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第176話 「川とともに…」

友達から“自由訳・十勝日誌”が届く。「もう読んだので返さなくていい! 」と―。全訳したのを読むのは初めてである。

著者・松浦武四郎が蝦夷地探査を書き記したなかの、イシカリを出発し十勝岳を越えてトカチ入りし十勝川沿いに縦断して太平洋のオオツに到るあらすじをまとめた物語である。いたるところで川の名前が出てくる。○○○ナイ、○○○○ヌシ―と1ページ当たりに出てくる川名は10もあった。
アイヌは、自分たちの生活にかかわるモノ以外には名前をつけていない。十勝の川に限ると上の川、下の川そして鮭の産卵する川、カラス貝の沢山採れるところと、ひとまたぎで渡ることのできる小さな流れにもすべて名前が付いている。
地域間を行き来する交通路でもあり、食料や水すなわち命のいきものすべての源である川。武四郎は、道案内のアイヌと川筋を歩き名の謂われを聞き見たすべてを野帳に絵地図を入れて書記したといわれている。
読み終えてふと、子どものころ「十勝川本流まで探検しよう」と仲間3人で小さな流れに沿って本流を目指したときのことをおもいだした。

まばらだった河畔林は、気が付くと太い樹が林立する密林となっていて、太ももほどもある太いコクワやブドウ蔓が大蛇が這い登っているかのように絡まっている。遮る流れをズボンと長靴を脱ぎそれを頭に乗せて渡る。思ったより深くパンツを濡らすところもあったがわれら探検隊は元気よくどんどん進んだ。しかしついに、満々と真っ青な水をたたえた深い沼に行く手を遮られやむなく断念、仲間とほとりにへたり込む。
沼は相当深いはずなのに、灰褐色の泥底に半分埋まった白や薄水色の丸い石の一つひとつがはっきりとわかる。
すると、どこからともなく黒い大きな魚が悠然と現れた。ひとりが指差し“あっ”と声を上げる。と、一瞬で身を翻しスッスッスーとものすごい速さで森の奥に広がる闇へ消え、もわ~と灰色の泥が煙のように空き上がった。
ふと、ズボンのすそからむき出た脛に幅1㎝長さが3㎝ほどの泥が…ズボンを脱ぎ川を渡ったときからずぅーとついていたことに気付く。 “ヒルだ”と、指でつまみむしり取ったのを仲間が石で潰すとべちょっと赤黒い血が飛び散る。痛くもなんともないのに、痕から流れ出る血がしばらくは止まらなかった。

数日後噛まれた痕は化膿する。やがて3ミリほどの噴火口のような痕が残ったが今は何処だったのかも分からない。秋ごろで肌寒いのか、むしむしとしているのか!?その時々で光景は違っている。いまだに時折夢となって現れることがある。

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