応接室のソファーに座っている渡が、私の言っていることを、どこまできちんと理解をしているのか、今の段階では分からなかった。
「それでな、実は物件が二つあるんやけどな」
「二つですか?」
「そうや、一つは1,500m2の物件、もう一つは350m2の物件や」
「物件を選べる立場なんですか?」
「選ぶと言うか、どちらかしか出来んわ。工期がほとんど一緒らしいからな」
「それなら答えは決まってますよ」
「そうやろ?俺も一緒や」
「350m2の…」
「1,500m2の…」
「方ですね」
「方やな!」
私と渡はしばらく沈黙した。
「いや、常務、私が言っていることを理解されてますよね、失礼ですけど…」
「そらお前、分かっとるがな!」
「我々には経験値が無いんですよ。プラス、コンクリートはリスクが大きいんですよ?答えは決まってるじゃないですか」
「何でや!?どうせ経験するなら、大きな物件でもええやないか!」
「じゃあ、5mmの所を『10mmでハツれ!』って言われたらどうしますか?」
「そんなもんお前、ハツったったらええやないか!」
私は思わず失笑する。
「常務、実際に現場に行って作業をするのは、僕とハルさんなんですよ!?」
「あかんのか?」
少しだけ渡の気迫が弛む。
「イイとか駄目とかじゃないですよ、同じリスクを抱えるなら、小さな物件の方が、傷口も小さいってことですよ。C電力H火力発電所の現場だって、大変な想いをしたじゃないですか、まあ、主に僕が…」
私は、過去の失敗事例を持ち出した。
「あれとこの物件は別の話や」
「・・・」
渡の自分勝手な理論が炸裂する。
「彼の意見はどうなんや?」
いきなり渡は、事務所の私の席でコーヒーを飲んでいるハルを、あごでしゃくった。
「僕と同じですよ」
「本当か?訊いてみようやないか」
渡は首をクイクイと動かし、私に指図をした。
「ハルさん、ちょっとイイですか?」
「何?」
私が呼ぶと、ハルは応接室にやって来て、私の隣の席に座った。
「こっちとそっち、ハルさん、あんたならどっちの現場を選ぶ?」
渡がせっかちに、指で仕様書を叩く。
「うーんとね…」
ハルは私の顔を見る。
「いや、素直に思った方でイイですよ」
私はハルに率直な意見を出すように促す。
「こっちの350m2の方かな」
渡がガックリとする。
「なんでや?」
ハルは私の顔をまたしても見るが、私はウンウンと頷いてみせる。
「いや、コンクリートは一回しかやったことが無いし、もしも硬かったら、物凄く大変な事になるからね。この小さい方なら、頑張れば何とかなる数字だと思うよ」
私は勝ち誇った顔で、渡を見る。
「ま、色々な意見があるみたいやけど、とりあえず二件とも見積もってくれるか?」
「イイですけど、ハツリ基準をきちんと交渉する条件付ですよ?」
「分かっとるわ」
渡はそう言うと、不満そうに打ち合わせを終了させた。
それから一ヵ月後、Y県の二度に渡る工事を終えた私に、渡はこの言葉を投げつけて来た。
「大きい方や」
この決断が、我々R社ウォータージェットチームを、コンクリート地獄に貶めることになるとは、この時はまだ誰も知らなかった。
「それでな、実は物件が二つあるんやけどな」
「二つですか?」
「そうや、一つは1,500m2の物件、もう一つは350m2の物件や」
「物件を選べる立場なんですか?」
「選ぶと言うか、どちらかしか出来んわ。工期がほとんど一緒らしいからな」
「それなら答えは決まってますよ」
「そうやろ?俺も一緒や」
「350m2の…」
「1,500m2の…」
「方ですね」
「方やな!」
私と渡はしばらく沈黙した。
「いや、常務、私が言っていることを理解されてますよね、失礼ですけど…」
「そらお前、分かっとるがな!」
「我々には経験値が無いんですよ。プラス、コンクリートはリスクが大きいんですよ?答えは決まってるじゃないですか」
「何でや!?どうせ経験するなら、大きな物件でもええやないか!」
「じゃあ、5mmの所を『10mmでハツれ!』って言われたらどうしますか?」
「そんなもんお前、ハツったったらええやないか!」
私は思わず失笑する。
「常務、実際に現場に行って作業をするのは、僕とハルさんなんですよ!?」
「あかんのか?」
少しだけ渡の気迫が弛む。
「イイとか駄目とかじゃないですよ、同じリスクを抱えるなら、小さな物件の方が、傷口も小さいってことですよ。C電力H火力発電所の現場だって、大変な想いをしたじゃないですか、まあ、主に僕が…」
私は、過去の失敗事例を持ち出した。
「あれとこの物件は別の話や」
「・・・」
渡の自分勝手な理論が炸裂する。
「彼の意見はどうなんや?」
いきなり渡は、事務所の私の席でコーヒーを飲んでいるハルを、あごでしゃくった。
「僕と同じですよ」
「本当か?訊いてみようやないか」
渡は首をクイクイと動かし、私に指図をした。
「ハルさん、ちょっとイイですか?」
「何?」
私が呼ぶと、ハルは応接室にやって来て、私の隣の席に座った。
「こっちとそっち、ハルさん、あんたならどっちの現場を選ぶ?」
渡がせっかちに、指で仕様書を叩く。
「うーんとね…」
ハルは私の顔を見る。
「いや、素直に思った方でイイですよ」
私はハルに率直な意見を出すように促す。
「こっちの350m2の方かな」
渡がガックリとする。
「なんでや?」
ハルは私の顔をまたしても見るが、私はウンウンと頷いてみせる。
「いや、コンクリートは一回しかやったことが無いし、もしも硬かったら、物凄く大変な事になるからね。この小さい方なら、頑張れば何とかなる数字だと思うよ」
私は勝ち誇った顔で、渡を見る。
「ま、色々な意見があるみたいやけど、とりあえず二件とも見積もってくれるか?」
「イイですけど、ハツリ基準をきちんと交渉する条件付ですよ?」
「分かっとるわ」
渡はそう言うと、不満そうに打ち合わせを終了させた。
それから一ヵ月後、Y県の二度に渡る工事を終えた私に、渡はこの言葉を投げつけて来た。
「大きい方や」
この決断が、我々R社ウォータージェットチームを、コンクリート地獄に貶めることになるとは、この時はまだ誰も知らなかった。
1.会議で大切なのは、その会議で何を決定するかである。
会議は個人の思想や感情をぶちまける為の場所では無い。
2.意見の全員一致なんてありえない。
代案を出さない人間の批判的意見なんて、鼻糞ほどの価値も無い。特に「筋的に違う」とか言う意見。
3.最初に方向性を決定する。そしてそれに沿って会議を進める。
実際は間違った方向に進んでいても、声の大きな人間の方向性が優先されることが多い。
つまり、幹部会は地獄でしたね(笑)
ちなみに、幹部会レベルの会議をやっている会社もたくさんあるので、そんな時は寝るに限ります。
今頃は寒い路上でボロボロになって酔いつぶれている後輩もいることでしょう。でも、そこで辞めておいた方が幸せだった人もいますよね。
先にボロボロになるか、後でボロボロになるか、難しい選択ですね(笑)
会長夫人、お元気でしたでしょーか?
私にも確実に「髪結いの亭主」的メンタリティーが、DNAを超えて受け継がれている気がします(笑)