雪国断章 二日目(その2)

2014年01月05日 02時56分42秒 | 旅行記
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・12/12(木)

木古内駅を出て向かう先は、2014年5月での廃止が決まった江差線(一部)の渡島鶴岡駅。
実は以前、2012年の元日にもやはり「あけぼの」を利用して函館へ向かう途上、木古内駅から徒歩で訪問したことがあり、集落の片隅にぽつんと佇む簡素なホームに可愛らしい待合室といったロケーションが気に入っていたのでした。
江差線、とりわけ赤字著しい木古内~江差については当時から存廃が議論されていたものの、昨今の「お名残り」には程遠い状態で、元日ということもあるせいか、夕方の江差線を乗り通したのは私一人。しかし今回の乗車に関してはそうもいかないだろうと予想していましたが、駅に関してはまだ落ち着いて出来るはず。「あけぼの」で生じた遅れを利用して、木古内での長い待ち時間を徒歩での渡島鶴岡駅訪問に充てることにしたのです。

以前も歩いた道のりを、再び。


駅付近に広がる住宅街を抜けた後は、ただ荒涼とした景色が広がります。
北海道らしいかと問われればそれは分かりませんが、何処かまだ少し、本州の雰囲気を残しているようにも思えます。


一旦線路から離れた道路はやがて木古内川を渡り、再び駅へと近付いていきます。
地図上では線路に沿って国道を行くルートが王道のように見えますが、ただ何もないなかをひたすら歩くのもまた良いものです。


遠くに渡島鶴岡の集落。左手にはずっと津軽海峡線の高架が見えています。
あの高架もいずれは新幹線が行き来することになるのでしょう。しかし、そこから見えるこの渡島鶴岡の景色は不変であると願いたいところです。


木古内駅から徒歩30分強で辿り着いた渡島鶴岡駅。
当地のおこりはその名の通り山形県の鶴岡から開拓者が移り住んだことに由来しますが、駅の近傍には禅燈寺と呼ばれる寺院があり、その境内を線路が通っていることで少々有名です。
今回の再訪は駅そのものも目当てですが、境内を通過する列車を写真に収めることも目的の一つでした。


木古内行きの列車の時間までは僅か。
境内に移動して構図を決め、列車を待ちます。


やがて遠くから二、三の警笛が聞こえたかと思えば、林の奥から姿を現したるはキハ40の単行。


みるみるうちに列車は渡島鶴岡駅に近付き、なんとか思惑通りの写真が撮ることが出来ました。


かれこれ一時間以上も外気に触れっぱなしなので、急いで締め切りの効く待合室に避難。駅ノートに記帳し、折り返し江差行きとなる列車を待ちます。
この日に書かれたものも幾つかあり、他駅に比べての訪問の容易さや当駅の隠れた人気ぶりが窺えました。


おそらく次回訪問は廃線後となることから、現役のあらゆるものを記録しておきます。


仮乗降場のようなホームですが、道内各地で見られる板張りのそれではないために幾らかは堅牢な印象を受けます。

そして待つこと、約30分。


踏切が鳴り、木古内14:44発の列車がやって来ました。
私と入れ替わりに同好の士が一名下車、各ボックスには江差まで乗り通し、そしてやはり折り返すであろうこれまた同好の士が一名ずつといったところで、ロングシートに腰掛けてしばし窓外の秘境に目をやります。

渡島鶴岡14:48発→湯ノ岱15:20着


江差線のなかでは最も秘境感溢れる神明駅。
驚くことにこの駅からも乗車(やはり同業者)があり、廃止に向けてそれぞれの「お名残り乗車」が実践されていることを目の当たりにするのでした。そういえば、渡島鶴岡の駅ノートにも徒歩や列車を駆使しての各駅訪問を試みた旨の記述が幾つか見受けられました。

深い雪の森林を抜け、車窓が開けてきたところで湯ノ岱に到着。
当駅から江差までの間はスタフ閉塞となっているため、駅員氏と運転士の間で通票(タブレット代用)がやりとりされます。
雪の降り積もった静かなホームで、数少ない列車の運転士と連絡を交わす駅員氏の姿はまるで映画「ぽっぽや」の世界を彷彿とさせ、当地にゆかりのない一旅人も何処か郷愁めいたものを感じずには居られませんでした。


湯ノ岱、定刻発車。
列車がカーブの向こうに消えるまで見送られていたのが印象的でした。


さて、ここ湯ノ岱はその地名が示す通り温泉が存在し、それは江差線列車の湯ノ岱到着直前の車窓からも認めることが出来ます。
アクセスが容易ともあって駅にもその案内があり、川を渡って徒歩10分ほどで行けるようです。しかしこの日は雪の影響で足元が悪い箇所があり、慎重に歩いたことで実際には20分近くを要しました。


湯ノ岱温泉こと、上ノ国町国民温泉保養センターです。
本来であれば一本前の列車で木古内~江差を乗り通し、折り返し列車で当地を訪問する予定でしたが、「あけぼの」が遅れた影響でそれは叶わず。止む無く湯ノ岱~江差間の乗車は諦め、代わりに徒歩での渡島鶴岡駅再訪を組み込んだ次第です。

温泉はやはり「廃線特需」を迎えることもあるのでしょうが、この日は地元客が数人といったところで、朝から冷えた体をじっくりと温めることが出来ました。休憩室では江差線に関する写真も展示されており、湯上り後も退屈させません。受付のご婦人にお礼を述べて駅まで戻りました。

16時を回ると周囲は既に薄暗く、夜の気配。
京都での日没はどんなに遅くとも17時頃ですが、こんなに些細なことでも北の雪国に来たことを実感させられます。


明かりの灯る駅舎に戻り、ストーブの焚かれた待合室で体を休めます。
派手すぎず地味すぎない装飾がなされた窓口は有人駅の温もりを感じさせます。沿線唯一の有人駅ということで、今後も廃線に至るまで一定の賑わいは続くのでしょう。


列車の時間が近付き、駅員氏が屋外に出られたので私も続いてホームへ。


やがてカーブの先から2灯のヘッド・ライトが姿を現します。
駅舎の傍に見える人影は先程の駅員氏。


私が温泉に浸かっている間、江差を往復してきた列車に乗り込みます。
車内にはやはり先程と同じ顔ぶれがちらほら。今度は空いているボックスを見つけたのでそこに腰掛けました。

湯ノ岱16:47発→木古内17:22着


車中にて、湯ノ岱駅で求めた硬券入場券と最短区間の乗車券常備軟券を窓框に置いてみました。
最近はこうしたアイテムにも目を向けるようになってきましたが、廃止される江差線はともかく、来年度の消費増税でこれら常備券の先行きは不透明なものとなっています。


すっかり夜の帳の降りた木古内に到着。
今夜の目的地は函館ですが、その前にもう一つの目的をこなすべく一旦駅を出ます。


先程とは反対の東側(海側)に出たところ。駅前は再開発が進んでいました。
名物だった「急行食堂」は潰れ、以前は無かった一軒の喫茶店……というよりは、カフェと呼ぶ方が相応しい綺麗な白い建物が見えたので、ちょうど夕食時ということもあり、営業時間を確認して入ってみることに。
特に躊躇いもなくこうした場所に入っていけるのは日頃のカフェ巡りの賜物……なのかもしれませんが、軽食のカレーを注文。


旅においては、列車内での駅弁、ホームでの立ち食いも風情があって良いものですが、待ち時間を利用して駅近くにある喫茶店にふらっと入るのもまた一興。出来立てのカレーを口に運べば、何とも温かく贅沢な気分になれます。
駅前の喫茶店はその土地を探る最初の手掛かり。最近の旅ではその土地の空気に触れるだけではなく、こうした場所に積極的に入っていくことによってその土地に住まう人々の気分を味わうことを理想としていますが、それはあくまで都合の良いところだけを楽しむに過ぎず、また、旅はそれしか出来ないことも事実。しかしそれがなかなか忘れられず、やがて再訪の機会が生まれれば、前回とはまた違う側面が見え、異なる体験が出来ることでしょう。今回の渡島再訪はその好例です。いささか断章取義的ではありますが、それが、旅なのです――。

二日目(その3)に続く

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