押しても駄目なら

風が吹けば、と共に非線型現象の第二例でしょう。

文芸時評という感想 荒川洋治 四月社 その2

2006-12-28 16:21:51 | 齧り書き
昨日が図書館の貸出期限で、今日返す事にしたので、慌てて感想を一つ二つ。
1.著者は大江健三郎について二三の批判をこの本の中で書留めている。ノーベル文学賞を貰った高名な作家に対してそうする事は度胸のいる事ではないかと思うが、そればかりでなく、その意見、考え方に共感するものがあるので、私のメモしておきたい。
251頁「座談会昭和文学史」特別版(すばる)は八十頁に及ぶ特集<大江健三郎の文学>。「死者の奢り」から最新作までの歩みを大江氏と、井上ひさし、小森陽一が語る。
 近作「宙返り」「取り替え子」は、どうみてもこの日本の現実からずれているとしか思えない平凡な作品であり、それにふさわしい文章の集まりだとぼくは思うのだが、批評家はそうはみない。ここでも、二人の「理解者」によって称賛されている。
「今までお書きになられてきた一つ一つの小説が、読者が『取り替え子』のどこに力点を置いて読むかによって違うつなぎ合せ方ができる。そのことでそれぞれの読者が、じぶんないの全体小説を、大江さんのテクストを使いながら自ら編み直すことができる」(小森氏)
 読者が「編み直」してまで読む小説というものがあるらしい。そこまでして読むべきものなのだろうか。「大江さんの初期の文章と最新作の文章を比べると、本当に長い旅をなさっている。質が高いけれども実に柔らかで、頭にしみこんでくるような文章が実現されています。読者を大きく出迎えるような文章に感動しました」(井上氏)
感動の「日本語」が続く。
2.吉本隆明著「日本近代文学の名作」に対する感想、評価を読んでこの本を読みたくなった。吉本隆明の自発的な評論を荒川洋治は評価しているのである。近頃はある種の企画に基づいて評論が行われ、提示される。それを荒川は多分胡散臭いとおもっているのではないか。
3.内田春菊の作品について何やら面白いことを書いているなあ、と記憶しているが、今探しても何処だか見つからない。

この本は買うほどの余裕も馬力もないが、また、暇を見つけて、借りて読んでみたい。

「正しい戦争」は本当にあるのか 藤原帰一 その3

2006-12-23 17:35:01 | 齧り書き
第四章の小見出しには
「経済がだめだったから冷戦が終わったわけではない」とか「ゴルバチョフの外交革命」「ゴルバチョフはなぜ江沢民になれなかったのか」・・・とあり、中身もとても面白い。しかし、ここでは端折ることにする。

その2で書いたように大切なのは中国は共産党政権で市場経済の国家である、と言う点である。

第六章 アジア冷戦を終わらせるには
小見出しは
・アジアの冷戦は中国から始まった
・アジア冷戦は中途半端に終わってしまった
・70年代、アメリカに見捨てられたアジア
・アメリカにとって中国は敵であり味方である
・日本のばら撒き外交を評価する
・ベトナム,カンボジアでは日本外交は成功した
・でも北朝鮮はうまくいかなかった
・・・・

・アジアの冷戦は中国から始まった
ーー・・・まず、アジア全体でなにが起こっているのか、その辺から教えていただけますか。
「・・・まず社会主義国が残っているでしょ。北朝鮮、中国、それにベトナムとか。体制の違いも、軍事的緊張もまだ続いている。だとすると、冷戦終わったヨーロッパなんかとは違って、抑止が必要。ということはアメリカを頼りにするしかないってことになるわけです」
・・・
「アジアで冷戦と言うとどことどこの国になるのでしょう」
ーー???
「アジアの冷戦はアメリカと中国との関係が中心にあるのです。その源は中国の革命です。少し遡ると、辛亥革命で清朝が倒れ、軍閥、国民党、共産党が出て来て内戦になり、日本が攻め込んで、負けると、また内戦になり、最後は共産党が支配する。そうしたことが周辺にも影響を及ぼし、朝鮮、ベトナムで共産党をはじめとする独立運動が起こる。
・・・
だから、冷戦、対立構造は一国ずつ解決しなければならない。そこがヨーロッパとソ連の場合と異なる」

・アジア冷戦は中途半端に終わってしまった
「・・・アジアでの冷戦終結は米中対立の終りということで、社会主義体制はこわれない。1971年にキッシンジャー補佐官の北京訪問と翌年のニクソン訪中で対立は終わる。しかし、北朝鮮、ベトナムとの対立は残る」
・・・
ーーアメリカは中国と戦争になるの避けたかったから(ベトナム戦争から米中戦争・・・朝鮮戦争がそうだったとの認識)、敢えて敵に近づいてったといいうことですよね。まさにキッシンジャー的権謀術数の外交というか。

次の小見出し
70年代、アメリカに見捨てられたアジア
「この米中の接近は、東アジアの資本主義国に大きな衝撃を与えます。・・・米中頭越しの接近ってやつですね。・・・実際、ニクソン大統領はアメリカがアジアから撤退する方向を打ち出した。グアム・ドクトリンって呼んでいます。こうなると、韓国もASEAN各国もアメリカが自分達を見捨てようとしているんじゃないか、どうしようって考え始める。
ことに韓国が大変混乱しましてね。米中の接近によって孤立すると考えた韓国・朴正熙政権が独自外交に動いていく。もともと、朴正熙大統領とアメリカの関係はよくなくて、すでにジョンソン政権の頃から在韓米軍を撤退させる構想があった。
<ちょっとここで私の意見を差し挟む。ここらの事実が今日の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権がアメリカとのある種の距離をとろうとしている背景にはこうした歴史的な経緯があるのかァ、と言う印象>
・・・米中接近で、韓国はもうアメリカに守ってもらえない、どうしよう、ということになる。そこで、外交面では北との関係改善に動き、南北の赤十字会談を実現するんですが、国内では反政府運動を押さえ込もうと、戒厳令を施行します。維新体制の始まり、72年ですね。
 北朝鮮は逆に元気になっちゃって、アメリカがアジアから撤退して、北朝鮮の影響力が拡大する大きなチャンスになったと考えます」
<1.社会主義国が倒れて西側に合流すると言う西欧型の冷戦終了ではない。
2.米中だけの戦略的、権謀術数的な和解ですから、状況に変化で関係は悪化する事もある、
3.中国以外の社会主義国はこの権謀術数的和解からは取り残されている。
4.アメリカ以外の資本主義国もこの権謀術数から取り残されている。
5.従って、アジアは基本的には不安定と言う事になる>
これが私の理解。この本が書かれたのは2003年だが、その時読んでいたら、これ程の説得力を感じなかっただろう。三年経って、今回の六か国協議の終り方、決裂に近い終り方などは正にこの枠組みの中にある。グアム・ドクトリンで北朝鮮が勢いを得たという理解の延長上に核開発があるのだろう。
そうしたことを踏まえて日本がどうすべきかについても藤原帰一先生は意見を述べている。が、一旦ここで終る。この本は買うことにした。


続く・・・

「正しい戦争」は本当にあるのか 藤原帰一 その2

2006-12-16 22:36:39 | 齧り書き
第四章 冷戦はどうやって終ったのか
この章は大変面白い。例によって齧り書

資本主義は70年代に勝っていた。
「・・・社会主義経済の行き詰まりっていのはもう70年代の初めにはっきりしているわけです。・・・いわば決着はついちゃってたわけです」
ー資本主義対共産主義の決着はもう70年代についていた・・・。
「・・・市場経済を全面的に押さえ込んじゃった経済、私的所有を否定した経済、これがいわゆる社会主義国の経済ですね。これのやり方は、工業化のために大規模に資源を動員するにはかなり機能的で、最初は経済成長率が高いんですよ」
ーソ連も最初はすごいバラ色だったっていうやつですよね。
「そうそう。ただ犠牲も大きい。農業が犠牲になる。前にも触れましたが、ソ連では農業の集団化と飢饉が起こって、それで無理矢理工業を起していくことになった。中国でも大躍進政策で大変な犠牲を払って、工業化の方向に移行する。当初はよくても、非常に狭いマーケットに向けてモノを作っていくので、効率が悪いんですよね。高コストの経済なので次第に行き詰っていくわけです」

長くなるが、引用を続けると・・・。

「冷戦が経済体制の競争だけだったら決着はわかりやすいでしょう。行き詰まった経済体制を変えればいいんですから。中国はもう80年代から経済体制が大きく変わった。今や、あそこがどういう意味で社会主義国かよくわからないですよね。だけどアジアでヨーロッパと同じ意味で冷戦が終ったというふうに言われていないのは、やっぱり冷戦が経済体制の問題だけじゃなくて、政府の仕組みのことだってことを示している。やっぱり最後は共産党の支配が倒れないと冷戦は終わらないのか、っていうふうになりそうですよね」

この最後のくだりは意味深長である、と思う。こう言う風な考え方は私は知らなかった。ヨーロッパの平和とアジアの平和は違うようだ。

「正しい戦争」は本当にあるのか 藤原帰一 rockin'on ¥1680-

2006-12-14 17:40:07 | 齧り書き
SIGHT 2007冬 の藤原帰一のお話と対談の辺りに紹介されていた本だが、図書館で借りた。
ちょっと齧った印象では新しい形のリアリストっていう感じ。手っ取り早くそれを知るには目次を提示するのが良いだろうか。

1.「正しい戦争」はほんとうにあるのか
  <正義の戦争>による世界分裂/イラク戦争に無関心な日本人/ラヴ&ピースだけ
  じゃダメなんだ/地域紛争ー牛泥棒事件を解決するには/大人の平和主義 ほか
2.日本は核を持てば本当に安全になるのか
  アメリカは核を使うつもりだ/ミニ・ニューク/インドの失敗/南アフリカが核
  廃棄できたわけ/核兵器が安上がりなんてウソだ ほか
3.デモクラシーは押しつけができるのか
  いまや民主化は世界標準だ/アメリカが世界を民主化しているなんて大間違い/
  グローバル経済は従属構造か/グロバリゼーションがテロを生むのか ほか
4.冷戦はどうやって終ったのか
  資本主義は七十年代に勝っていた/ゴルバチョフはなぜ江沢民になれなかったの
  か/「冷戦はアメリカが勝った」史観の完成/冷戦は戦争を否定しないで終った 
  ほか
5.日本の平和主義は時代遅れなのか
  平和主義は理想主義か/外から見た日本国憲法/ヒロシマ/自衛隊のPKO派遣
  を支持する/ドグマの平和から現実の平和へ ほか
6.アジア冷戦を終らせるには
  七十年代、アメリカに見捨てられたアジア/日本のばら撒き外交を評価する/日  朝階段とその後のちぐはぐ/<大国>日本のあるべき姿 ほか
あとがき

新しい考え方が提示されていると私は思う。感情的、情緒的でない外交の考え方の一つが示されている。信じろとは藤原先生も仰ってはいない。冷静に考えよう、と言っている。

文芸時評という感想 荒川洋治 四月社 ¥3360-

2006-12-13 23:54:49 | 齧り書き
SIGHT 2007冬 の高橋源一郎と斉藤美奈子の評論に取り上げられていた本。図書館で借りて、こんな本を読む人は居ないのか直ぐ借りられた、パラパラ。うーーん、難しい。
取り敢えず、「はじめに」の一部を紹介する。文芸時評とは・・・などの文芸誌の作品を読んで、批評を書くことだ。ぼくには批評を書く力はないので、作品の感想を書いた。すなおに書くことにした。
 文芸時評は、掲載までに間がない。すぐ書く。文を案じるひまも、語を選ぶゆとりもない。切迫した空気のなかに、置かれる。挟まれる。そのために、そこでこそ感じとれることもあるという、不思議な世界である。・・・。
 ここに表題の意味が書かれている。後二週間の貸出期間でどれだけ齧れるか。

SIGHT 2007冬 季刊誌 ¥780- 

2006-12-09 08:24:26 | 気になる記事
本屋の店頭でおや?パラパラ・・・、面白そう、買おう、で買ってしまったのだが、読んでも面白かった。

おや?と惹きつけられたのは表紙、グラヴィア写真、執筆者名(吉本隆明、藤原帰一、小熊英二、中村哲、・・・)。これらの綺羅星のような方々が語っているテーマは特集「君は読んだか!自民・憲法改正案の本音」である。もう一つの特集は「ブック・オブ・ザ・イヤー2006!!」でこちらの話者は高橋源一郎、斉藤美奈子、・・・。本当にお買い得の一冊だった。

憲法問題に関するこれらの執筆者の説話は最近のあれこれを踏まえたお話で傾聴に値し、耳目を開かれる。
しかし、それにも増して、高橋源一郎・斉藤美奈子のお話は面白い。「国家の品格」藤原正彦 なんてケチョンケチョンだ、ご本人の仕事まで疑われている。面白いのでさわりを少し引用しよう・・・。
高橋 僕、今回これ読むの2回目なんだ。でもなにも覚えていない。
斉藤 だから200万部なんです(笑)。
高橋 文章に品格がないのだけは覚えてる(笑)。これは居酒屋談議っていうか、おじさんが酒場で「日本人はすごいぞ」って言ってるのを聞くのと耐えられる人だけ、読める。あと説教されるのが好きな人は読める(笑)。
斉藤 東大の曳船健夫さんが『「日本人論」』再考(NHK出版)で、岡倉天心、内村鑑三、『武士道』、そのへんの日清・日露戦争の頃に沢山出た日本人論を分析しているんですね。・・・
全部書いてしまいそうなので、ここらでやめよう。

思い返してみると綺羅星の著者を並べただけでなくその方々に良い力の入った原稿を書かせたのは編集者だと気付いた。編集者は渋谷陽一でロッキンオンで活躍している人だとか・・・。たいした勉強家のようだ。この雑誌のレイアウトのセンスもなかなか。

改めて、近年稀な経験のお買い得の一冊であった。

日本列島の誕生 平 朝彦 岩波新書 ¥650-

2006-12-04 16:31:24 | 気になる本
小泉武栄の「不思議を発見する山歩き」に紹介されていたので、図書館で借りて読んだ。面白い、現場の話、Field Work、が生き生きと書かれている。高くないので買うことにした。
著者が四国でField Workで学んだ四万十帯という地層、露岩などなどと海底掘削船による南海トラフの掘削の結果から判るダイナミックな日本列島の形成史。豊富な事例と共に説得力を持って読者を楽しませて呉れる。動的な形成史の根底にあるのはプレートテクトニクス理論である。
伊豆半島が本州に衝突して、富士山噴火と形成、南アルプスの形成、丹沢山塊の創生、などなど、身近で面白い。お勧めの本である。