プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

社保庁分割・解体を巡る疑問、問題点―職員をいじめるだけでよいのか

2006-12-19 18:34:35 | 政治経済
政府・与党の社会保険庁の分割・解体案は、年金制度の運営責任や特別会計の管理、強制徴収の権限は厚生労働省が持つが、保険料の徴収や年金の給付、年金相談などの実務全般は社保庁の後継組織となる非公務員型の公法人が担い、それもできるだけ多くの業務を民間に委託しょうとするものである。政府・与党の社会保険庁「改革」方針は、国民が求めるもっとも肝心な点―年金制度の改善という本質をはずした上に、社会保障制度を後退させ、圧倒的多数の善意の職員の雇用破壊をすすめるもので、ムードに流されない慎重な検討が必要である。

政府・与党は、保険料の「不正免除」などを口実に、社保庁は「解体する以外にない」と叫んできた。しかし、問題の本質は、「保険料が高い」「年金額をあてにできない」という国民の年金制度に対する不信に対し、年金制度の改善についてきちっとした議論をすることであった。保険料の不正免除問題は、民間保険会社出身の長官がノルマ主義を持ち込み、収納率競争に職員を駆り立てるもとでおこった。「構造改革」路線で貧困層や不安定雇用が拡大したことが保険料納付率低下の要因となっていることも言うまでもない。政府・与党案はこの根本問題にメスを入れず、非公務員の法人にして国から分離し、給付や徴収、相談など業務全般を民間委託する方針を打ち出した。規制改革・民間開放推進会議の前議長オリックス宮内会長がかねてから要求していた民間信販・保険会社の参入に門戸を開くたくらみである。

問題は公的年金制度に対する国の責任である。すでに社保庁から分離し、「公法人」で運営する政府管掌健康保険では、都道府県単位で運営するため保険料の値上げや地域格差の問題が発生している。民間委託が拡大すると、人権無視の保険料徴収強化をはじめ、国が負担すべき人件費・事務費を保険料に負担させるなど国民負担増とサービス切り捨てが危ぐされる。国の責任後退の行き着く先は、年金財源確保の名による消費税増税や「報酬比例」部分の民営化策略である。これらは社会保険の解体につながりかねず、それはまさに、私的年金の市場拡大をねらう日米の保険業界の要求にこたえるものである(「しんぶん赤旗」2006年12月17日)。

年金問題を社保庁職員に対する怒りにすり替え、新組織移行にあたって「職員の引き継ぎ規定」を設けず、職員をいったん退職させて差別・選別採用をおこない、大規模な人員削減を実施しようとしていることも問題である。方針は「勤務態度が不良な職員は、降任、降格、免職などの措置を厳しく行う」など、懲罰的な色彩が濃いのもとなっている。非常勤を含めて二万八千人の圧倒的多数は善意の職員である。参院選挙に向けて「公務員減らしの“実績”」にしようという狙いを込めたものかもしれないが、私たちは、政府が先頭になって雇用不安をあおり「命令と服従」の人事管理を徹底することがやがて民間労働者へも波及するということを忘れてはならない。

2004年、「百年安心」をうたい文句に強行した自民・公明の「年金改革」は、保険料納付率や出生率の低下など早くも前提条件の破たんが指摘され、給付水準や年金支給年齢の再見直しなどが浮上せざるを得ない状況である。住民税や国保、介護保険料が大幅アップし、年金受給者はじめ高齢者の怒りも高まっている。年金制度の信頼性回復の本質議論を棚上げにして、社会保障破壊、雇用破壊と一体となった社保庁分割・解体を進めることは、国民にとって「百害あって一利なし」といわざるを得ない。
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