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第166話 「そう云えば―」




ここしばらく台風の影響もあってか木枯らし模様の風が吹く。でも、雪が積もる前の木枯らしは冷たい風が身も心もその芯まで凍らせる。

そう云えば、そんな木枯らしにもう何十年も出合っていない気がするナ。

今から40年ほど前まではそんな木枯らしもへっちゃらで、どこへ行くにもビュービュー吹く冷たい風に向かって鼻水をすすり歩いて行ったものだ。着ているものと云えばメリヤスの上下下着に薄っぺらな夏ズボン。そしてセーターのうえはアノラック(化繊の布一枚で作られたいわゆる登山のヤッケ)一枚だった。
やがて雪が降り、積もるとまた一味違う寒さがやって来る。ピーンとする寒気がピシピシと音をたてるように、ズボンや上着の裾から忍び込み、長靴のなかの足なんかはもう感覚が無く痛い。でも、雪のなかを転げまわり追っかけっこをしていると体中がポカポカして汗が噴き出してくるほどだ。
そう云えば、真冬に郊外で汗することなど全くなくなった。土台現在は、少しでも駆けると足首がカクンカクンしてすぐ捻挫してしまう。

野山の雪もすっかりなくなる春が来て、周囲をフワリフワリとモンシロチョウが飛び交う。そして夏になると沢山のトンボがどこからともなく現れ、二匹連結し、空中で停止した状態で尻の先端を盛んにちょんちょんと水たまりにつける妙な仕草をいつまでも眺めていた。9月に入って空を見上げると、すいーすいーと気持ちよさそうにトンボが沢山々飛び交っていたのだが―。
仲間が「最近スズメを見かけないねェ―」と。
そう云えば、モンシロチョウもトンボもスズメも頓と見かけなくなったなぁ。
かつては街中でも、朝スズメの鳴き声で目が覚めるほどだったのに…。小麦を刈り取った畑に近づくとばぁーと何十羽もの雀が一斉に飛び立ち、ブゥ~ンと音を立てて旋回していたもんだが―。
きっと両親も祖父も曾祖父も「そう云えば―」と、時折、これまでのことを思い起していたとおもう。

とても小さなことだけど、普通に目にしていたものがふと気が付くと見かけなくなる―この先なにごともなければいいのだが…。
そう云えば―チト気になるなぁー。

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