今回の宿泊先は、TG工業の独身寮では無く、海に近いビジネスホテルだ。
「木田君、晩飯は?」
小磯が部屋にやって来た。
「ホテルの中の居酒屋でも、外でも、好きなところで食べて下さいよ」
「木田君はどうするの?」
「適当に外に行きますよ。一緒に行きます?」
「行こうよ」
小磯はハルも誘おうとしたが、ハルはコンビニで済ませるとの返事だった。
「で、何を食べるの?」
小磯とホテルの前の通りを歩くが、コンビニ以外はあまり店が見当たらない。
さらに歩いて行くと、電車の踏切があり、その脇に赤い暖簾の小さな店があった。
「小磯さん、この店、この店に入りましょう!」
「なんの店なの?二見名物、玉子焼、田村…、玉子焼の店?」
小磯は理解できないという顔をした。
「違いますよ、小磯さん、こっちでは『玉子焼き』って表示ですけど、これは『明石焼き』のことですよ」
「おお、明石焼きね!要はたこ焼きみたいな奴でしょ?」
「あははは、明石の人に言ったら怒られそうですけど、まあそういうことですよ。僕はたこ焼きのまがい物しか食べた事が無いんで、是非食べたいですね。行きませんか?」
「いいねぇ、ところでどうしてこの店が良いの?」
「いや、理由は分かりませんけど、僕の食い物レーダーが強烈に反応しました。きっとこの店は美味いと思いますよ」
「がはははは、まあ騙されてみるか」
小磯は失礼なことを言いつつ、赤い暖簾をくぐりながら、店の引き戸を開けた。
店の中に入ると、ふんわりとした独特の甘い香りが漂っている。
それは卵黄と粉の焼ける香りであり、それを脇から出汁の香りが応援していた。
「じゃあ、玉子焼きを二つ下さい」
「ウチのは一人前二十個だけど、大丈夫ですか?」
私の注文に、店のおばさんが確認を取った。私と小磯を一目見て、他所者だと判断したのだろう。
「大丈夫です、めちゃめちゃお腹が空いていますから」
お茶を飲みながら待つこと十分、赤い木の板に整然と並んだ『玉子焼き』が現れた。
「おおっ!」
「ぐはははは、これは凄いね」
テーブルの上の二人前の玉子焼き、計四十個からは、ほわーんとした甘い湯気が立ち昇っている。
たこ焼きと比べると、玉子焼きの生地はやや黄色が強く、上には何も掛かっていないので、とてもシンプルな外観だ。生地は柔らかそうな感じで、板の上で球状を保てず、やや平たくなりかけている。
「うはははは!」
私は意味も無く笑いながら、玉子焼きを一つ箸でつまむと、透き通った出汁が入った器に沈める。
出汁をたっぷりと含んだ玉子焼きを口の中に押し込むと、卵とタコと出汁の香りが柔らかく鼻腔を抜け、舌の上の日本人の遺伝子に刻み込まれた旨みセンサーが、最強に反応した。
「うめぇー!これは、旨いぞぉー!」
小磯も玉子焼きを口に入れた瞬間から、目を見開いている。
「木田君、これは旨いよ、間違いなく旨いよ!」
中の具もタコしか入っていない様で、実にシンプルなのだが、濃い目の出汁との相性が最高なのだ。私と小磯は次々と玉子焼きを口の中に放り込み、あっという間に一人前二十個を平らげてしまった。
この日、私と小磯はそれぞれもう一人前を追加注文し、玉子焼きのみで晩飯を終わらせたのだった。
「木田君、晩飯は?」
小磯が部屋にやって来た。
「ホテルの中の居酒屋でも、外でも、好きなところで食べて下さいよ」
「木田君はどうするの?」
「適当に外に行きますよ。一緒に行きます?」
「行こうよ」
小磯はハルも誘おうとしたが、ハルはコンビニで済ませるとの返事だった。
「で、何を食べるの?」
小磯とホテルの前の通りを歩くが、コンビニ以外はあまり店が見当たらない。
さらに歩いて行くと、電車の踏切があり、その脇に赤い暖簾の小さな店があった。
「小磯さん、この店、この店に入りましょう!」
「なんの店なの?二見名物、玉子焼、田村…、玉子焼の店?」
小磯は理解できないという顔をした。
「違いますよ、小磯さん、こっちでは『玉子焼き』って表示ですけど、これは『明石焼き』のことですよ」
「おお、明石焼きね!要はたこ焼きみたいな奴でしょ?」
「あははは、明石の人に言ったら怒られそうですけど、まあそういうことですよ。僕はたこ焼きのまがい物しか食べた事が無いんで、是非食べたいですね。行きませんか?」
「いいねぇ、ところでどうしてこの店が良いの?」
「いや、理由は分かりませんけど、僕の食い物レーダーが強烈に反応しました。きっとこの店は美味いと思いますよ」
「がはははは、まあ騙されてみるか」
小磯は失礼なことを言いつつ、赤い暖簾をくぐりながら、店の引き戸を開けた。
店の中に入ると、ふんわりとした独特の甘い香りが漂っている。
それは卵黄と粉の焼ける香りであり、それを脇から出汁の香りが応援していた。
「じゃあ、玉子焼きを二つ下さい」
「ウチのは一人前二十個だけど、大丈夫ですか?」
私の注文に、店のおばさんが確認を取った。私と小磯を一目見て、他所者だと判断したのだろう。
「大丈夫です、めちゃめちゃお腹が空いていますから」
お茶を飲みながら待つこと十分、赤い木の板に整然と並んだ『玉子焼き』が現れた。
「おおっ!」
「ぐはははは、これは凄いね」
テーブルの上の二人前の玉子焼き、計四十個からは、ほわーんとした甘い湯気が立ち昇っている。
たこ焼きと比べると、玉子焼きの生地はやや黄色が強く、上には何も掛かっていないので、とてもシンプルな外観だ。生地は柔らかそうな感じで、板の上で球状を保てず、やや平たくなりかけている。
「うはははは!」
私は意味も無く笑いながら、玉子焼きを一つ箸でつまむと、透き通った出汁が入った器に沈める。
出汁をたっぷりと含んだ玉子焼きを口の中に押し込むと、卵とタコと出汁の香りが柔らかく鼻腔を抜け、舌の上の日本人の遺伝子に刻み込まれた旨みセンサーが、最強に反応した。
「うめぇー!これは、旨いぞぉー!」
小磯も玉子焼きを口に入れた瞬間から、目を見開いている。
「木田君、これは旨いよ、間違いなく旨いよ!」
中の具もタコしか入っていない様で、実にシンプルなのだが、濃い目の出汁との相性が最高なのだ。私と小磯は次々と玉子焼きを口の中に放り込み、あっという間に一人前二十個を平らげてしまった。
この日、私と小磯はそれぞれもう一人前を追加注文し、玉子焼きのみで晩飯を終わらせたのだった。
私も怪しい明石焼き(現地では玉子焼きです)は何度も食べましたが、やっぱり本物は違いましたね、根本的に!
和歌子亭?うーん、その店で食べたのかなぁ?味も憶えていないなぁ?あ、店は小さかった気がするなぁ…。