞与が「0」となっている理由を、財務省の担当者に電話で問い合わせてみた。法人企業統計の調査担当者の回答は、次のようなものだった「新会社法(06年施行)にともない、役員賞与は利益扱いでなく費用扱いになり、利益欄の『賞与』項目はなくなったのです」、「では、費用欄に『賞与』は出ていますか」、「いや、新しい会計基準では、従来の役員賞与は名称を変えて給与に一元化され、法人企業統計でも役員給与としか出てきません」(「しんぶん赤旗」10月19日)。
賞与が役員給与に含まれたにしろ、正しく開示されていれば、役員数で割って一人当たり役員報酬をつかむことも可能である。しかし、「役員賞与」は、どうも06年度統計から消されてしまったようだ。05年に6,127億円あった役員賞与が「役員給与」に含まれたら、役員給与が増えるはずなのに、05年度に9,327億円だった「役員給与」が06度には9,309億円に逆に減少しているのだ。しかし、個別企業の調査では、上位百社のうち役員報酬を増やした企業が67%もあり、最高額の日産自動車の場合、役員一人平均2億7980万円にまで膨らんでいるのだ(「日経」8月28日付)。友寄さんは、次のように結論付けている。「先の統計担当者によると、07年度からは、賞与を別記する調査票に改定するとのことですが、少なくとも06年度の実態は、法人企業統計から隠されてしまったのです」(「しんぶん赤旗」同上)。

役員賞与については従来、利益処分案に係る総会承認決議(商法283条第1項)により支給される実務慣行が定着していた。税務においても利益処分・役員賞与は、当然に課税対象になり、法人税が課税されてきた。ただ、最近の実務界では、損金算入(費用処理)できる役員報酬枠(毎月の給与のこと)を増やし、利益処分・賞与を減らす方が節税になり、また対従業員対策からも利益処分案は、計算書類の一環として開示されるので、賞与部分を小さく見せることが一般的に行われていた。ところが新会社法は、利益処分案そのものを廃止し、役員賞与を役員報酬等として、給与や職務遂行の対価として会社から受けるその他の財産上の利益と同じく一本化してしまった(会社法361条第1項)。
これを受けて、企業会計基準委員会は、早速「役員賞与に関する会計基準」(平成17年11月29日)を定め、「役員賞与」は、発生した会計期間の費用として処理すること。したがって、会計基準適用後は、役員賞与を剰余金の額の減少として処理することはできないとした。役員給与も賞与も役員報酬であり、その費用性において区別しなということが、税法の外堀を埋める形でオーソライズされてしまったのだ。


こうなると、役員賞与に課税することは、財務省主税局もできない平成18年4月1日以後に開始する事業年度からの取扱いは次の通り、実態はすべて損金算入となってしまった。(1)定期同額給与(2)事前確定届出給与(3)一定要件の利益連動給与はすべて損金算入可能となったのだ。賞与を月割りして毎月の給与に上乗せするが(1)であり、従業員と同じように年2回、夏、冬ボーナスとする場合に、定時株主総会(3月決算の会社は6月が多い)までに税務署に届け出るのが(2)である。
05年度に6127億円だった大企業の役員賞与は、実態的には06年度は一兆円前後に増えていると思われる。その「損金算入」による減税効果はどのくらいなのか。大雑把に計算すると一兆円の役員賞与が、もし全額「損金算入」されたとしたら、法人税率が30%なので3千億円の大減税である(友寄「しんぶん赤旗」同上)。
日本経団連の「平成十八年度税制改正提言」での「法人税制においては、これまで損金不算入とされている役員賞与について、損金算入を認めるべきだ」という要求は、こうして新会社法、企業会計基準委員会、財務省主税局合作によって実現されたのだ


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