二ヶ月前、B軍基地の現場を終えて工場に戻っていた私は、渡と激論を交わしていた。
「常務、お願いですから、コンクリートはやめて下さい。工事事例が少なすぎます」
「なんでや?やった事が無いから、やるんやないか」
「それは分かります。でも、リスクがあまりにも大きすぎますよ」
「ああ?どんなリスクあるんや?」
渡は真一文字に結んだ口の端に、無理やりタバコをねじ込んだ。
「いいですか、通常のハツリ工事は、エアー工具を使って、コンクリートをハツるんですけど、コンクリートの中の骨材(コンクリートに含まれる砕石)も一緒に割りながら削り取るんですよ」
「それは分かるわ」
「これに対してウォータージェット工法は、骨材の周囲のコンクリートのペースト部分をハツる事は出来ても、骨材自体を削ることは出来ないんですよ」
「じゃあどうやってコンクリートをハツるんや」
「だから、骨材の周りのコンクリートペーストをある程度削ると、骨材が剥がれ落ちるんですよ。つまり、ウォータージェットでハツると、ハツリ面は凸凹になるんですよ。それが問題なんです」
渡は腕組みをすると、少し首をひねった。
「それのどこが問題なんや?」
私は応接室のガラステーブルに、A4の紙を置くと、ボールペンで絵を描き始めた。
「いいですか、エアツールでのハツリはこういう風に、既存面から5mmという規定なら、きっちりと5mmの位置で面が出来上がるんです」
私は黒のボールペンで引いた既存の面を表す線と並行に、赤のボールペンで線を引き、間に『5mm』という数字を入れた。
「そうやな」
「これに対して、ウォータージェットでのハツリは、ハツリ面が残った骨材によって、凸凹になるんですよ」
今度は、既存面を表す線の下に、青色のボールペンで、凸凹な線を引く。
「それは分かるわ」
「で、例えばこの場合、どこを計測して『5mm』と判断するかが問題なんですよ。例えば、骨材の間の一番低い部分で計測した場合、仮に『7mm』あるとしましょう。この場合は十分に規定をクリア出来ますよね」
私は骨材の間の一番低い部分と既存面の間に、『7mm』と数字を入れた。
「これに対して、骨材の頭で計測された場合、仮に『2mm』としましょうか、この状態では規定の『5mm』には程遠いんですよ。この状況で『もっとハツれ!』なんて言われたら、最悪ですよね」
「そんなことがありえるかいな!常識で考えてみれば、最上部と最深部を計測して、その平均値で『5mm』と考えるのが妥当やろ」
渡は自分の言った意見に、自分で頷く。
「でも常務、実質的に、ウォータージェット工法によるコンクリートはつり工事の場合の規定なんて、どこにも存在しないんですよ」
「そんな事があるかい!今回はウォータージェット工法で、という指示があるんやから、仕様書があるやろ」
私は、渡から受け取っていた仕様書をヒラヒラとして見せた。
「常務、役所の人間はそんなことまで絶対に考えていませんって。現にこの仕様書も、文章で『水中部分は5mm、硫化水素に曝されている部分は15mmハツること』って書いてあるだけですから」
渡は私が指で示した仕様書の文章を読むと、ややむくれながらソファーに踏ん反り返った。
「そんなアホな話があるか?」
「現に目の前にあるじゃないですか」
私は苦笑いをする。
「ですから、仮に工事をやるとしても、どこを取って基準の『5mm』と判断するか、これを明確にしなければ、恐ろしくてこんな工事は出来ませんよ」
「施行協会(ウォータージェット施行協会)に何かサンプルになる様な資料はないんか?」
「まあ、一応は訊いてみますけど、結局ゼネコンは役所の仕様書しか基準にしませんからね」
「・・・」
「その辺のリスクも考慮して、その上で仕事を取りましょうよ」
「…ま、お前の言いたいことは分かったわ」
渡はそう言うと、再びタバコを唇にねじ込み、深く肺にニコチンを流し込んだ。
「常務、お願いですから、コンクリートはやめて下さい。工事事例が少なすぎます」
「なんでや?やった事が無いから、やるんやないか」
「それは分かります。でも、リスクがあまりにも大きすぎますよ」
「ああ?どんなリスクあるんや?」
渡は真一文字に結んだ口の端に、無理やりタバコをねじ込んだ。
「いいですか、通常のハツリ工事は、エアー工具を使って、コンクリートをハツるんですけど、コンクリートの中の骨材(コンクリートに含まれる砕石)も一緒に割りながら削り取るんですよ」
「それは分かるわ」
「これに対してウォータージェット工法は、骨材の周囲のコンクリートのペースト部分をハツる事は出来ても、骨材自体を削ることは出来ないんですよ」
「じゃあどうやってコンクリートをハツるんや」
「だから、骨材の周りのコンクリートペーストをある程度削ると、骨材が剥がれ落ちるんですよ。つまり、ウォータージェットでハツると、ハツリ面は凸凹になるんですよ。それが問題なんです」
渡は腕組みをすると、少し首をひねった。
「それのどこが問題なんや?」
私は応接室のガラステーブルに、A4の紙を置くと、ボールペンで絵を描き始めた。
「いいですか、エアツールでのハツリはこういう風に、既存面から5mmという規定なら、きっちりと5mmの位置で面が出来上がるんです」
私は黒のボールペンで引いた既存の面を表す線と並行に、赤のボールペンで線を引き、間に『5mm』という数字を入れた。
「そうやな」
「これに対して、ウォータージェットでのハツリは、ハツリ面が残った骨材によって、凸凹になるんですよ」
今度は、既存面を表す線の下に、青色のボールペンで、凸凹な線を引く。
「それは分かるわ」
「で、例えばこの場合、どこを計測して『5mm』と判断するかが問題なんですよ。例えば、骨材の間の一番低い部分で計測した場合、仮に『7mm』あるとしましょう。この場合は十分に規定をクリア出来ますよね」
私は骨材の間の一番低い部分と既存面の間に、『7mm』と数字を入れた。
「これに対して、骨材の頭で計測された場合、仮に『2mm』としましょうか、この状態では規定の『5mm』には程遠いんですよ。この状況で『もっとハツれ!』なんて言われたら、最悪ですよね」
「そんなことがありえるかいな!常識で考えてみれば、最上部と最深部を計測して、その平均値で『5mm』と考えるのが妥当やろ」
渡は自分の言った意見に、自分で頷く。
「でも常務、実質的に、ウォータージェット工法によるコンクリートはつり工事の場合の規定なんて、どこにも存在しないんですよ」
「そんな事があるかい!今回はウォータージェット工法で、という指示があるんやから、仕様書があるやろ」
私は、渡から受け取っていた仕様書をヒラヒラとして見せた。
「常務、役所の人間はそんなことまで絶対に考えていませんって。現にこの仕様書も、文章で『水中部分は5mm、硫化水素に曝されている部分は15mmハツること』って書いてあるだけですから」
渡は私が指で示した仕様書の文章を読むと、ややむくれながらソファーに踏ん反り返った。
「そんなアホな話があるか?」
「現に目の前にあるじゃないですか」
私は苦笑いをする。
「ですから、仮に工事をやるとしても、どこを取って基準の『5mm』と判断するか、これを明確にしなければ、恐ろしくてこんな工事は出来ませんよ」
「施行協会(ウォータージェット施行協会)に何かサンプルになる様な資料はないんか?」
「まあ、一応は訊いてみますけど、結局ゼネコンは役所の仕様書しか基準にしませんからね」
「・・・」
「その辺のリスクも考慮して、その上で仕事を取りましょうよ」
「…ま、お前の言いたいことは分かったわ」
渡はそう言うと、再びタバコを唇にねじ込み、深く肺にニコチンを流し込んだ。
と師匠に言われ続けましたが(嘘)、三年生で学生チャンプになった男とは、決勝で戦えませんでした。
「やったれや!いてまえや!ハツったれや!」
という渡の気合、どーなるのでしょーか!?(笑)
いよいよ税務署に情報を提供したんですね。ついでに保健所にも情報を提供するんですか?
税務調査がクリスマスに間に合うといいなぁ(笑)
懲戒請求用紙には、くだらなくて細かいことを、ネチネチと大量に書き込みましょう。優秀な幹部とは、そういうモノです。
「連日やるぜ、朝まで幹部会!」
あー、やりたいなぁ、幹部会(笑)