感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

腸腰筋膿瘍のまとめ

2014-07-09 | 感染症

発熱と右側腹部痛をきたした中年女性の方で糖尿病の基礎疾患のある方が、腹部CT検査にて腸腰筋に10cmを超える巨大な膿瘍形成をみとめ当院消化器内科から当科へ紹介されました。さっそく入院翌日には整形外科にて開放ドレナージ手術を施行いていただき、当科で抗菌薬管理中です。腸腰筋膿瘍はまれな感染症ではありますが、当院でもたまに見られます。文献も多くないのですが、まとめてみました。



まとめ

・腸腰筋膿瘍(IPA)は、最初1881年にMynterによって記述され、これはpsoitisと呼ばれた。
・IPAに関する文献の大半は症例報告と短い症例集積の形態である。

・iliopsoas compartmentは大腰筋と腸骨筋が含まれている腹膜外空間である。
・大腰筋と腸骨筋psoas major and iliacusは、 時には腸腰筋iliopsoasという名前の単一の筋肉とみなされる。 L2、3、4枝により神経支配され、 それは股関節の主要な屈筋である。
・大腰筋はT12からL5の椎体の側面境界から生じ小骨盤縁に下向きに進み鼠径靭帯下や股関節包の前を通過し腱で終了、腱は腸骨筋線維ほぼ全部を受け大腿骨の小転子に接続
・腰筋は、S状結腸、虫垂、空腸、尿管、腹部大動脈、腎臓、膵臓、脊椎、および腸骨リンパ節などの器官に近接して位置する。したがって、これらの臓器における感染は腸腰筋に広がりうる。

・IPAは、一次又は二次に分類することができる。
・一次性IPAは、遠隔部位から原因菌の血行性やリンパ性転移で発生する。明確なフォーカスを持たないかもしれない。
・二次性IPAは腸腰筋に近接した、感染/炎症過程の直接拡張の結果として生じる。最も一般的に、特に、腹腔内炎症過程から腸起源のものが発生。
・二次性IPAの起源としてこれまでの報告例: 胃腸(クローン病 憩室炎 虫垂炎 結腸直腸癌) 、泌尿生殖器(UTI、尿路計測)、 筋骨格感染(椎骨骨髄炎 仙腸関節感染 敗血症性関節炎)、他(外傷性 心内膜炎 肝細胞癌 大腿動脈カテーテル法)

・一次性(原発性)の要因:糖尿病、静注薬物濫用、腎不全、AIDS、免疫抑制状態
・IPAの病因的考察から、クローン病の新たな診断につながったり、HIVなど免疫不全状態を見出すかもしれない

・最大の場合においても、最終的な微生物学的診断はわずか症例の75%で発見
・ほとんどの場合、単一の微生物が関与
・しかし複数菌であってもよい、消化管または尿起源から生じる膿瘍でより頻繁

・一次性IPAの患者では、黄色ブドウ球菌は症例の88%以上の原因 (そして また二次性IPA(骨格感染症起源)でも )あとは、Streptococcus(4.9%)および大腸菌(2.8%)

・二次性IPAの他の二つの最も一般的な病因、すなわち、消化管や尿路起源 では大腸菌が最も一般的
・IPAの原因として結核菌は、西洋では現在珍しいが発展途上国では一般的。
・他の原因菌としては、 プロテウス、パスツレラ•Pasteurella multocida、バクテロイデス、 クロストリジウム、エルシニア腸炎、クレブシエラ属、サルモネラ、マイコバクテリウム(M.kansasiiおよびM.xenopi)

・鼠径部、腰部、臀部や領域で行われた器具類または手技を受けた患者は、IPA発症の特定のリスク

・鑑別診断 :憩室炎、虫垂炎、 知覚異常性大腿神経痛、坐骨神経痛、腎疝痛/腎盂腎炎、子宮内膜症、原発ユーイング肉腫、股関節の敗血症性関節炎、腹部大動脈瘤 など

・臨床症状は、多くの場合、様々で非特異的。 発熱、腰痛、limp(足をひきずる)からなる古典臨床三徴はIPA患者の30%のみで存在

・診察所見
・患者姿位  中程度に屈曲した膝と、股関節は軽度に外転させた仰臥位
・腸腰筋サイン psoas sign
  1.検者は患側の膝のすぐ上に手を置き、患者に検者の手に対抗して大腿を持ち上げるように求める。これは大腰筋収縮を引き起こし疼痛をもたらす。
  2.患者は正常側を上にして横たわり、検者は病変側の股関節の過伸展をなすと大腰筋がひっぱられて疼痛をもたらす。
(注意:これらのテストは、腸腰筋の炎症が腸腰筋膿瘍を形成することなく存在している虫垂炎例でも陽性であることがある)

・鼠径靱帯下の痛みのない腫脹を呈することがある (大腿ヘルニアや鼠径リンパ節腫大と混同されうる)

・血液培養は、膿瘍を引き起こす特定の微生物のため陽性の場合がある。
・腹部単純X線写真では異常な腸腰筋影や軟組織の腫瘤がみられうる
・超音波は実施が容易であるが検者に依存性で、症例のわずか60%で診断される。
・CT検査は、確定診断のために行われるべきであり、「ゴールドスタンダード」と見なされる

・治療は膿瘍のドレナージとともに適切な抗菌薬の使用
・一次性IPAが疑われる患者では、抗ブドウ球菌抗菌薬は培養結果の前に始めるべき
・二次性IPA例では、クリンダマイシン、抗ブドウ球菌ペニシリン、アミノグリコシドのような広域抗菌薬を開始するのが賢明

・何人かの著者は示唆してが、標的を定めた抗菌薬は60mm大くらいの膿瘍を治療するのに十分であるかもしれない。しかし膿瘍吸引なしでは、これらの抗菌薬は多くの場合、標的治療よりもむしろ「最良の推測治療」である。

・膿瘍のドレナージは、CT撮影ガイド下経皮的ドレナージ(PCD)または外科的ドレナージを介して行うことができる。
・経皮的ドレナージと比較して、開放ドレナージの利点は、回復時間を短縮するのに役立つ可能性がある、隣接する組織のデブリードマンを行うことができること
・小膿瘍、膿瘍内複数sepateまたはアクセス不能な場所の膿瘍など、CTガイド付きドレナージの技術的な限界もある。
・文献では、多くの小膿瘍例では単独で抗菌薬使用で治療することができることを示唆。

・抗菌薬は時々、完全な膿瘍ドレナージ後2週間まで継続される。
・抗菌薬の最適な期間は不明。十分なドレナージに続いての治療の3~6週間は、おそらく適切。
・フォローの画像検査は、治療への満足な応答を確保するために、抗菌療法の計画されたコースの終わり近くで行われるべき

・Ricci らは、未処置の患者の死亡率は100%であることが示唆



参考文献

Postgrad Med J. 2004 Aug;80(946):459-62.

Int J Surg. 2012;10(9):466-9.

Dig Dis Sci. 2002 Sep;47(9):2103-5.


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