COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

限りある地球に住む一地球市民として、微力ながら持続可能な世界実現に向けて情報や意見の発信を試みています。

Global Agenda 緊急討論「どう立ち向かう 感染爆発Xロックダウン」詳報

2020-05-09 23:16:35 | Weblog
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文書作成の動機
前掲の「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」と、ユヴァル・ノア・ハラリ氏が語ったパンデミックで変わる世界 ~4月25日のETV特集から~は、世界の知性3人がパンデミックによって人類が未来を左右する重要な選択を迫られていると語ったことを、多くの方々に知っていただきたく、放送内容をできるだけ書き取って作成したものです。本稿も、パンデミックに立ち向かう感染症対策の専門家たちが、封じ込め対策と収束の見込みについて語ったことを、一人でも多くの方々に知っていただきたく、放送内容をできるだけ書き取って作成しました。

目 次
プロローグ
1.日本の感染状況
2.ウイルスの病原性と感染者の症状
3.現在のパンデミックの状況
4.ロックダウン措置の功罪
5.グローバル化とパンデミック
6.パンデミックは何時まで続くのか
7.2021年のオリンピック開催は?
8、ゲスト達から世界に向けたメッセージ

プロローグ
男性ナレーター「何世紀にもわたり感染症と闘ってきた人類。今また未知のウイルスが我々の命を脅かしている。
“テドロスWHO事務局長『新型コロナウイルスはパンデミックと言える』”
世界の知性が一堂に会し、討論するグローバル・アジェンダ
今回のテーマは猛威を振るう新型コロナウイルス。世界の感染者は200万人に迫り、死者は10万人を超えた。感染の拡大を抑えようと世界各地で国境や都市の封鎖が続いている。しかし、事態収束のめどは立っていない。
“安倍首相『緊急事態宣言を発布いたします』”
4月7日日本政府は緊急事態宣言を発令、東京オリンピックも延期された。人類はウイルスの脅威にどう立ち向かえば良いのか


榎原美樹NHKワールドWorld News部編集長「世界は共通の敵に直面しています。それは目に見えない小さな敵、新型コロナウイルスです。多くの国でロックダウンが行われ、医療従事者は命を守る闘いを続けています。地球に住む誰もが影響を受けています。今日はパンデミックに立ち向かう第一線の専門家をゲストに迎え、このウイルスについてお話を伺います。

ガブリエル・レオン香港大学医学部長 アジアトップの医学者の一人。2003年のSARS、2009年のインフルエンザとの闘いの先頭に立った。
進藤奈邦子WHOシニアアドバイザー。伝染病とパンデミックの政策アドバイザー。感染症発生へのアドバイスと対応を担う。
ロバート・ディングウォールノッティンガム・トレント大学医療社会学教授。2005年からイギリス政府のアドバイザー。
河岡義裕東京大学感染症国際研究センター長。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議メンバー。録画のインタビューでご参加。


1.日本の感染状況
榎原「日本政府は4月 感染拡大が著しい地域東京、大阪などに緊急事態宣言を発令しました。政府の諮問委員会メンバーである河岡教授に日本の状況を伺いました。
まず日本の現在の感染状況について教えてください」
河岡「現在日本で拡大しているウイルスは、外国で発生したものです。ほとんどがヨーロッパやアメリカから持ち込まれました。中国からのウイルスはその前に抑え込まれていました」(筆者注釈:4月27日付国立感染症研究所ウイルスゲノム分子疫学調査報告にある)
榎原「武漢で集団感染が起きた時、ここまで速く感染が拡大すると予測できましたか?」
河岡「1月半ばには武漢で何かが起きていると気づきました。その時点で手を打たなかったことは本当に残念です。」正しいことができなかった。日本では二大航空会社が運航を止めませんでした。中国便の運航です。ウイルスの侵入を食い止めるためにはあの時点で手を打つべきでした。中国の旧正月の時期、多くの観光客が来日し、彼らの一部によりウイルスが持ち込まれ拡散したのです」
榎原「今回の緊急事態宣言は感染の拡大阻止に、どういう効果がありますか?」
河岡「この宣言で、政府は人々に外出の自粛を求められます。日本の法律では強制や罰金を科すことはできません。それでもできることはたくさんあります。商店やレストランの休業を要請することができ、これはある程度の効果が期待できます。すでに街中に出る人の数は明らかに減っています。私自身は夜の街に出ることはありませんが、タクシーの運転手に聞くと、宣言が出た日の夜、歓楽街周辺にはほとんど人がいなかったそうです。政府のメッセージは伝わっていると思います」

2.ウイルスの病原性と感染者の症状
榎原「レオン教授、このウイルスの病原性はどこまで分かっていますか?」
レオン「まず、これは私たちが今まで見たことのない病原体で、人間は全く免疫を持っていないことが分かっています。まだ決め手はないのですが、このウイルスの宿主は小さな哺乳類 チュウゴクキクガシラコウモリと見られます。ウイルスがどこから来たか分かっていることと、人間が抗体を持っていないことは確かです。また、この3か月で分かってきたのは、感染者の症状の程度が幅広く、さまざまだということです。感染後無症状か、それに近い状態で回復する人たちには、感染の自覚もないはずです。次に、ある程度の症状を示しても自然と回復する人たち、比較的穏やかな症状から重症の肺炎になり、最後は回復する人もいます。そして割合は小さいのですが、重篤な症状に陥る人たちがいて、人工呼吸器や集中治療が必要となります。症状はここまで把握しましたが、どのような人が重篤になり、どういう人が軽症で済むのか、そこが分かっていません」
榎原「どのように感染し、なぜ感染するのでしょうか?」
レオン「どう感染するかですが、主に呼吸器飛沫により広がっていると考えられます。感染の20~40%は、無症状かごく軽症の感染者が担っていると私は見ています。彼らが潜伏期間に感染源となっているのです。平均して一人の感染者は2~3人を感染させると見られています。ですから感染の抑制は非常に難しく、現在公式には100万人を超えたと言われる感染者も、実際にはさらに多くの人が感染していると思われるのです」

3.現在のパンデミックの状況
榎原「ではWHOの進藤さん、現在のパンデミックの状況をお話ください」
進藤「パンデミックとは世界中に広がっているということです。特にヨーロッパとアメリカでは、毎日爆発的に感染例が増えて、感染の中心になっています。他の多くの国では、流行がまだピークに達していません」
榎原「世界各地の感染拡大のスピードに驚かれましたか?」
進藤「いいえ、急性ウイルス感染への対応をしてきた我々には、驚きはありませんでした。過去のH1N1型インフルエンザのパンデミックとの違いは、今回のウイルスには誰も免疫をもってないということ。だからこそ重篤な患者や死者が多いのです」
榎原「途上国でまだ財政的・技術的に備えがない国はどうすればいいのでしょう?」
進藤「状況を注視する必要があります。まずは各国に新型コロナウイルスの診断能力を上げてもらう。すでに感染が始まっているのか否か。それを監視してもらうことが重要です。また多くの小さな国では、今感染が蔓延している国とは航空便の往来が少ない国もあります。あるいは、感染が始まったばかりの国。そういった国にはまだ少し準備のための時間があります。ですからこの期間中に十分な備えをするよう注意を喚起しています」

4.ロックダウン措置の功罪
榎原「ディングウォール教授、世界各地でロックダウン措置が取られています。5000人以上が亡くなったイギリスもそうです。そちらの市民の反応はいかがですか?」
ディングウォール「ロックダウンは社会ですでにあった緊張を顕在化させています。この政策は大きな家と庭を持つ人が策定して、持たざる人々に押し付けました。公園など公的な場所の使用を巡り、公権力との間に対立が見られます。さらに、ソーシアルディスタンスの要請も対立の要因となっています。私が見るには非常に大きな不満がたまり、頂点に達しようとしています。国のやり方を巡って、市民の間に緊張が高まっています。ロックダウン措置をこれ以上続けられるのか、政府も神経をとがらせています。この措置によって、人々は精神的にも肉体的にも、健康を犠牲にしています。それに見合った利益があるのでしょうか。また、社会的経済的影響はどうなのか、ロックダウン後の社会に不安を抱いています」
榎原「香港は今のところ犠牲者は4人ですね。700万人の人口から考えると抑えられていますね」
レオン「4月7日現在、感染者は900人を超えましたが、おっしゃるとおり死者は4人にとどまっています。しかし致死率を単純に900分の4とは計算しないほうがいい。この2~3週間に入院した患者については、結果がどうなるかわからないからです。まだ割り算はしないほうが賢明です。致死率については私たちも知りたかったので、武漢の初期段階の症例データから計算してみました。そうすると感染者1000人当たりの死者は14人という割合でした。もちろん、年齢層別に見れば割合は違ってきます。70歳以上の患者に関しては死亡リスクが20~30代の約3倍になると推計しました。そもそも70歳以上では、感染自体が若者の3倍と高いのです。ですから、まず高齢者を守らなければなりません。特に、介護施設や老人ホームなど、高齢者が集まって住む場所に注意が必要です。これらはコロナウイルスにとって理想的な環境で、感染が広がる可能性が高いのです」
榎原「ロックダウンの効果はどうなのでしょう?」
レオン「公衆衛生の分野には、柱となる3つの戦略があります。一つは国境閉鎖などの制限です。ほとんどの国が外国との国境で何らかの制限を実施していて、大きな国では大都市間の移動などを制限しているところもあります。国境での制限は、感染の国内への流入や外への流出を止めるものです。二つ目は検疫と隔離です。三つめは社会的経済的に最も影響のある物理的距離を置くロックダウンです。社会の全てが止まります。学校は閉鎖、仕事や経済活動も止まってしまう。社会を構成するすべての人が何らかの影響を受けます。いずれの戦略も、感染のどの段階で実施すべきか適切な時期があります。感染拡大の状況によっては、実施しても意味のない場合もあるのです」
進藤「今おっしゃったのは、感染対策の中核をなすものです。全ての国がこれらの対策を実行に移す準備と能力があれば、おそらくより良い対応ができたと思います。これまでにSARSや鳥インフルエンザで経験し、パンデミックへの対応に準備ができていたアジア諸国に比べると、それ以外の国々では社会や人々が準備できていなかったのかもしれません」
榎原「ディングウォール教授、イギリスの準備状況は?」
ディングウォール「ほかのヨーロッパ諸国より準備できていました。地球規模のインフルエンザのパンデミックを大きな脅威と位置づけ、2000~2001年から対策をしていました。ある意味、20年この日を待っていた。ウイルスの種類は想定とは少し違いますが、国が準備してきたことを今回のパンデミックに合わせて、微調整していけばいいわけでした。しかしイギリスの問題は公衆衛生サービス緊縮の影響に加えて、EUからの離脱に政府や役人の労力が費やされていたこと、しかもパンデミックが到来した時に、経験の浅い政権が誕生したばかりで、メディアとの対立もありました。それらが対応の遅れにつながってしまったのです」

5.グローバル化とパンデミック
榎原「有難うございました。ではグローバル化とパンデミックの相関関係に目を向けてみましょう。

人類対ウイルス
別音声「パンデミックは常に人々の移動とともに引き起こされてきた。16世紀、ヨーロッパ人が南米大陸に天然痘などを持ちこんだ。先住民の6割以上が命を奪われ、インカ文明が滅びる大きな要因となった。100年前、スペイン風邪は世界各地に甚大な被害をもたらした。第一次対戦での軍の移動が感染拡大につながったと言われる。世界中で5憶人、人口の30パーセントが感染し、4000万人が死亡、日本でも38万人が命を落とした。その収束に2年の歳月を要した。
21世紀にはいりグローバル化が加速、国境を超えて旅行する人は、20世紀末の2倍以上の年間延べ15億人に達した。その中で新型コロナウイルスの感染拡大は起きた。


榎原「多くの専門家がパンデミックに関して警告してきましたが、あまり注意は払われませんでした。河岡教授に聞きました。先生のような専門家は、以前からパンデミックに警鐘を鳴らしていました。人々には『大丈夫』だという過信があったのでしょうか」
河岡「それが人間の本質であり、防ぐことはできないのです。すぐに忘れてしまうのです。だから何度も戦争する。教訓は長く残らないのです。ですから繰り返されるでしょう。どうすることもできません。すぐに忘れて、経済などの方が大切だと思ってしまいます」
榎原「スペイン風邪は収束までどのくらい時間がかかったのですか?」
河岡「重要な質問ですね。2年です。2年の間に二つのことがありました。まず第一波で世界中の多くの人が感染しました。第2波が来た時、今と同じように人の移動を制限する措置が取られました」
榎原「二つの波は同じ年のことですね?」
河岡「そうです。春に第一波、冬に第2波が来た。いくつかの国は、規模は違いますが移動を制限したのです。手を打たなかった国もあります。その1年目に多くが感染し免疫を持ったが、全員ではなかった。翌年第3波が到来、また感染爆発です。こうして人々が免疫を持つようになり、ウイルスは弱体化していきました。新型コロナウイルスも同様なのか、はっきりしたことは分かりません」
榎原「レオン教授、21世紀は新興経済が台頭し、多くの人々が世界を行き来するようになりました。今回の事態を回避する方法はあったのでしょうか?」
レオン「それは非常に重要な問題で、経済学者や財界だけでなく、普通の人たちもコロナウイルス収束後に、答えを見出さなくてはなりません。この数十年の間に私たち人類は互いのつながりを強め、グローバル化の恩恵を受け、暮らしも向上してきました。その一方で、不公平や不公正も生み出されてきたのではないか。今回のパンデミックが私たちに示したのは、国際的な供給網が実は無敵ではなかったことです。地政学的あるいは経済的な力でも壊されることはなかったもの、その国際的供給網を、このウイルスはいとも簡単に破壊してみせたのです。国同士の相互依存やそれぞれの国の経済をどう立て直すのか、市民の暮らしや生活の質を元のレベルにどう戻していくのか、さらに再び起きるかもしれないパンデミックや、その他の予測不能の事態からどう人々を守るのか、それが今、世界各国が共通して直面する難問なのです」
進藤「イタリアの同僚に聞いたのです。なぜ新型コロナウイルスがイタリアに広がったのか。特に経済や文化の中心である北イタリアで大きな被害をもたらしたのか。同僚が言うには、人の移動を止めるのが難しかったそうです。レオン教授が言うように、私たちは高齢者の命を守らなければいけない。一方で感染を広げているのは主に若年層です。公衆衛生の警告は、個人個人に届かなくては効果がありません。特にパンデミックの際には、地域社会の役割が重要な鍵となります。でも私たちはまだそうしたレベルまで巻き込むことができていません。政府の関与も必要なのです」
榎原「ディングウォール教授、このパンデミックはイギリスの人々のグローバル化への見方を変えると思いますか?」
「ディングウォール」私たちが適切な歴史観を持っていなかったことが問題なのです。ウイルスから見れば、人間もその他の動物も同じです。ウイルスは何百万年も種の境を飛び越えて生き延びてきました。でも21世紀の私たちは、なぜか人間だけは自然の法則を超越すると信じた。今や人間は科学技術の力をもって自然を支配でき、以前の世代とは違う、そう信じてしまったのです。グローバル化についても、つい最近の現象だと思いがちですが、しかし1918年にだってスペイン風邪=インフルエンザのパンデミックは起きていました。昔、伝染病の感染は貿易ルートに乗ってゆっくり移動していきました。今では国境での管理が難しく、検疫や入国管理ではもはや感染症の防止ができなくなっています。移動時間が短いため、発症前に入国したり症状が見つかりにくかったりもするからです。ですからイタリアの問題で言えば、人々にアドバイスするにしても根拠のあるものにしてもらいたい。例えば2メートル離れるルールにしても、科学的な裏付けがあるものではない。実験室で得られた結果を当てはめているだけです。現実の世界では不確かなものだと思うのですが」
レオン「しかし、私たちが人と人の接触を減らそうとしているのは、この感染爆発の真っただ中で、何とかして人から人への感染の鎖を絶とうと努力しいているからです。あと二つ極めて重要なことを話したいと思います。一つは経済の保護についてです。もちろん健康の保護は何をおいても第一です。でも、もし経済が破綻してしまった場合、その影響がどれほどになるのかをはっきりさせておく必要があります。また、何を犠牲にするか明確にしておく必要もあります。三つめは社会的合意が必要なこと。人々が精神的、感情的に措置を受け入れられるか、社会的受容が必要です。なぜなら、ロックダウンのような厳格な措置をとれば、全ての人に影響が及ぶからです。また、ロックダウンは永遠には続けられない。全ての措置には我慢できる限界があります。ですから、健康の保護、経済の保護、社会の合意、この三つが常にせめぎあいます。この先、全人口が十分な免疫を持つまで続きます。ワクチンができて接種するか、感染と自然回復で免疫が得られるまでです。いずれにしても免疫を持つまで先ほど言ったせめぎ合いが続くのです」

6.パンデミックは何時まで続くのか
榎原「ではこの先パンデミックがいつまで続くのか、ウイルスの攻撃に打ち勝つにはどうすればいいのか、河岡教授に聞きます。普通の生活が戻ってくるまでどのくらいかかるでしょう?」
河岡「世界全体で3年はかかるでしょう。その間、移動制限などの措置が必要です。3年ずっとではないですが。なぜならウイルスは世界のどこかに居座り続けるからです。世界の全ての人が免疫を獲得するまでには長い時間がかかります。それまでは安全とは言えない。少なくともあと2年間は、今の措置を何度か繰り返すことになるでしょう。移動の制限などで感染拡大を抑え込む措置です。そうして元の生活を取り戻してゆく。ウイルスの感染がまた広がれば、再び抑え込みの措置を取る。それを数年は繰り返していくと見ています。それまでに良い治療薬ができることを望みます。そうすれば感染したとしても治療ができ、人々は安心できるからです。ワクチンも数年以内にはできると思いますが、今言われているような1年とかそんなに早くはないと思います」
榎原「なぜですか?」
河岡「ワクチンには安全性が重要だからです。ワクチンには必ず副作用があります。それが危険なものでは困る。危険な副作用があれば人々の信頼を失い、そのワクチンは使えなくなります」
榎原「進藤さん、パンデミックはどのくらい続きますか?」
進藤「現在、私たちは各国と協議を始めています。措置をどのように今の厳格なものから、緩和へと移行させていくかを話し合っているのです。移行するには各国に状況を分析する手段がなければなりません。監視システムが機能することが必要ですし、戦略的検査も実施すべきです。それがなければ、いつどのような状況になれば厳格な措置を解除できるか分析できません。そうするには公衆衛生的手段だけでなく、市民とのコミュニケーションや地域社会の準備、そして社会全体としての取り組みが重要です。今日の午後もこの先の展望について専門家たちと協議する予定です。それを基に、各国へのアドバイスができればと思っています」
榎原「ワクチンについての見通しは?」
進藤「感染症流行対策イノベーション連合の官民連携とWHOの開発計画によって、新しいワクチンの開発は劇的に進んでいます。主要国からの拠出金を確保し、世界の研究者や医薬品業界とも協力して、ワクチン開発は驚くべき速度で進んでいます。できるだけ早く安全で効果のあるワクチンを世界に届けたいと思っています。それでもまだ1年か1年半はかかると思います」
榎原「レオン教授、香港では公務員の自宅待機が解かれ、職場に復帰しているようですが、ウイルスは抑え込まれ、外出禁止は一度で十分ということですか?」
レオン「おっしゃる通り香港では、私達は公務員に対して自宅で仕事をするよう要請する措置を取りました。そして2月にいったんそれを緩和しました。感染の勢いが沈静化していたからです。しかし2週間ほど前に再び在宅勤務の措置をとりました。現在は在宅で仕事ができる公務員は、全員そうしてもらっています。それ以来事態は改善の兆候を見せています。だからと言ってまだ安心はできません。ですから今も厳格なソーシアルディスタンスの措置をとっています」
榎原「普通の生活に戻るにはどのくらいの時間が必要でしょうか?」
レオン「今後は抑制と緩和のサイクルが続くことになります。人々が十分な免疫を獲得するまではね。ワクチン接種ができればいいが、そうでなければゆっくりした自然の感染と回復で免疫を獲得する。この先、何回かの抑制と緩和を繰り返し、パンデミックの消えていくのを待つことになるでしょう」
榎原「ディングウォール教授、イギリス政府は現在の状態がいつまで続くといっていますか?」
ディングウォール教授「政府には今メディアなどから、この状況をどう収束させるのか日程表を示せと圧力がかかっています。個人的には責任ある科学者でも予測は難しいと思います。むしろ今年の6月に終わると言っている人たちがいるのが心配です。レオン教授が言うように、最終的には人々の間に免疫が育つのを待つしかないのです。政府には二つの選択肢があります。一つはレオン教授の言うロックダウンと緩和を繰り返す戦略です。もう一つはスウェーデンが実施している”ゆっくり燃焼する”戦略です(筆者注釈:強制より個人の自主性を尊重して、封鎖の代わりに国民の責任ある行動を求め、多くの人が免疫を獲得することによる感染抑止を期待するもの)。イギリスも最初はこれをやろうとしていましたが、人口のうち一定の割合が免疫を持てば、ウイルスは感染しなくなる、そういう道筋を想定した戦略です。イギリスでちょっと問題だと思うのは、戦争を思わせる比喩を使うことです。まるで近い将来、勝利宣言が行われ、皆で外に出てバーベキューができるみたいに。でもそんな将来はなく、ゆっくり緩和に向かうのが現実です。バーやカフェを開くのはずいぶん先になると思いますが、多くの社会活動が回復できると私は信じています。感染拡大の抑止と両立できると思っています。勿論、重篤な患者を治療する力は残しておかなければなりませんが」

7.2021年のオリンピック開催は?
榎原「レオン先生、日本は今年の夏オリンピックを開催する予定でしたが、1年延期を決定しました。しかし、1年の延期で大丈夫でしょうか。非常に多くの選手や観光客が集まるイベントを開けるでしょうか?」
レオン「まず、非常に勇気のある決断だったと思います。とても難しい決断だったでしょう。そして日本政府とIOC双方にとって正しい決断だったと思います。来年オリンピックが開催できるかどうかは、抗体検査の結果によると思います。現在世界各地で始まっている検査です。この検査が意味するのは、世界のどの地域でどのくらいの人が新型コロナウイルスの抗体を持っているか。このパンデミックの状況を推定することができるということです。もし抗体を持つ人の割合がかなりの割合になれば、さらにワクチン開発の分野で有望な候補があって、世界の人口の半分ほどの人に接種できるような製造と分配が素早くできれば、今回のパンデミックの収束は早まるでしょう。このパンデミックの第一波で、その抗体検査の結果、私たちが想定したほど多くの人たちが感染せず、抗体も獲得していなければ、その先も「抑制と緩和」のサイクルを続けなければならず、パンデミックの収束にはさらに長い時間がかかるでしょう。こうした学術研究の結果如何で変わります。そのいくつかはWHOが調整し主導して行われています。あと1~2か月のうちに、全体の状況がより明確になると思います」

8、ゲスト達から世界に向けたメッセージ
榎原「では、番組の最後に、ゲストの皆さんに世界に向けたメッセージをお願いします。ディングウォール教授から」
ディングウォール「最も重要なメッセージは連帯と忍耐、そして科学的証拠の尊重です。最終的には、レオン先生が強調された政府と市民の間の関係です。関係の維持と市民側の政策への協力が大事です。政府側も現在の措置が市民にとってどれほど厳しいかを理解すべきです。その影響は決して軽くなく、ロックダウンはできるだけ早く解除すべきです」
榎原「進藤さん」
進藤「今一度確認しいていただきたいのは、感染症対策には三つの要素があることです。一つは監視体制、二つ目は予防です。そのための安全で効率の良いワクチンが一日も早く開発されることを期待します。そして三つ目の柱は臨床管理と患者の治療です。つまり、最適な対症療法による臨床管理を行う必要があります。そして、効果のある抗ウイルス剤の開発が期待されます。WHOは今、全ての国が参加できる臨床試験を主導しています。試験ではどの薬が有効であるかを探っています。まずは安全性がすでに確保されているほかの病気の治療薬で、使えるものがないかを優先して調べています。この三つを柱として各国と連携し、監視、予防、治療がそれを最も必要としている世界中の人々に届くように努力しています」
榎原「レオン教授」
レオン「4月7日は世界保健デーでした。世界各地で人々の健康を守るために、看護師や助産師が日ごろ行っている働きに感謝する日です。今、彼ら彼女らにあらためて心の底から感謝を示す時です。医療の最前線で闘い、患者の世話をする医療従事者たちは、医療用の資材が不足する中、わが身の危険を顧みず働いてくれています。ですから、現場の最前線の人たちに感謝したいと思います。もう一つは連帯の意識です。今回のパンデミックでは、世界が試されているのだと思います。今、世界最大の”医療の不公正”を生み出さないことを肝に銘じるべきです。とりわけ所得の低い国との連携が必要です。もちろん私たち自身の社会にいる弱者も忘れてはいけない。三つめは、科学にこの感染症対策を主導させることです。私たちが科学を信じ、良い科学と良い薬を信じてこのパンデミックを収束させましょう。長いマラソンになります。全ての人が同じ船にのっているのですから協力し、思いやりを示しましょう。この非常に難しい時期だからこそ、皆さんの奥底にある人間性を発揮しましょう」
榎原「そして河岡教授のメッセージです」
河岡「外出せずに安全にしてください。理由は、感染しているかも知れない人と距離をおけば感染しません。身を守るのはそんなに難しくないのです。感染者に近づかなければ感染しない。シンプルなことです。外出して帰宅したら手洗いをしてください。このウイルスは石けんやアルコールにとても弱いのです。普通の石けんで洗えば、ウイルスは死んでしまいます」
榎原「皆さん、非常に忙しい時期のご出演ありがとうございました。私たちの番組は新型コロナウイルスについて来月も放送を予定しています。それまでぜひご自身、ご家族、コミュニティーを守ってください。グローバル・アジェンダでした」
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