第8話
『運命が変わる2秒間』
PVが却下され予算がほぼ残っていない広報室では、
どうするか悩み中。
陸と海のPVはかなり出来がいいらしい。
そこで空は去年のPV再利用しようと言われてしまう。
下手なもん出すよりそっちの方がいいと・・・
「う~ん・・・仕方ないかもしれませんね。」
「クッソ~!!」
その様子をずっとカメラで撮っていたリカ。
「物凄~く撮ってますね。」
「あっ、すいません。」
「ドキュメンタリーとしてはおいしい場面だもんね。」
「そうやって稲葉さんが撮ってる時と、
カメラマンの坂手さんが来てる時ありますよね。」
「基地での撮影や動きがある撮影の場合は
プロに任せた方が確実なんで。
ちょっとした雑感はこれで。」
「雑感?」
「取材が長期にわたるドキュメンタリーはこういう形が多いんです。
低予算で作れますから。」
「それだ!」
自分たちもドキュメンタリー風のPVを作ろうと片山。
勿論撮影も自分たちで。
盛り上がってたところ、鷺坂にテーマを問われまた悩む面々。
そこでリカが入隊の理由はどうかと。
入隊説明会で使うなら、
入隊してから働くまでをイメージ出来るようなものをと。
広報室はリカの案に乗っかった。
職場で映像を見ていたリカに声をかける珠輝。
「空井さんって、稲葉さんのこと大好きですよね。」
「えっ?」
「女として見てるっていうんじゃなくて、懐いてる。 みたいな?」
「珠輝はどうなの、空井さん?」
「私に興味ない人興味ないんで、もういいです。」
「あっそう。」
そこへ声をかける阿久津。
新番組の働く女性を取り上げる5分番組の
ネタが足りないとのこと。
了承したリカは少し考えてから珠輝に企画を出してみれば?と。
「結構です。 仕事増えるだけだし。
楽してお給料もらえるならそっちの方が良くないですか?」
そしてお昼に行ってくると出て行く。
側にいて聞いていた藤枝。
「若い子は淡白だよね~。」
「人のこと言えんの?」
「まあね。」
「珠輝ってなんでウチに入ったんだろう。」
「さあ?・・・コネとか?」
「藤枝はなんでだっけ?」
「モテそうだから。」
「あのね、空自を見習いなさいよ。
みんな崇高な使命と目的を持って―」
広報室で聞いたリカ。
「俺はね、すっごく好きな子がいて、
その子が防衛大学の教授の娘で、近づこうと思って入学。
でもすぐフラれて残ったのは厳しい修練の日々。 ホント辛かった。」
「柚木さんは?」
「貧乏だったから。
防大はお金かかんないし就職も出来るしね。」
「槙さんは?」
「体力に自信があったから。」
「比嘉さんはさすがに―」
「就職活動に失敗してからの・・・」
「なんですか?
あっ、 空井さんは?・・・・・ブルーインパルス。」
「はい。」
「そんなもんよ。 理由なんて人それぞれ。」
「片山のは群を抜いてしょうもないけどな。」
「ほっとけ。」
「仕事に対する意識が最初から高いやつなどそうはいないって。
意識ってのは『場』。 『場』が育てるの。」
「場が育てる・・・」
広報室ではPVの主役の隊員を募集したが、
なかなかいないらしい。
片山の中では可愛い女性隊員と決まっているよう。
「稲葉さんは子供の頃から
報道記者になりたかったんですよね。」
「はい。 まあ、なれませんでしたけど。」
「きっかけは何だったんですか?」
「父が新聞の記者をしていて。」
「あっ、そうなんですか?」
「私が小学生の時にバイクで居眠り運転して
自損事故で死んじゃったんですけどね。」
一瞬広報室が微妙な空気になる。
「あっ、そんなに悲壮感はないんですよ。
母子家庭でも然程苦労しなかったし。
母が昔から、あの人は好きなことして
好きに死んだんだからいいんだって。」
「クールな母にクールな娘。」
「私、父のことあんまり覚えてないんです。
取材取材でいつも家にいなかったから。」
「それでもお父さんと同じ報道記者に?」
「そう言われてみれば、なんででしょうね。」
その時、比嘉が資料を見てこの人リカに似てると。
「亡くなった父がC-1輸送機のパイロットだったので
C-1輸送機の整備員になろうと思いました。」
資料を見た片山が可愛いからと即決定する。
その隊員は芳川秋恵、26歳。
その名前に聞き覚えがあった空井。
資料を見て核心に変わる。
昔、基礎過程で浜松にいた時に、
第1術科学校で整備を学ぶ芳川がいたとのこと。
2人で出かけたりもしたことがあると。
さっそく芳川の取材に。
空井に気づいた芳川は懐かしそうに話す。
片山がPV出演、リカはTV出演の依頼をする。
話の途中に整備を頼まれる芳川。
輸送機の前脚の注油は狭いから、
いつも芳川がするとのこと。
作業を見ていたリカは「凄いですね」と。
楽しいと、今は7レベルを目指してると芳川。
「整備員のレベルは3段階あって、その上級です。
最終的には検査員になりたいです。
ウチの分隊にも二人だけいて、あっ、あの人。
飛行機のことなんでも分かっちゃうんです。 整備の神様です。
あと20年ぐらい先の話ですけど。」
「あと20年勉強ですか。」
「はい。」
「今は何年目なんですか?」
「入間は7年です。 それまでは浜松で、
あっ、そこで空井さんと会ったんです。」
空井との昔話をする芳川。
一方、芳川が気に入った片山は、
なんで付き合わなかったんだと空井に聞く。
基礎過程が終わり新田原に異動になって、
なんとなくそのままと空井。
『あしたキラリ』の企画書をリカに渡す阿久津。
リカにディレクションを任せたいとのことらしい。
「番組立ち上げで人手がないし、
空自に詳しいお前に預けた方が早いんじゃないかと。
密着取材と並行して出来ないこともないだろ。」
「折角のご指名ならやらせていただきます。」
珠輝に手伝わないかと聞くリカ。
しかしやはりやる気がない珠輝。
撮影日。
空井がインタビュアーになり、撮影が始まるが・・・
見ていた坂手が「あの位置ダメだろ」と呟く。
撮影は続くが、片山からカットがかかった。
モニターを見る空井たち。
なんかチカチカしていた。
リカにシャッタースピード変えたか聞かれるが、
意味が分からない片山。
坂手から教えてもらっている間、
空井はリカからダメ出しを受ける。
「対象者の目線がレンズに近くなるように、
聞くのはカメラのすぐ隣から。」
「はい。」
「さっきのは完全に横向きでした。
質問は相手の言い終わりを待ってから、語尾が被らないように。」
「はい。」
「相づちも打っちゃダメです。
声が重なると編集しにくくなるんです。」
「はい。」
リカと空井を見ていた芳川が笑って言った。
「なんか先生に怒られてる生徒みたいですね。」
リカは柚木と飲んでいた。
「ただそこに可愛らしく存在するって
どうしたら出来るんですかね。」
「私に聞くか?」
「間違えました。」
「うん。 稲葉大分可愛くなったけどね。」
「全然ですよ。 ああいう子が好きだったんだなと思うと、
何万光年もの隔たりに気が遠くなりま~す。」
「お~い、地球に戻ってこ~い。」
「いいなあ~柚木さんは。
『どんなにオッサンでも蹴り入れても女として見る!』
なんて言ってもらえて。
槙さんとデートしたんですか?
何黙ってんですか。 あっ、それ!
槙さんもしてた。 したんだデート。 どうだったんですか?」
「言えない!!」
「えっ?」
「言えない! とても言えない!
恥ずかしくて死ぬ!!」
「メチャメチャ気になるんですけど。」
無理を連発し、トイレに行く柚木。
そこへともみがやって来た。
「藤枝とじゃないんだ。 とうとう別れたの?」
「だから付き合ってないっての。」
「リカが変な影響与えたせいで株下げたよね、藤枝。
また熱く説教でもしたんでしょ。
そういうのどうかと思うよ。 人は人なんだから。」
リカには全く見に覚えのない話で、
ともみに何があったのか聞く。
ニュースキャスターに志願し、
休暇中のサブキャスターの代理で登板したが、
臨時のニュースが入り、
中継から急にスタジオに戻ったから焦って噛みまくり。
最後に笑って誤魔化したとのこと。
バラエティーならそれでもいいが、報道は・・・
落ち込む藤枝に声をかけたリカ。
「ごめん。 知らなくて。」
「なんで稲葉が謝んだよ。」
「私が異動になった時、藤枝が話聞いてくれた。」
「あん時と今とは違うだろ。 お前最近忙しそうだし。
まあ、今まで通りバラエティーの藤枝でいきますよ。
どの道気まぐれで志願しただけだし。」
「報道のキャスターやりたいなんて藤枝が気まぐれで言う訳ない。
本気でやってみたかったんじゃないの?」
「俺、向いてないし。 真面目にやるとか、一生懸命とか。
何やったって無理な時は無理だし。
最初っから余計なことしない方がいいんだって。」
「それ本気で言ってる? なりたいものがあるなら―」
「お前だってなれてねえじゃん!
報道記者が夢で一生懸命頑張って、
それでもなれてねえじゃん!! ゴメン。」
再びPV撮影。
「撮影って集中力いるね。」
「あまり集中しない方がいい。
ドキュメンタリーの場合、いつどこで何が起こるか分かんないから、
周りにもこうやって気を配ってないと。」
坂手の言葉に空井が反応した。
「戦闘機のパイロットに似てます。」
「集中しないんですか?」
「計器を見つつも、いつどこから敵機が来るか分からないので、
常に全方位に意識を散らしています。
集中するのはロックオンの瞬間の2秒。」
「2秒!? はあ~一瞬ですね。」
「いや、長いですよ。 音速の世界の中では。」
次はリカがインタビュー。
「いつ整備員になることを決意されたんですか?」
「高校で進路に迷って、
その時に病気で死んだ父のことが浮かんで、
父が好きだった飛行機に携わるそんな仕事がしたいなと思いました。」
「お父さん、きっと喜んでますね。」
「・・・だといいんですけどね。」
リカに声をかけた空井。
「思い出してましたか? 記者だったお父さんのこと。
どんな人だったんですか?」
「母曰く、正義のスッポン。 食らいついたら離れない。」
「親子ですね。」
子供心に多分ずっと憧れてたとリカ。
どこにも連れて行ってもらえなかったけど、
田んぼを見たことがないって言ったら、
「そりゃいかん。 これから見に行こう」って車に乗せられたと。
キレイな山があって、大きな湖があって、
周りには水田が広がってて、キラキラ光ってたと。
「父は私に、私たちが住んでいる国を
教えてくれようとしたんだと思います。
その時は分からなかったけど。
あの湖、どこだったのかなあ~。」
撮影予定日は雨。
お墓のある千葉も終日雨。
撮影は中止になり、延期になる。
が、延期にした日も雨・・・
「雨男は誰だ!! お前か?」
「いや、自分スカイですし。」
「お前か?」
「祖父の代から晴れ男でして。」
「違います。」
「片山さん、どうなんですか?」
「うん?」
「遠足で雨に降られたことは?」
「なくはない。」
「修学旅行は?」
「小雨程度?」
その言葉に空井と比嘉が耳打ちする。
「全ての雨が俺一人のせいだとか
非科学的なことで俺を非難するな!」
「自分が言い出したんですよ。」
「このままだと機材費だけで赤字。
更に、今年最初の入隊説明会に間に合わなくなります。」
そこへ鷺坂が強い味方がいると声をかけた。
気象隊に話を聞きに行く空井たち。
木曜が晴れそうとのことで、
今度は芳川のシフト調整を頼みに行く。
前日の水曜の夜は激しい雨。
鷺坂が晴れ乞いするかと。
その頃、リカも局でテルテル坊主を作っていた。
ロケ日の木曜日は見事晴天。
鷺坂も同行し、芳川に挨拶。
そしてお墓で撮影がスタート。
お墓参りをする吉川。
その時、上空を飛ぶ飛行機を見つけた空井。
「あっ、あれ、あれ撮って下さい!! 芳川士長と一緒に。
お父さんのC-1輸送機です。」
上空を飛ぶ輸送機を見上げた芳川。
手配した訳ではなく偶然とのこと。
「稀にあるんだよな。 こういうことが。
みんなの思いが奇跡を呼ぶ。」
PVのチェックをする広報室。
空井はリカに電話。
「もしもし、空井です。 音楽入れして直行すれば
ギリギリ説明会に間に合います。
稲葉さん、撮影に来ますか?」
「勿論、みなさん渾身のPV初出しまで
キッチリ撮らせていただきます。」
「良かった。 許可申請出しといたんで。」
「許可?」
リカを迎えに来た空井。
「説明会って基地でやるんですか?」
「いえ、北海道です。」
「ふ~ん・・・ほっ!?」
「千歳基地への定期便です。
空自は物品も人員も基本空輸なんです。 どうぞ。」
リカに手を差し出した空井。
「不安ですか?」
「いえ、ちゃんと整備してるの知ってますから。」
藤枝のデスクに『藤枝へ』とメモが貼ってあったDVDが。
飛行機では機長からポイント通過まで約1分との連絡が。
「あと1分で通過します。」
「通過?」
「はい。 直接は見せてあげられないんですけど、
お父さんの湖、多分福島の猪苗代湖です。
周りに田んぼがブワ~って広がって、近くに磐梯山。
空から何度も見たことがあります。」
目を閉じて父と見た光景を思い出すリカ。
「ありました。 見えました。 お父さんの湖。
ありがとうございます。」
千歳基地から北海道大学で行われている
説明会に来た空井とリカ。
中に入り説明を見学するが、空席も多く・・・
「確かに盛り上がってないですね。」
「でも私が出たって。」
「みなさん、今日は東京からテレビ局のディレクターさんが
偶然取材にいらしてます。」
「言っちゃった。」
「ずっと航空自衛隊を密着取材してるとのことですので、
我々の仕事の魅力を外側からの視点で
語っていただければと思うのですが。
では稲葉さんよろしくお願いします。」
リカが無理と首を振っていたが強引に話を進めた。
「すいません」と謝る空井。
その頃、DVDを再生していた藤枝。
芳川のインタビュー映像が流れる。
「ナレーション入ってねえじゃん。」
仕方なく話しをするリカ。
「え~、帝都テレビの稲葉と申します。
私は空幕広報室の密着取材をしています。
でも私には空自のセールスポイントを語ることは出来ません。
そこには色んな人がいて、
組織としても色んな問題やどうにもならない状況もあって、
それを分かった気になって一まとめに語ることは
不誠実だと思うからです。
ただ一つ言えることは、どんな仕事でも
自分がやりたかった仕事でも、そうじゃない仕事でも、
真正面から向き合えば、
何か得ることが出来るんじゃないでしょうか。
思い通りに行かないことは沢山あります。
どんなに一生懸命やっても上手く行かないこともあります。
夢があっても叶わないこともあります。
悲しいけどあるんです。 それは。
でも、どんなに失敗しても、なりたいものになれなくても、
人生はそこで終わりじゃない。
どこからでもまた始めることが出来る。」
その頃、DVDを見ていた藤枝はラストの映像に驚く。
そこにはディレクターにリカの名前。
ナレーションには藤枝の名前が入っていた。
DVDに入っていたナレーションの原稿を見ると、
『ミラクル藤枝の再登板を待つ!!』とリカのメッセージが。
それを見て泣き出す藤枝。
「恐れずに飛び込んでみて下さい。
一つ一つの出会いを大切にして下さい。」
空井が拍手すると、聞いていたみんなも拍手した。
そしてPVが上映。
説明会は終了。
「搭乗手続きまで、あと30分です。」
「輸送機の終電のために走る日が来るなんて。」
「終電って。 電車。」
「航空機だから終航?」
「終輸送機とか、ですかね。」
ドアを開けリカを通す空井。
「ありがとうございます。」
「待って!!」
リカの腕を取る空井。
「はい?」
「に、2秒下さい。」
空井はリカにキスをした。
「行きましょう。」
急いで後ををついて行くリカ。
「やっぱ短いですね。」
「えっ?」
「2秒。」
リカは空井の手を取る。
「えっ?」
そのまま空井を引っ張って行くリカ。
PVで盛り上がる広報室。
各地説明会でも評判は上々とのこと。
おまけに動画の再生数も2万を超えていると。
リカは阿久津に空幕広報室の密着取材を
まとめた形を見てもらうようお願い。
「どうした?」
「どうした?って。
ダメ出しで良くなるならそっちの方がいいなと。」
リカは阿久津のことを結構尊敬してると言う。
今まであまりそういう上司に当たったことなかったから、
一度ちゃんと言っとこうと思ったと。
「相変わらず何も分かってないな。」
「えっ?」
「俺の問題じゃない。 お前が変わったんだ。」
相変わらず盛り上がったままの広報室。
その時、夕刊を見ていた柚木はビックリして鷺坂に見せる。
空井もそれを見て驚いた。
その頃、リカも坂手から夕刊を渡された。
呆然とするリカ。
折角いい感じになったのに、また何か起きちゃうの~。
ヤダなぁ・・・
しかし空井のキス、可愛かったね。
その後、動揺したのか歩いてて躓いてるし(笑)
このままいい感じになって欲しかったのに・・・
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