Mr.コンティのRising JAPAN

マスコミの書かない&書きそうもない!スポーツ界の雑学・裏話を、サッカーを中心にコメントを掲載していきます。

うつむくなよ 振り向くなよ…….

2008-01-20 | 五輪 U-20, U-17
 第86回全国高校サッカー選手権大会は流通経済大学柏高等学校の優勝で幕を閉じた。下馬評通りといえばそうかもしれないが、予想以上に得点差がついたなぁと言うのが感想。と、言うよりも決勝戦こそ流経は最高のパフォーマンスを披露したと思う。
敗れた藤枝東高校が決勝戦に勝ちあがって来た時に思い出したのは24年前の全国高校サッカーの決勝戦だ。当時小学生だった私は地元大阪代表の初出場校、北陽高校に山野兄弟という双子の選手らがおり優勝候補であると言う新聞記事を見て、その行方に注目していた。この年の北陽と言えばの夏には高校野球ででも北陽高校が大阪府大会を勝ち抜き甲子園に出場しベスト8まで進み、“北陽って野球だけでなくサッカーもやっているんや….” と思ったのを憶えている。その時の北陽には現阪神タイガース監督の岡田氏が1年生ながら出場していた。そして作新学院には怪物江川卓がいた。 
サッカーの全国大会でも北陽高校は山野兄弟の活躍で決勝戦に進出をした。そして決勝戦の対戦相手が藤枝東高校だった。藤枝東は前年度も決勝戦に進出しその時は浦和市立高校に延長戦で敗れたていたので、この決勝戦には彼らも相当な意気込みで臨んできたと思う。そして前年度に決勝戦に出た選手が4名いた。
試合は開始2分に藤枝東が内藤のゴールで先制するが前半27分に山野弟、後半8分にも山野弟がチャンスを作り加藤のゴールで逆転をする。そして後半17分、藤枝東はこの大会随一の選手と言われた中村一義が同点ゴールを決めた、かに見えたがオフサイドの判定で取り消され試合内容では押されていた北陽がそのまま逃げ切り初出場、初優勝を飾った。
しかし、このオフサイドの判定がその後かなり物議を醸していた事を後に知った。この判定については専門誌でも大きく取り上げられ、当時のサッカーファンの間で随分議論されたらしい。家庭用のビデオが皆無の時代だった。この時の中村選手のシュートは先制ゴールを挙げた内藤選手が放ったシュートを北陽GK田中選手が弾いたこぼれ球を押し込んだもので、中村選手のポジションはどうみてもオフサイドではなかったと言うのが大方の証言。しかも線審が一度中村選手の位置に対してオフサイドの判定を下す旗を挙げながら、その直後の中村選手のシュートがゴールに入った途端旗を下げてセンターサークルの方を指すゴールインのゼスチャーをしてしまい、それを見た主審が線審に駆け寄りオフサイドの確認を取りゴールを取り消したと言う行為が大変な誤解を招く原因の一つとなった。しかもその線審は大阪府の審判員で本来起用される線審が風邪で起用できなかった為予備審判として登録されていた審判らしく、大会を通じて高度なサッカーを展開していた藤枝東高校のファンのみならず多くのサッカーファンから “地元の優勝 ( 当時の全国高校サッカーは大阪開催)に肩入れした判定”と非難を浴びるもう一つの原因ともなったらしい。
この大会以降、我が地元大阪代表の高校は優勝どころか決勝にも進出した事もなく、昭和52年度の大会で北陽高校がベスト4に進出したのが最高の成績だったと思う。 これを私は“藤枝東の呪い”と勝手に思っている。 それでなくても関西勢はこの大会は振るわずようやく最近になって滋賀県代表の野洲高校がセクシーフットボールの名のもとに全国制覇を成し遂げてくれた。
この疑惑のオフサイドゴールを放った中村一義選手は大会直後に開催された朝日国際サッカーの日本選抜メンバーに招集され決勝戦の8日後に行われたブラジルのジュベントス戦の82分から交替で出場するなど将来を非常に嘱望されたらしい。そしてこの決勝戦から5年後の1979年3月に国立競技場で開催された日韓定期戦で代表デビューを飾り先制ゴールを決め5年振りの対韓国戦勝利に貢献した。またこのオフサイドゴールのチャンスとなるべくロングパスを入れたのが藤枝東高校の現監督として指揮を執っておられる服部康雄氏であった。

前半 個々の能力と組織力の高さで圧倒

前年と異なり寒さが厳しかった東京国立競技場。準決勝戦から中1週間空いた事が両校にどう影響したのだろう。こうなると“地元”の流経大柏が有利だったか…….それでなくても地力でも勝っていたのだろうが…..
しかし藤枝から150台以上のバスを連ねてやってきた大応援団の後押しを受けて王国を代表する藤枝東こそこの大会で流経大柏が相対する最も厳しい相手であったはずだ。流経大柏は初戦の久御山高校戦で負傷した上條君が復帰して来た。そして累積警告で準決勝戦出場停止だった沖縄出身の比嘉君も戻って来て左SBに入りこれにより海老原君がボランチに。村瀬君が左MFにそして大前君がFWに上がり上條君と2トップを組むことになった。これが流経大柏、本田祐一郎監督の描くベストな布陣だったのかもしれない。ただ個人的には初戦の久御山戦の前半でベンチに下がり、以降出番の回ってこない、全日本ユース選手権で決勝ゴールを決めた小島聖矢君がこの決勝戦で出番が回ってこないか….との点でもあった。一方の藤枝東は準決勝、高川学園戦とまったく同じ布陣。注目のトップ下の河井君がこの試合でもゴールを決めて対戦相手の大前君の得点数に並ぶ事が出来るだろうか…. それにしても大会得点ランクの1位、2位の選手が相対する決勝戦なんてここ数年あっただろうか….. 俺が知らないだけか??
流経大柏のキックオフで始まった決勝戦。開始21秒、いきなり大前君が右サイドからペナルティーエリア内に相手DF二人をかわしてドリブルで切り込む。ここはシュートを撃つ前にクリアーされたがまず彼の能力を相手DFに示す先制攻撃の効果は充分にあっただろう。1分53秒には右サイドで得たFKを中里君がゴール前ファーサイドの大前君を狙うがGK木村君がその前にキャッチ。その直後には藤枝東が平井君の右サイド突破から流経大柏ゴールに迫り連続してクロスを入れる。4分にはまたも同じ様な位置でFKを得た流経大柏が再び中里君がファーサイドに蹴り込み上條君のヘッドが飛ぶがこれも木村君の正面。5分34秒には藤枝東松田君がペナルティーエリアのやや外から倒れこむようにボレーシュートを放つ。立ち上がりは両校共に相手ゴール前に迫るチャンスを得る。試合を面白くする為にも藤枝東の先制ゴールが見たかったが、その直後に先制ゴールを挙げたのは流経大柏。立ち上がりと同じように右サイドから中へドリブルで切れ込み藤枝東の鳥羽君、小関君、小林君に囲まれながらもここしかないと言う様なパスコースで走り込んだ村瀬君に繋ぐとフリーの村瀬君はそれを難なく藤枝東ゴールに押し込んだ。流石大前君と言えるボールキープとパスそしてそのタイミングであった。

   

先制点した流経大柏は尚も藤枝東ゴールに迫る。13分には左からのクロスから上條君が放ったシュートは何とかGK木村君がブロック。17分には海老原君がミドルを放ち、20分、25分には右MFの名雪君が連続してシュートを撃つ。26分には村瀬君が左から中に切れ込み再び左サイドを上がった比嘉君に絶妙のパスを送り、30分には中里君からのFKにCBの秋山君がヘッドを撃つがゴールポストを越える。秋山君は全日本ユース決勝戦では出場停止だっただけに選手権の決勝進出は嬉しかっただろう。34分にミドルシュートを放った村瀬君が37分にはスルーパスを村瀬君に通し、中里君のシュートを引き出す。40分、名雪君が右サイドから逆サイドの村瀬君に送り、藤枝東DF村松君を外してシュートを撃つがここは戻った小関君がブロック。42分はゴール前右サイドで相手DFに囲まれた大前君がノールックで中にいた村瀬君に繋ぎ村瀬君が放ったシュートはGK木村君が何とかパンチングで防ぐ、そのこぼれ球を上條君が拾って中の大前君に送るがおしくもタイミングは合わなかった。流経大柏は全ての選手が決定的なラストパスを出したりシュートを放ったりと多彩な能力を披露。ショートパス、サイドチェンジのロングパスも効果的に回り前半だけで11本のシュートを放ったが藤枝東1年生GK木村君の連発するファインプレーもあり得点は1点に終わった。攻撃面だけでなく守備でも海老原君が相手の要注意選手河井君をタイトにマーク。河井君がボールを持てば海老原君だけでなく二人、三人とマークが付き彼のパスコースを塞ぐ。また4バックのDFラインは高い位置をキープし相手の攻撃を鈍らせ、藤枝東の選手が迫って来ても1対1での強さを見せシュートを撃たせない。結局藤枝東が放ったシュートは前半1本のみであった。
藤枝東は平井君が一人気をはき、彼の左サイド突破からのみチャンスが数度生まれた。立ち上がりからタイトなマークに苦しんだ河井君ではあったが35分過ぎから相手のマークをかわすようになる。41分には中央やや右から左に絶妙のクロスを送りCKを得たが、右側に岡崎君がフリーで流経大柏ゴール前にフリー出ようとしていたのでそちらにボールを渡せば……と言うシーンがあった。 王国を代表する藤枝東が後半“タンレント軍団”流経大柏から同点ゴールを奪えるのだろうか…

   

後半 ゴールラッシュ でもうつむくなよ…..

両校ともメンバーチェンジが無いまま藤枝東のキックオフで始まった後半は立ち上がりからショートパスをリズムよく繋ぎ右サイドから藤田君のライナーのクロスから岡崎君が惜しいシュートを撃つなど藤枝東が主導権を握るかの様に見えた。しかし48分、大前君の大会6得点目で流経大柏が追加点を挙げる。上條君が小関君を背負いながら走り込んだ大前君にヒールパスを送りそこから放たれた強烈なショットはGK佐藤君が何とか弾いたが左サイドに流れたそのこぼれ球を名雪君がファーポストの大前君に戻すと大前君はそのままボレーでシュートを叩き込んだ。後半立ち上がりに出鼻を挫かれた2失点目に藤枝東の何人か選手は落胆の色を隠せない。ここで藤枝東ベンチはまず1点とばかりにFW中村君を投入する。 だが連続して流経大柏のあわやのシーンが続く。53分には上條君が正面から惜しいシュートを放ち、56分には左サイドから村瀬君がドリブルで持ち込みファーサイドの大前君に繋ぎそこから撃たれたシュートはゴールネットを揺さぶるがこれはオフサイド。まだ幸運は藤枝東に残っていたか...61分、この日藤枝東では“敢闘賞”クラスのパフォーマンスを披露し続けた平井君がまたも左サイドを突破し中の河井君に入れてすばらしいミドルシュートを引き出すが惜しくもバーを越える。 やはり藤枝は左サイドの平井君と河井君にボールが回ればチャンスが….. と思った62分、左サイドを村瀬君がドリブルで突破し上條君に、そこからワンタッチで比嘉君に渡りそのままドリブルで持ち込み小関君をかわしてペナルティーエリアに深く侵入。そこへGK佐藤君がセーブに入ろうとすると後方から走り込んだ上條君に戻す。上條君に藤枝東の鳥羽君と石神君が滑り込んでマークに入り3人が重なる様に潰れるがボールだけが後方に流れそこをフリーで走り込んだ大前君が難なくゴールにけり込んで試合を決定づける3点目が入ってしまった。初戦の久御山戦では怪我で34分にベンチに下がってしまった上條君は今大会2試合目の登場であったが、上條君もFW選手。選手権でのゴールを狙いたくなる気持ちを抑えての見事な“潰れ役”に徹したその心意気に“何とか彼にゴールを決めさせてあげたい。”と思ったが69分、海老原君と共にベンチに下がる事に。もう足の調子が限界だったのかな……
こうなると今度は藤枝東が1点を還すかどうかに興味が。71分流経大柏は大前君のCKを村瀬君がヘッドですらし走り込んだ田口君が見事なボレーシュートを叩き込み4点目が入る。GK木村君は思わずゴールポストを蹴飛ばして悔しがる。気持はわかるけどなぁ…試合後服部監督に怒られんかったかな…..
4年前に国見高校が優勝した時は決勝戦で6点差がついたがこの試合はどうなるかとも思った。
しかし満員の国立競技場は一般客の人でも家路に就こうとする人は(恐らく)少なく、残りの20分最後まで声援を送る事を辞めない。そして藤枝東の選手達も懸命にボールを追う。観客の殆どが彼らのゴールを願ったのではないかな….. 81分には河井君のスルーパスが流経大柏のゴール前に通るが稲葉君はわずかに追い付かない。83分には河井君のCKを流経大柏MF保戸田君がヘッドでクリアーしたこぼれ球を拾った石神君がミドルを放つが惜しくもゴール枠を外れる。88分のCKのチャンスには6人の藤枝東の選手がペナルティーエリア内に入って1点を還そうと必死になる。
しかし3分あったロスタイムも過ぎ最後のホイッスルが鳴り響き今年の選手権は幕を閉じた。 流経大柏の見事な優勝だった。選手個々を見てもエスパルス入りが決まっている大前君だけでなく村瀬君や上條君等レベルの高い選手が揃っていた。それはシュートまで持ち込むだけでなく鋭いパスを通したり、次のポジショニング取りが絶妙だったり速かったり。さすがに沖縄出身の比嘉君を例に挙げられる通り全国から集められる私学と思ったが、中学での代表クラスは田口君くらいで、むしろ藤枝東の小関君、鳥羽君そして小林君が中学代表経験者と言う事実をみれば特別 “超中学生クラス”を収集したわけでは無い。むしろ大前君の様に流経大柏で育てて史上初のインターハイ、全日本ユースそして選手権の“3大会得点王”選手を造り上げた。大前君は足首を何度か痛めたらしいがそれが彼の将来の発展の妨げにならない事を祈る。
  
   

中里君、村瀬君そして比嘉君らは流通経済大に進学とか。これでまた関西学連が苦戦を強いられるなぁ….中島聖矢君の2試合目の出番はとうとうなかったけど、卒業後もサッカーを続ける事だろう…… だが初戦の久御山戦、先制ゴールを許し前半ロスタイムに村瀬君の同点ゴールが生まれなかったらどうなっていただろう…..
敗れた藤枝東。スタンドのゴン中山の応援も及ばず静岡学園以来12年振りに優勝を静岡に持ち帰る事が出来なかった。でもむしろ静岡県の高校がそんなに優勝から遠ざかっていたとは驚きだった。単独優勝となると19年前の清水市商以来、あの大喪の礼をはさんだ大会以来か……。決勝戦の相手は千葉県の市立船橋だった。ゴン中山のみならず、REDSの山田、長谷部( Wolfsburg か…) 磐田の成岡そしてメキシコ五輪では山口、富沢の2選手が藤枝東の出身との事。だがこの高校のモットーは文武両道。河井君は慶応大学に進学するらしい。私からみればこう言う選手がいちばん羨ましいなぁ…..
選手権で優勝したからと言って将来が保証されるわけでは無いがこれを糧に頑張れるはずだ。日本テレビの中継アナウンサーが最後に言っていた

これからは人生の国立競技場を目指して下さい  

と言う言葉が今も耳に残る。 がんばれ高校生。うつむくな、そしてふりむくな。

   


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