パンデミック国家

2020年02月02日 | 十四行詩





パンデミック国家




言いがかりのように始まった令和二年一月。天皇制と日米
安保体制に骨の髄まで飼いならされた日本国民の前に、
治療薬がないとの触れ込みで、新型コロナウィルスの「脅威」が
煽り立てられる。感染症に治療薬などありはしない。

連日、NHKが感染者の足どりを細かく伝えて恐怖を煽る。
この煽り方は懐かしい。二〇一七年の衆議院選挙のときの
「北朝鮮脅威」と瓜二つである。いずれ出てゆくウィルスの
ために憲法改正して「緊急事態条項」を入れろと騒ぐ。

パンデミック国家には脅威と恐怖が蔓延しやすい。
これに弱いのは弱い人々。中国人をあぶりだせ。
帰国者の足どりを洗え。感染者をあぶりだせ。弱者が怖い存在になる。

パンデミック国家は差別と偏見に満ち溢れる。
朝鮮人を殺せとがなり立てた大正の普通の人々。
パンデミック国家の中心で製薬会社と政権の回転ドアがクルクル回っている。







錆びた薔薇 18番

2017年05月23日 | 十四行詩









薔薇が廃車置場のフェンスで
赤々と錆びている
パンクして無に還る軽トラの
フロントガラスに夕日が落ちている

錆びた薔薇が一つ崩れると
目の奥に一つ音が鳴った
あれはもはや薔薇ではない
一つの変転する非対称である

流れたのは時間ではない
出来事である 軽トラの荷台に
薔薇の蔓が伸びている

最初の錆びた薔薇が
荷台に花開くとき
痛みに色があることを知った







道 17番

2017年05月23日 | 十四行詩






     


            四十雀天は奥あるところかな







その道はいまでも覚えている
十年くらい前 夢に見たなつかしい道
丘の見える少年たちの自転車の道
田の中のアスファルトを奥へ奥へ 

いつのまにか夕日の古墳である
いっしょにいた友だちはいなくなって
一人きり 欅の若葉が風に揺れると
四十雀が高く啼いた 天の奥 奥の光

それは少年の心へ入ってきた現実なんだが
夢の方をいまではよく覚えている
どこかで水が光っている

あの道は もうない
あの光は もうない
あのわたしは もういない









財布 16番

2017年05月23日 | 十四行詩






   
とびとびの五日間 財布を忘れた
さすがに それはまずいだろう
昼飯も食えないし
夕刊だって買えない

オレもとうとう認知が入ったか
そう思ってよくよく考えてみた
なぜ 財布を忘れるのか?
答えは簡単だった

金が入っていない 小銭しか
財布に入っていないから
心の中の財布は いつも

軽い 軽い 軽い 羽が生えて
蝶々と一緒に野原を飛んでいる
そりゃ捕まらんわけだ









響き 15番

2017年03月26日 | 十四行詩






響くのは音ではない 響くのは
言葉ではない
金雀枝が響く 木洩れ日が響く 夕焼けが響く
山が 川が まなざしが 響く

裂け目が響くように 沈黙が響くとき 
時が響いているのである
冬の波のような痛みが響くとき
過去が響いているのである

シフはバッハの響きになった
アファナシエフは三十一番の響きになった
わたしが響く 死が響くように

それが響き始めたとき
それが響いている場所
それはひとりの他者である







流れる 14番

2017年03月22日 | 十四行詩






流れる 初夏を流れ 花を流れる
山が流れるように 過去を流れる
幼稚園の子どもたちの聲が きょうは
よく響く ふるい天井の白い花びら

響くまで間のある聲また聲
そんな夏の大きさは
音の見える畏れとも
夏椿の白さとも 

去来するものはなにもなかった
身の丈に まだなじんでいない
この世 この世

大きくあくびをして
気がつけば カフェのソファーの中の
物憂い中年男である






 

みどりの本 13番

2017年03月12日 | 十四行詩






みどりの本が 郵便局の
「返さなくていい図書館」の
古い棚に一冊あった
みどりの本はみどりの文字で書かれている

もう だれも
みどりは読めないから
埃をかぶって
長いあいだそこにあった

木陰から出てきて
火で争うひとたちと
海から上がってきて

水を争うひとたちが
この古びた棚で出会って
いま 黒い文字を作った







青の破局 12番

2016年11月13日 | 十四行詩






   



冬天に見つめ返され
耳まで青い
眼の中の青 青の中の眼
その一点がみるみる鳩になる

鳩は 続けて飛んでくる
一羽は光の粒子を羽ばたき
一羽は冬の草をくわえて
それでも この破局は始まったばかりである

かつて 破局は
二〇〇年続いた と
ウォーラーシュタインは言う

いちじるしい あやうさ
はれわたりたる
この 青の あやうさ




※ 最終連は八木重吉の詩「朝の あやうさ」引用・コラージュ







十四行詩 11番

2016年10月20日 | 十四行詩






十四行詩     十一番




Esperanza
消えた?
ロンドンで消えた
どこへ消えた?

Esperanza
インドであなたと恋に落ちたHはいま
こころの病に倒れてゐるよ あなたを
探さなければならない 地球から

Esperanza 気づかい 理解 忍耐
すぐれた知性には善意のあることが 
あなたを見ているとよくわかる

Esperanza
それはスペイン語で
希望を意味する






ソネット 10番

2016年10月17日 | 十四行詩






ソネット 10番




テーブルクロスの
わたしのところを拭くと
いつもフキンが
黄色くなる と妻が怒る

思いあたる節はない いや どの節だったかが
思いあたらない
卵だったか 芥子だったか
はたまた きのうの南瓜スープだったか

金木犀の風は北窓から入り
南へ抜けてゆく
その日の加減で

南から入ることもある
ひかりの香る風は
テーブルクロスを草原のように吹き抜けてゆく







Sonnet 9

2016年10月17日 | 十四行詩






Sonnet 9




There are many things
Unable to write with words.
Nevertheless it
Certainly was.

Turning words over,
They would be
Surely
Simply white.

I’ve written it
With a turned-over word in an invisible dairy.
In this far moment

I feel called it by someone.
Who killed me; I remember mysteriously
A feeling of his hands.







ソネット 9番

2016年10月13日 | 十四行詩






ソネット 9番




文字
には   できないことがある
できないけれど    それは
たしかに存在してゐた

文字を裏返して
使うと
きっと
あっけないくらい まっしろだろう

見えない日記に
裏返した文字で それ と書いてみる
遠い 遠い いま

だれかに その名で呼ばれた気がする 
だれに殺されたのか 不思議に 手の
感触を憶えてゐる







ソネット 8番

2016年10月09日 | 十四行詩






ソネット 8番




手、手、 と家内が言う ア、そうか、
夕日ヶ浦の海に落日が金色の道をつけた、
九月二十三日、午後六時前
そういうもんなのか そういうもんなのだろう

数年ぶりに手をつないで大きな夕日を見た
大海の落日を前にすると 
不思議にそれが あたりまえの気がした
ひとのいろいろは ひと色のいのち なのかもしれない

二人で旅行するのは三回目
放射能別居が解消されてから、はじめて、
丹後は 海から秋が来る

手、手、
四千年の、落日、わたしの感触、家内の感触、
消える、消える、   波の音







Sonnet 7

2016年10月09日 | 十四行詩






sonnet 7




autumn rain, hurricane lilies―
sounds
sometime
vanish, sometime come.

life comes in sounds
leaves outside sounds.
i heard red sounds,
red sounds outside sounds

from no ears
from no breast
from no tongue.

autumn rain
floating in the air
between the heaven and the earth.







ソネット 7番

2016年10月05日 | 十四行詩






ソネット 7番




秋の雨 曼珠沙華
音 
ときに
消え ときに 現れる

いのちは 音の中に生まれ
音の外へ去る
紅い音がする
紅い音が 音の外で

ない 耳の中から
ない 胸の奥から
ない 舌のあたりから 

秋雨は
天地のあはひを
烟ってゐる