感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

アミノアシルtRNA合成酵素抗体と抗シンセターゼ症候群について

2014-06-05 | 免疫

当院呼吸器内科へ間質性肺炎の評価のため他院から紹介されますと、当科にも膠原病精査のため相談されます。もともとは抗Jo-1抗体くらいしかなかった多発性筋炎・皮膚筋炎の診断ですが、診断補助のための抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)テストが最近保険収載されましたため、この検査の解釈をしないといけない症例も最近でてきました。近年、抗ARS 抗体を有する患者において間質性肺炎など独特な臨床的特徴組み合わせが観察され 抗シンセターゼ症候群(ASS)と呼ばれています。
MBL社の「MESACUP™ anti-ARSテスト」は抗Jo-1、抗PL-7、抗PL-12、抗EJ、抗KS抗体の5種の一括検査で逆に個々に検査できません。さらに「抗ARS抗体(イムノブロット法)」という検査(保険はきかない、2万円)を追加すると、ARS各抗体とMi-2、Ku、PMScl、SRP抗体なども含めて11種類を個別に測ってくれるようです。
ASS症候群の特徴および各ARS抗体それぞれにどんな疾患個性があるのか文献でまとめてみました。





まとめ

・自己抗体は、多発性筋炎(PM)および皮膚筋炎(DM)を含む特発性炎症性筋疾患を有する患者の50%の血清中に検出可能であり、 筋炎関連および筋炎特異的抗体(それぞれMAAとMSA)で構成されている。
・筋炎特異的抗体(MSA)は、抗Mi-2、抗PM/Scl、抗SRP、抗antisynthetase抗体(ARS) など

・アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)への反応性抗体もまた、PM /DMの患者で検出される代表的な抗体である。
・抗ARS抗体は、アミノ酸とその同種のtRNAからアミノアシルtRNAの複合体形成を触媒する細胞質酵素に対するものである。
・現在までに8つの抗ARS 抗体が記載されている:抗ヒスチジル(抗Jo- 1)、抗-スレオニル(抗PL- 7)、抗アラニル(抗PL- 12)、抗-グリシル(抗-EJ)、抗-イソロイシル(抗OJ)、抗アスパラギニル(抗KS)、抗-フェニルアラニル(抗Zo)、および抗チロシル(抗Ha)tRNA

・抗JO-1は最も一般的に同定されDM患者の5~10%、PM患者の20~30%で発見されている。他の抗ARS抗体は、はるかに少ない。抗PL- 7または抗PL- 12は患者の2~5%で検出、残り(抗OJ 、抗EJ 、抗KS 、抗Zo、および抗チロシル)は患者の<2%において同定

・抗Jo-1抗体以外の抗ARS抗体測定は免疫沈降法で行われており専門的な技術が必要である。
・ARSの対応抗原が細胞質に存在するため、抗核抗体スクリーニング検査で細胞質が染色される cytoplasmic pattern から予測が可能である
・複数の抗ARS抗体は、一般的に共存しない

・抗ARS 抗体を有する患者において観察される臨床的特徴の独特な組み合わせに基づいてTargoffは“抗シンセターゼ症候群(ASS)”と呼ばれる病態を提案している、それは筋炎、間質性肺炎(ILD)、発熱、レイノー現象、関節炎、およびmechanic’s handsによって特徴付けられる。
・シェーグレン症候群(SS)および全身性硬化症(SSC)とのオーバーラップ症状もまた非常に一般的に報告されている。したがって、ASSはheterogeneousな疾患として臨床的に考えることができる。
・ASS診断基準:抗ARS抗体の存在+ (大基準2つ or 大基準1つと小基準2つ)
 大基準: 1.ILD(他の原因の除外)、 2.PM or DM (Bohan & Peter基準による)
 小基準: 1.関節炎、 2.レイノー現象、 3. mechanic’s hands

・抗Jo-1陽性で、関節炎は手関節と中手/指節関節を含み対称的であり患者の最大75%で観察されるが、近位節間関節、肩、膝、肘はあまり影響を受けない。

・更なる観察で、個々の抗ARS抗体に関連した臨床的特徴においていくつかの違いが区別されている。
・抗Jo1抗体は密接に筋炎と関連していることが報告。 抗KS抗体は、筋炎の臨床的徴候なく、ILDを有する可能性が高い。
・Satoらは、以前、日本人患者における抗PL-7の存在とPM/DM-SScオーバーラップならびにILDに密接に関連していることを報告

・免疫沈降アッセイによって検出された抗ARS 抗体の166名の成人の日本人患者のレトロスペクティブ分析。抗ARS抗体の特徴は、抗Jo-1(36%)、抗EJ(23%)、抗PL-7(18%)、抗PL-12(11%)、抗KS(8%)、および抗OJ(5%)であった。 筋炎は密接に、抗Jo-1、抗EJ、および抗PL-7に関連。間質性肺疾患(ILD)はすべての6つの抗ARS抗体と相関。 皮膚筋炎(DM)特異的皮膚症状(heliotrope疹及びGottronサイン)はしばしば抗Jo-1、抗EJ、抗PL-7、および抗PL-12保有患者において観察。
・皮膚症状の分布は、抗ARS 抗体保有者の間で様々で、抗EJ 、抗PL- 7 、および抗PL12保有者の約20-30 %がヘリオトロープ発疹があり、これは抗Jo1保有患者のわずか10%未満であった、一方、抗JO-陽性患者のGottronサインの頻度は、抗EJ 、抗PL- 7 、および抗PL- 12のものと比較して同様であった。
・したがって、臨床診断は、抗JO-1、抗EJ、および抗PL-7ではほとんどは多発性筋炎またはDM;  抗PL-12では臨床的にamyopathic DMまたはILD; そして抗KSおよび抗OJではILD  であった。
・初期症状として筋炎を伴わずにILDを持っていた 患者は、筋炎のその後の発生率は抗ARS 抗体のサブセットの間で異なっていた。抗Jo-1、抗EJ、および抗PL-7保有患者では、疾患発症時にILDのみを持っていた場合、後に筋炎を発症した。 
・抗ARS抗体保有のほとんどの患者は疾患発症時にILDを持っていなかった場合は、最終的にILDを発症した 。

・抗ARS 抗体患者ではほぼすべてがILDを持つが、筋炎に関しては抗ARS抗体患者は筋炎関連および非筋炎関連のサブグループに分割されるようである。とりわけ抗PL-12および抗OJは筋炎に関連しているかどうかは議論の余地が残る。
・筋炎のないこれらの患者では、診断的ASSは難しいままで、基本的に抗ARS陽性に基づく。
・臨床医は 明らかに“isolated ILD”の患者では、すべて抗ARSを調査する必要がある
・多発性関節炎とmechanic’s handsは最も頻繁に抗Jo1抗体で見られ、 レイノー現象は最も頻繁に抗PL-12で発見された。
・抗PL-12陽性患者のうち、レイノー現象は40から100%で発生するがmechanic’s handsはまれである。


・三つの異なる抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体(抗ARS)の233名の連続した患者のレトロスペクティブ多施研究。 抗Jo1と比較して、 抗PL7および抗PL12の患者では ILDがより頻繁(67%対80%および88%、p = 0.014) 、一方で、 筋炎はあまり一般的でなかった (44%および74%対47%、p

・Tomiokaらは、抗EJと抗CCP抗体との二重陽性で間質性肺疾患を発症しのちに関節リウマチになった症例を報告。肺の病理組織学的研究はNSIPパターンを示した。数年の慎重なフォローアップ期間にわたって臨床的に明らか筋炎を発症せず。
・NSIPパターンに加えて胚濾胞を有するリンパ過形成は、“肺支配的な結合組織疾患lung-dominant connective tissue disease”のための提案された仮の基準の一つとして重要である


・ASS関連ILDの多くの患者では呼吸困難の発症は徐々に(数ヶ月にわたって)発生する。しかし患者の一部ではILD、発熱、呼吸不全の発症は急激である。
・ASS関連のILDの患者では、免疫抑制薬への応答は、一般的にかつ普遍的にではないが良好である。
・炎症性筋疾患(特にDM)と悪性腫瘍との関連付けはよく認識されているが、抗ARS抗体では悪性腫瘍を持っている可能性が低い


参考文献

PLoS One. 2013;8(4):e60442.

Autoimmun Rev. 2012 Dec;12(2):210-7.

Respir Investig. 2012 Jun;50(2):66-9.

J Bras Pneumol. 2011 Jan-Feb;37(1):100-9.


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