白の肖像

 

 ミロシュ・イラーネク(Miloš Jiránek)もボヘミア近代絵画の先駆者と位置づけられている。例によって、チェコ語の解説しか見当たらないので困る。コマルトフ。

 画風は単純明快な印象派。概してチェコの印象派絵画は、画家が制作する環境かつ対象であるチェコ風景によるためなのか、落ち着いたトーンのボヘミアチックな情景の絵が多い。が、イラーネクの絵はフランス印象派に近い。いや、フランス印象派に直接に感銘を受けたアメリカ印象派に近い。

 陽光のなかの何気ない、小洒落た田園生活の情景。移ろいゆく光への素直な讃歌と、その光が織りなす効果への関心と追求。
 多くは女性をモデルに描いたもの。身体を覆う丈長のシンプルなドレスを着ている。そして何をするでもない。光の戯れを身に受けるためにそこにいる。
 光と大気の表現本位の画面は、白と、をれを引き立てる青とが際立っている。クリアな印象派スタイルだが、ホイッスラーを想起させる同系色へのこだわりとアンティミスム的なムードとが、イラーネクの絵を印象深いものにしている。

 このまま描き続けたら、やがて、ボヘミアチックにおとなしい絵になったのだろうか。絵が変化を見せる前に、イラーネクは36歳で病死している。

 簡単な一言解説を引いておくと……

 画家と同時に著述家でもあった彼は、1890年代に始まる、チェコ近代絵画の創始者世代の主導的位置にあった。新世代らは体制への芸術の隷属を批判し、芸術家の自由な創造や思想を喚起、芸術の解放に努める。
 この流れのなかで、イラーネクは美術評論家および組織家として活動し、フランスにおける新しい絵画様式などを紹介。生前は画家としてよりも、著述家として有名だった。

 ……私も前々から思ってたんだよね。絵画でも音楽でも何でも、芸術分野を評論する人って、自分でもそれに携わってみたほうがいいのにね、って。
 イラーネク、立派。

 画像は、イラーネク「白の習作」。 
  ミロシュ・イラーネク(Miloš Jiránek, 1875-1911, Czech)
 他、左から、
  「白の習作」
  「バルコニー」
  「吊るされたヤーノシーク」
  「小川の少年たち」
  「艀舟」

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