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第131話 「闘病記1.なんだこりゃ」


6時間に及んだ手術、無事に終わって、身体が一日一日順調に回復していくのを実感しだしたころ、「外泊して、元の生活に慣らしていきましょう」と主治医。<そろそろ退院だな!!>

先生方や看護師さんに、「あれだけの大手術だったんだから…元に戻すまでが大変だヨ」と、さんざん脅され!?ていた。が、外泊も、また3週間続いた病院食ご初めての外食も問題なく、むしろ久々の外の空気と仲間たちとの触れ合いや外飯の美味さに堪能した3日間だった。
すこし、足もとがおぼつかないような気もするが<コリャー早くも完璧だ。やはり日々の行いだなぁー>と―、廊下ですれ違う看護師さんも「もう普通の人だね」。翌朝の回診で先生は、「休み明けのどこかで退院の目途を決めましょう」。
その日の午後、女房と次女そして孫がどら焼きとクリームパン、コーヒーを持って来た。
胃の半分を切り取ったいまは、味が亡くなるまで何度も噛んでからようやく呑みこむ。あげく味のうすい病院食は、落した体力をつけ免疫力を回復させるためで、旨いとか美味しいとは別なので、差し入れはうれしい。
少しづつ、指で千切って口に入れるどら焼きは、いくらも噛まないうちに生地は溶けて中の粒餡とまじりあい、小豆の旨味と自然な甘さが口のなかで広がる。溶けた餡のなかから現れたかたちのある小豆は、噛み砕くとホクッとした豆の何とも言えないコクがさらに味を引き立てる。身体の調子の良さも手伝い話も弾み、瞬く間にほぼ一個を平らげ、次はクリームパンだ。
出来立ての軽く焦げた表面が香ばしく、それでいて生地の中はしっとり、かじるとすぐに濃厚なそれでいてくどくないクリームに到達する。これまた実に美味い!!
「そろそろやめといたら―」と、女房。<そうだった。まだ少量を、何回にも分けてしか食べられないのだ!>その日の夕食も完食し、女房が置いて行ったせんべい2枚と副食の濃厚ジュースを飲みほし満足感に浸り就寝する。
翌朝、朝食がなかなか進まない。が、<とにかく退院に向けて体力を―>との思いもあり全部食べ尽くす。そして間もなくのこと、何度もこみ上げる吐き気にがまんできずトイレに駆け込みもどす。それも3度…。
レントゲン写真を見ながら、「どんな物を食べました」と先生。そして「食べたものが消化されずに胃のなかで石灰化していますね」。その日からまた点滴がはじまり絶食、そして2日ご、先生が指す内視鏡検査の画面には、鶯色の綿毛にところどころ黒ゴマを散らしたものが、喉の奥から胃に到達するまでの間をびっしりと覆っていた。

<な・な・なんだコリャー>それがわたしには、風の谷のナウシカに出てくるカビに侵された“フカイの森”に見えた。
「カンジタ菌ですネ。まあ黴ですカビ…」残念ですが、退院は先送りですね。

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