どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ213

2008-06-16 15:40:54 | 剥離人
 朝、小磯とハルを会社でピックアップすると、ライトバンで高速道路を西にひた走る。

 昼過ぎ、TG工業A事業所に到着すると、私は工場の一角にある生産課に顔を出し、課長の尾藤に挨拶をした。
「おお、ご苦労さん!」
 尾藤が満面の笑みと、甲高い関西弁で出迎えてくれる。
「どうも、たった今到着しました」
「さっそくやけど仕事に掛かってもらえるか?何分急な仕事で、時間が全く無いんや。復水器も準備は万全やし、お宅の機械も全部車から降ろしておいたんやで」
「そうなんですか?ありがとうございます」
「木田さん、とにかく迅速且つ、丁寧にお願いしまっせぇ!」
 尾藤は笑顔で私を煽ると、大きな目で私を見つめた。
「出来るだけ最速でやりますんで」
 私はとりあえず、そう答えた。
 
 屋外の作業場には、すでに復水器が設置され、部分的に足場まで用意されていた。
「おお、今回はきっちりと準備がしてあるね」
 ハルが感心している。
「でも、10トンも重量がある割には、物凄く簡単な設置方法だなぁ…」
 私は自重10トンもある復水器が、恐ろしくシンプルな架台のみで支えらている状況に、少し驚いていた。
 その架台は、架台の中心に一本の丸鋼(棒)が飛び出していて、その丸鋼の尖った先端部が、復水器のボルト穴に刺さっているだけなのだ。
「うひゃひゃひゃ、これが一つでも倒れちゃったら、木田さんなんかぺちゃんこだよ?」
 ハルが嬉しそうに架台を足で蹴る。もちろん足で蹴った位では、1ミリも動きはしないが、なんとなく不安な気がするのが面白い。
「ハルさんが中で作業をしている間に、サンダーでこの丸鋼を切断しておくから」
「うひょひょひょひょ」
 何が嬉しいのか、私の冗談にハルは大喜びをしている。
「そういうのはね、小磯さんにしてあげなきゃ駄目だよ」
 ハルは小磯の顔を見ると、また大笑いをした。
 
 夕方、機器をセットアップして試運転を行うと、私は作業終了を決定した。無用な残業は、明日への活力を奪う事になる。
「木田君、急ぎなんじゃないの?」
 珍しく小磯が、夕方にも係わらず、仕事に前向きな発言をする。小磯は『定時』が大好きで、『残業』は大嫌いだ。
「まあ、急ぎですけど、今の剥がれ具合なら、二日なんて余裕でしょう」
「うん、それはね」
 復水器のゴムライニングに軽くジェットを当ててみたが、予想通り、簡単に剥がれることが、試運転の時に分かったのだった。
「そりゃあ、小磯さんがこんな時間から、どうしても作業をしたいと言うのなら、話は別ですけど」
「がはははは、今日はもう終了!」
「でしょ?はい、帰りましょう」

 そこへT県T共同火力発電所で一緒に仕事をした、坂本が通りかかった。非常に良いタイミングだ。
「坂本さん、お久しぶりです!」
「おお、木田さん!」
 私は坂本と軽く話をすると、最後に伝言を頼んだ。
「今日はこれで帰りますんで、尾藤課長に伝えてもらえますか?」
「おお、伝えればイイんやな」
「ええ、お願いします!」
 
 私が車に行くと、すでに小磯とハルが乗り込んで待っていた。
「課長、帰ってもイイって?」
「いや、分かりませんけど、頼んでおきました」
「坂本さんに?」
「ええ」
「そ、そんなんで良いの?」
「イイことにしましょう!」
「がはははは、この男は…」

 小磯は助手席でニヤついていたが、定時で帰れる事で、文句はない様だった。


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