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第102話 「端くれ」

漸く一区切りが付く。
1983(昭和58)年以来、十勝人としての思いから始まった十勝・ふるさと紀行が、いよいよすべての終焉を迎える。
いま “大団円で”と願い、最後の総仕上げにかかっている。

 振り返るとしみじみ、「よくここまで…」と思う。
もちろんわたし一人の力ではなく仲間をはじめ顧客の多大な理解と、なによりも歴代十数人の担当者の尽力はことさら大きい。
なんせ、海のものとも山のものともつかないわたしの話を信じ、ときに反対する上司も少なからずいたであろう。が、そこには様々な思惑が渦巻いていたにせよ、ここまで手を替え品を替えて予算化して来てくれたのだから―。
後付で「すべてを出しつくし、全力で…」とはいくらでもいえること。発露すると、この30年惰性で仕上げ納めてきたことも間々ある。
時に他の仕事と重なり幾度となく、「もうやめよう」と思ったことも。
その節々で、多くの人に助けられて何とかここまできたことに感謝はつきない。
よく先達から、「振り返るとあっという間の出来事―」と聞くがまったくそのとおりだ。
やりたいことはまだある。が、この最後の発刊『十勝あるき之図景/総集編』に思い残すものはない。
思い起こすと、8歳のとき担任の先生に誘われてはじめた蝶の採集と標本作りをとおし、すっかり十勝の自然のとりこになり、13歳のときクラブ顧問の先生に教わった先住民の遺跡発掘と調査でその視野は一気に広がって、ジャーナリストの世界に飛び込む。

以後40年、なんとかその端くれとして生き抜いてきた。

遺跡の発掘をしていていつも不思議に思ったことは、土器などの類がどれひとつ原形をとどめることはなく割れていることであった。最近得た情報では「縄文人は家族、仲間の死や何かの節目のとき、すべてを壊しゼロにして新しく生きる思想があった」とのこと。

いま少しづつ芽生えはじめている芽を育み、また新たなものを生み出していきたいと思っている。
この分野で、端くれとして生きてきた自負を持ってね―。

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第101話 「はたして!」


そろそろ山菜の時季、日当たりのいい川ふちにはフキノトウをはじめ、セリなどの目出しをみる。芽出しの天ぷらもまた絶品。今年はぜひ“芽だし山菜の掻揚で手打ちソバをたしなもう”と、仲間と約束している。

 昨年お目当ての山菜を探し、平野の雪がなくなるのを見計らいでかけたときのこと。途中ふと、ずいぶん昔のことだけど亡き叔父から「かつて、このあたりでは一番魚が多かった」と、聞いていたのをおもいだし、その川へハンドルを切った。
本流は小さな砂防ダムが連続し、ずーと上流までブルドーザーできれいにならされた河畔がつづく。橋の上から覗いても、いじくりまわした川に魚の気配はない。わたしには、魚などの生き物の気配のしない川に “良い山菜はない”と決めつけているところがありそれで、左岸につづく段丘の斜面に向った。すると、小さな支流がありヤブをかき分けて川縁に立ったが、ここも排水溝のように護岸がつづいていた。
かなり古いコンクリートの護岸はところどころ大水で岸が削り取られ、崩れて淀みや小さな淵ができていい雰囲気はある。目を凝らしながら歩きふと足が止まる。
そこには、もう何十年も見かけない懐かしいものが…カラス貝だ。
淀みの縁の砂の上に殻をひろげて伏せた状態で、拾い上げ手にとるとずしりと重い。陽光の当たり具合で、真珠のような光沢を放つまだしっかりと硬い殻の内側は、長いところで優に15cm以上もある。
“きっと生きているものがいる”と川の中を探したが、おいそれとは見つからなかった。
もっとも川上には落差が5メートルもある大きな砂防ダム、川下の本流との合流点から下は小さな砂防が連続している。だからこの貝は最後の生き残りかもしれない。それにしてもここまで大きくなるのに何年かったのだろう。一説には「サクラマスやオショロコマと共生関係にある」とある。が、サクラマスはもちろんのこと、うぐいやトンギョすらも見かけることのないこの川でよくぞここまで―。
長年シシャモの調査研究をしている人は、「いまの十勝川はウグイも激減し『死の川』に近づいている」という。しかし今年、久々に全面結氷した十勝川河口域で氷に穴をあけて釣る氷上釣りで、キュウリ、チカの大漁がつづいた。
それは実に10数年ぶりのことで釣った魚を山盛りにしてソリを引く釣り人の光景に「まるで氷下網漁を見たようだった」と、30~40キロ釣った話はざらだ。

 野生で生物の生きる目的は「種の存続」。少しでも条件が整うと一気に再生してくるしたたかさがそこにはある。
でもわたしたち人間に、果たしてそのしたたかな生命力は残っているのだろうか。

 

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