感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

ANCA関連血管炎への診断的アプローチ:前半

2013-03-05 | 免疫
血管炎の検証されたdiagnostic criteriaが存在せず、1990 年のACR(American College of Rheumatology)classification criteriaや1994 年のCHCC(Chapel Hill Consensus Conference) definitionsが代用されてきた。

2009年から欧州リウマチ学会(EULAR)・米国リウマチ学会(ACR)を中心に新しい血管炎の概念・定義,分類基準,診断基準の作成がすすめられ、改訂版である 2012 Revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Systemic Vasculitides(CHCC2012)が2013年1月に公表された。

日本では2011年に、厚生省進行性腎障害調査研究班(松尾清一班長・名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座腎臓内科学)が「急速進行性腎炎の診断指針第2版」を、多施設共同前向き臨床研究班(尾崎承一班長・聖マリアンナ医科大学)が2011年2月に「ANCA関連血管炎の診療ガイドライン」を発行している。

この文献は2010年でやや古いが、それぞれの症候や検査についてレビューされている。



Rheum Dis Clin North Am. 2010 Aug;36(3):491-506.
Diagnostic approach to ANCA-associated vasculitides.
Gaffo AL.


要約

・抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)は、ウェゲナー肉芽腫症(WG)、顕微鏡的多発性血管炎(MPA)、とチャーグ•ストラウス症候群(CSS、またはアレルギー性肉芽腫性血管炎として知られている)を含む。 多くの研究者は、急性半月体形成性糸球体腎炎により、明らかにANCAに関連付けられる腎限局型血管炎も含めている。

・これらは頻度が稀で、変化に富んだ臨床症状あり、診断テストは不完全で、幅ひろい鑑別診断から考慮すると、臨床医にとって診断には困難を伴う。 また治療法は毒性が高く、治療開始前に正確な確定診断に努力が向けられる必要がある。

AAVへのアプローチ
疾患を示唆する臨床所見
・ほとんどの場合複数臓器にまたがる。発熱、倦怠感など全身症状が多く存在。 臨床症状パターンは早期診断に重要で、例えば、肺および腎症状の同時発生はWGまたはMPAを、再発性副鼻腔炎または中年成人における両側性中耳炎の発生はWGを、鼻ポリープと新規発症難治性喘息ではCSSを疑う。

・肺毛細血管炎によって誘発される肺出血の迅速な開始とびまん性肺胞出血(DAH)は、WGとCSSで見ることができるが、しかし、MPAのより特徴的である。
・再発性閉塞性肺症状は、CSSの大部分は好酸球の関与を示唆しているが、しかし、固有のものではない。
・AAVのこれらの肺症状の鑑別診断には、 感染症や感染後の合併症、薬物誘発性肺損傷(主にDAH様)、その他の結合組織疾患(肺結節または全身性エリテマトーデス誘導DAHとリウマチ様関節炎)と心疾患が含まれる。

・腎障害はMPAとWGの主な特徴の一つで、症例のいくつかの時点で70%以上で存在し、CSSではあまり一般的ではない(約25%)
・顕微鏡的血尿と蛋白尿は、通常、肉眼的血尿や乏尿を呈する患者のごく一部で、腎機能悪化に先行する。
・糸球体腎炎の他の原因の鑑別診断には、全身性エリテマトーデス(SLE)、 他の血管炎(例えば、ヘノッホ•シェーンライン紫斑病)、 そして感染後あるいは薬物誘発性症候群、などが含まれる。
・AAVのための一般的なパターンは、DAHと糸球体腎炎を含む肺腎症候群である。
・鑑別診断には、グッドパスチャー病、 薬物誘発性血管炎、SLE、抗リン脂質抗体症候群、感染症、腫瘍 (あとの3つは血栓性微小血管メカニズムを介して) が含まれる。

・頭頸部の関与は、WGで最も一般的な症状だが、MPAでは事実上存在しない。CSSでは少なくとも50%が慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、を呈する。

・末梢神経障害はすべてのAAVで一般的だが、 WG(10%-50%)より、CSSとMPA(50%-76%)でより一般的。多発単神経炎と対称多発神経炎は最も一般的なパターンとして記載。最も一般的に関与は腓骨神経と下肢。
・AAV関連神経障害の鑑別は幅広い:局所性感染(例えば、結核、ノカルジア)、感染症播種(例えば、心内膜炎)、新生物(例えば、リンパ腫)、脱髄疾患(例えば、急性脱髄性脳脊髄炎、多発性硬化症)、脳卒中や虚血性神経障害、代謝性または中毒性神経障害、結節性多発動脈炎やSLEなどの自己免疫疾患、が含まれる。

・皮膚症状は、AAVのすべて病型で共通で、患者の少なくとも40%~50%が疾患のいくつかの時点で出現。
・触知可能な紫斑palpable purpura、指の虚血または壊死、皮下結節が症候としてよく見られる
・分枝状皮斑Livedo racemosaはCSSとMPAを、口腔または鼻腔潰瘍は歯肉増殖症gingival hyperplasiaとの組み合わせでWGを示唆。
・他の結合組織疾患、 クリオグロブリン血症やヘノッホ•シェーンライン紫斑病などでもpalpable purpuraは頻繁に存在。
・過敏症(皮膚小血管性血管炎)はそれが無症候性であれば、AAVから区別することができない。


臨床検査とANCA

・AAV疑い例の初期の基本的検査は、CBCと白血球分画、血清Cre、トランスアミナーゼを含む生化学、尿検査、炎症マーカー(ESR、CRP)を含める。 クリオグロブリン検査や、B型およびC型肝炎検査はこれら除外するため施行。
・血小板減少症は、AAVでは珍しく、SLEまたはC型肝炎感染関連クリオグロブリン血症などの疾患を疑う。
・血尿および/または蛋白尿(通常は非ネフローゼ範囲内)は血清Creよりより疾患早期に腎障害を示しうる。
・炎症反応上昇は一般的だがこれらの不在はAAV存在を除外しない。

・抗糸球体基底膜抗体(抗GBM)は、グッドパスチャー病限定ではないが、急速進行性糸球体腎炎、肺-腎症候群の症例では予後に関する情報(あれはより深刻)と治療意味(血漿交換適応の可能性)を持つ。

・好中球細胞質抗体(ANCA)のための間接蛍光抗体(IIF)テスト と、PR3とMPOに対しての直接抗体のための酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)は 有用な検査で、AAV診断のためのサポートを提供。
・AAV以外の様々な疾患でANCA擬陽性結果を持つ。
・一般的には、IIF ANCA試験が最初にオーダーされ 陽性の場合、PR3とMPOに対する抗体のELISA試験で確認される。
・典型的には、細胞質染色(C-ANCA)はWGに関連付けられ、核周囲染色(P-ANCA)はMPAに関連付けられている。しかしWGでP-ANCA、MPAでC-ANCA陽性を呈する可能性もある。
・しかしこれら検査は結果まで長い期間がかかるので、同時検査オーダー法が提唱、時に陽性のELISA PR3またはMPOと陰性のIIF ANCAが発生し( "非定型Atypical " ANCAパターン)、この臨床的意味が報告されている。
・ "非定型" ANCAパターンは、AAVに関連して示されうるが、これらはより一般的に他の自己免疫疾患または炎症状態で見られている。
・生検で確認されたAAV患者の少なくとも10%は、IIFANCAまたはELISA試験のいずれも陽性結果を持たないことに考慮


(次回に続く)

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