プロメテウスの政治経済コラム

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シベリア抑留者は「捕虜」でない!?―10万円の「旅行券」支給で幕

2006-12-18 18:20:38 | 政治経済
シベリア抑留とは、アジア太平洋戦争末期にソビエト連邦軍の満州侵攻によって生じた日本人捕虜(民間人、当時日本国籍者であった朝鮮人などを含む)を、主にシベリアやモンゴルなどに抑留し、強制労働に使役したことを指す。国際法上、捕虜として抑留された国で働いた賃金は、帰国時に証明書を持ち帰れば、その捕虜の所属国が支払うことになっている。日本政府は、南方地域で米英の捕虜になった日本兵に対しては、個人計算カード(労働証明書)に基き賃金を支払った。しかし、ソ連は抑留者に労働証明書を発行せず、日本政府はそれを理由に賃金を支払わなかった。1992年以後、ロシア政府は労働証明書を発行するようになったが、日本政府は未だに賃金支払を行っていない(Wikipedia「シベリア抑留」)。

問題がこじれた根本には、シベリア抑留者は「捕虜」なのか、「抑留者」なのかということがあるシベリア抑留者が未払い賃金を要求する根拠は、ヘーグ陸戦条約(1907年)を継承した1929年のジュネーブ条約、1949年の「捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーブ条約」(第三条約)に基づいている。ヘーグ条約とジュネーブ条約との違いは、ヘーグ条約では捕虜を抑留した国が「労働賃金」の決算をして、未払い分はその抑留国が支払うことになっているが、ジュネーブ条約では第66条において、抑留国が捕虜の貸方残高(未払い賃金)の証明書を出し、捕虜の所属国が「その残高を決裁する責任を負う」となっていることである。

ところが、日本政府はこれまで、「捕虜」なのか、「抑留者」なのかという点については国際法上の「捕虜」とは認めない立場に固執してきた(「抑留者」という概念は国際法にはない)。14日の参院総務委員会で日本共産党の吉川春子議員が「シベリア抑留者は捕虜になるのか」と質問したところ、政府の答弁は「捕虜といえるというふうには判断できない」(猪俣弘司・外務省国際法局審議官)ということである。吉川議員の言うとおり、「いちばん基礎となるべき概念について捕虜だといえないとは納得できない」。「捕虜ではなく、国際ルールにない抑留者などという言葉を法律であいまいに位置付けている。それがこの問題処理の誤りの原点だ」と言わざるを得ない(「しんぶん赤旗」2006年12月18日)。

裁判所も、シベリア抑留者の苦難は認めながらも、未払い賃金支払への法的根拠はないとして、もっぱら立法府に責任を預ける立場である。「シベリア抑留者の辛苦は前記のとおりであるが、第二次世界大戦によりほとんどすべての国民が様々な被害を受けたこと、その態様は多種、多様であって、その程度において極めて深刻なものが少なくないこともまた公知のところである。戦争中から戦後にかけての国の存亡にかかわる非常事態にあっては、国民のすべてが、多かれ少なかれ、その生命、身体、財産の犠牲を堪え忍ぶことを余儀なくされていたのであって、これらの犠牲は、いずれも戦争犠牲ないし戦争損害として、国民のひとしく受忍しなければならなかったところであり、これらの戦争損害に対する補償は憲法の右各条項の予想しないところというべきである。・・・これについては、国家財政、社会経済、戦争によって国民が被った被害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたものと解するのが相当である」(最判平9.3.13=平9重判憲法5)。

抑留経験者らでつくる全国抑留者補償協議会(全抑協)会長で宇都宮市の寺内良雄さん(82)は「ただ金がほしいのではないが、賃金が未払いのままでは『奴隷』と同じ。このままあの世に旅立ちたくない」と今後も運動を続ける意向だという(毎日新聞 12月8日10時5分)。政府は「『慰謝』はするが『謝罪』はしない」(管義偉総務相)などとわけのわからないことを言い続けている。

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