渓流で逢いましょう 
フライフィッシングつれづれ日記
 






もう一尾、もう少し、あの岩の向こうを流したら・・


岩魚はテンポよく毛ばりに躍り出て
暫くは人も通わなかったのか
いや、それよりもよほど腹が空いているのか
どんな毛ばりにでも躊躇なく襲い掛かった


風はずいぶん涼しくなってブナの葉を揺らしてる

気がつけば
日差しは既に稜線の向こうに消えて、
そろそろ偏光を外さないと、派手なポストも見づらいかもしれない

沢音は少し不安を煽るかのようにざわざわと流れている

嗚呼、結局、またこんな奥まで来てしまった
朝から何も食べずに何時間釣りあがったんだろう


もう戻らないと明るいうちに車までたどり着けないな


そう思ってみたところで
それでも眼前に広がる岩と岩
流れと流れ 
岩魚の気配



でも、もう一回  あの縁を流したら・・


そして、もう一歩
往生際悪くもう一投
小魚一尾持って帰るわけでもないのに・・・




...妄想毛鉤劇場... 『往生際』








いつも見てくださっている皆様へ、、

2004年の9月3日産声を上げた『渓流で逢いましょう』
皆様のおかげをもちましてあと数時間で満4周年となりました
だらだらと日々のことを勝手気ままに書き綴って
この記事をもって1048件
我ながらよく続いているものだとも思いますが
このブログのおかげでよい出会いをたくさん繋げてもらいました
既に僕の大切な窓となっております。。

これからも僕の釣りのように往生際悪くダラダラと続けていくと思います
お暇なときにでも
思い出したときにでも
チラッと窓の中、覗いて頂ければ幸いです。。

今後ともよろしくお願いいたします。



2008年 9月2日  感謝
『渓流で逢いましょう』NaO













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A: この前、尺山女釣っちゃってさー   (管理釣り場で)
  凄いだろう~

B: あ、そうなんだ俺は60オーバーのレインボウ !、、(真っ暗闇の中毛鉤にミミズ付けて)


C: ふーん、、俺なんて40センチオーバーのイワナ
  ドラフライで釣ったぜ               (禁漁河川で人の目を盗み) 
  


D: おいおい、俺なんて1メートルのイトウ、だぞ!どうだ!!すげーだろう!!  (産卵時期に川底踏み荒らしながら)



E: お、俺なんて滝太郎ね、滝太郎!!  (夢の中)



A:B:C:D:  ウソ付け!!!





・・・まあ、嘘はついても、Eでいいかなあ、一番釣り人らしいし・・




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良型のイワナがつれることで人気のある
とある川
その川を訪れる常連の間で最近こんな話をよく聞く

釣りをしていると小さな小鳥が鋭く泣きながら頭の上をスレスレに飛び回る
いつも同じ場所で、まるで雛を守る親カラスのように攻撃的に。
でも何処を見渡しても巣など無いのだが、、いったいあの鳥はなんであんな事をするんだろう?

何人も同じ経験をしているものの、誰もその意味を知るものはいない・・


少し前の話
その年の春

つがいの小鳥が子育てに奔走していた

親鳥たちはこの川の流れ沿いで川虫を獲るのが常だった
美しい流れは沢山の川虫を育み
朝から晩まで忙しく川虫を獲っては子供たちに与えていた

時おり川には釣り人が現れた
しかし小鳥も釣り人もお互いには無関心で気を止めることも無く過ごしていた

そしてあの日その川で
ヒトリの釣り人が頭上の木の枝に毛鉤を引っ掛けた
少々引っ張ってみたがティペットが枝に絡み付いて取れない
大切な竿を折っては仕方が無いので
釣り人はラインを強く引いてティペットを切った
そして釣り人は新しい毛鉤を結ぶと何事も無かったように上流へと歩みだした

毛鉤は枝に絡んだティペットにぶら下がり
風に吹かれてゆらゆらと揺れた

その様子を近くの木に止まっていた、つがいの鳥たちが見ていた
ゆらゆと揺れる毛鉤が母鳥の目には川虫に見えた
母鳥は反射的に飛んで毛鉤を啄ばんだ
巣にとって帰ろうと身を翻した時に悲劇は始まった

鋭い鉤先が母鳥の口の中に突き刺さった
ティペットにぶら下がる格好でもがく母鳥の身体に
更にティペットが絡みついた

父鳥は妻の様子に驚き
けったましく鳴きながら周りを飛んだ
それでも小さな鳥にはなす術もなく
母鳥は一晩中もがき苦しみながら命を落とした
父鳥は泣きながらそれを見ていた

でも子供たちが腹をすかせて待っている

父鳥は次の朝からヒトリで必死に虫を取っては巣へ運んだ
しかし沢山の子供たちを父鳥ひとりでは養え切れなかった
子供たちは次々と死んでいった
最後に残ったヒトリも父鳥がいない間に蛇に呑まれた

父鳥は全てを失った
涙も枯れるほど泣いた後
あの恐ろしい罠を施した釣り人を心底憎んだ

それからというもの父鳥は
母鳥の命を奪った錆びた毛鉤がぶら下がる
あの枝に止まっては
下を行く毛鉤釣師めがけて命の限り挑んでいった
鳴き声とも泣き声とも分からぬ叫び声をあげて

しかし、小さな小さな復讐者の叫び声は沢の音にかき消されて
釣り人たちの心には届かなかった。

下を行く毛鉤釣師たちは何も知らない・・・なんにも気づかない・・・。




妄想毛鉤劇場 『小さな復讐者』  オワリ






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落ち葉が流れて、渓魚たちの恋の季節も過ぎて
恐ろしい釣り人も通わなくなった


一匹のイワナが冷たい流れの底でじっと身を潜めている


山の奥は既に雪に覆われて
頭上をぶ厚い氷が閉ざして差し込む光も届かない
昼なのか夜なのかもわからない
暗い流れの底




川虫が一匹流れに揉まれてそのイワナ目の前に現れた
冷たすぎる流れに悴んだ身に渾身のちからを込めて水ごと飲み込んだ

コレで、また一日、命が繋がった

ほんの少しだけ満たされた腹に安堵感が出たのか
イワナは川底の石の下で少しだけ眠った

そして夢を見た

雪代が納まりかけの幾分温かくなった流れに
食べきれない位の川虫が流れてくる
雪代の名残はまだ強くて流れに乗るのは骨も折れるけど
頬張っても頬張っても途切れる事無いご馳走に心を躍らせて無心に無心に食べ続けた

アマリの嬉しさに明るい流れの外に飛んで跳ねてみた

一瞬見えた広い世界は木の枝に新緑が開きかけてキラキラと輝いていた。



そこで目が覚めた



イワナは大きく呼吸した

鰓を潜った水で
ジンジンと刺すような冷たさが身を貫いた

やっぱりココは暗くて冷たい水の底だ
痩せた腹が切なく軋んだ

長く冷たい夜はまだまだ続く事をイワナは知っている
春が来るのを流れの底でじっと辛抱強く待つだけしか出来ないことも

それでもイワナは少し嬉しい気持ちになった

人間の暦ではちょうど1月2日の朝だった。。







妄想毛鉤劇場『イワナの初夢』おわり。。






皆さん、新年明けましておめでとうございます
今年も『渓流で逢いましょう』をよろしくお願いいたします。









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久々の源流はもう秋の気配で覆われていた

夏の渇水は何処へやら
最近の雨不足で随分と水量が多い

そこそこ小さなイワナが釣れてはいたけど
出来ればもう少し大きな魚がみたいなあ、、

眼前は『あぎと』
泳ぐのを覚悟しない限り進んでは行けない深さ

高巻して越すしかないなあ
岩場を登るうちにさっきの顎の上までやってきた

ゴルジュの底は以外にゆったり流れていて
木に遮られた薄暗い谷間は随分と底まで見通せる

何故か下には一升瓶が沈んでる・・

ユラ、、一升瓶がゆらっと動いた・・



イワナだ、、大イワナだ、、

僕は高巻くのをやめて今来たルートを戻り始めた
でも上るのと下るのでは大違い
今にも落下しそうな恐怖を味わいながらも元の位置に戻った

竿の先には蟻のパラシュート


放った毛鉤はゆっくり流れて

すると毛鉤は 鯉に食われるように すう、、っと音も無く吸い込まれた

クッっと竿を立てた
魚は4ビートくらいの反復でウネウネとうごめいた
そのたびに竿先が強く左右に揺れた

短くて太いリーダーに物を言わせて一気に引き寄せる
やっぱりさっきのイワナだ、、うわ、、大きい
取り込む
いや、取り込めない・・
魚は40センチを超えていてこんな小さなランディングネットでは取り込めない・・

魚はまた上流へとドラグ音を立てて上ってく

どうしようかと迷った挙句、引きながら頭から入れてしまおうと思った

魚が下流を向いたのを合図に僕の脇に向けて一気に引き寄せた

網を魚の頭にかぶせるように差出し、そのまま上に掬い上げた

やわらかいリリースネットが幸いして魚は枠の中に無理やり押し込められた

『ふー、、』と深呼吸  浅瀬まで戻って尻餅をつくように座り込んだ


一升瓶と見紛えた大きなイワナ
うっすらとパーマークも残ってる
観念して横たわったイワナは口を大きく開きながら喘いでる



大きな胸鰭
いったいこの沢で何年生きてきたんだろう
底石に合わせてか、随分と黄色の強い大きなイワナ
サイズは47センチもう少し大きい??
とにかく僕が渓流でドライフライを介して出逢えた最も大きなイワナになった



口元、いや、口の先には蟻の毛鉤がしがみ付いていた
掛かった場所はあんまりほめられる場所じゃなかった、、バレなくてよかった・・


イワナは ゆら、、っと何事も無かったように深みに消えていった
日はまだ高いけど僕も反対向きに、ゆっくり下流へと歩き出した。







今朝夢を見ました
渓流でイワナを釣る夢
このイワナを釣ったときの夢でした(笑
この話はカナリ前の話
5年前
ほぼ実話ですが、昔の話ですし夢の脚色もちょっとありますから 一応物語り(^^;
本当は春の話なんですけどね


今でも北海道の奥沢にはこんな、いやもっと大きなイワナがいるんでしょうかね
昔は60センチを越えるものもいたとかいないとか・・
日高の山奥にでも行けば出逢えるのでしょうか。。
魚の価値は決して大きさではありませんが
年数を重ねたであろうその大きな魚体にはドラマを感じられずにはいられません




そういえば

イワナの夢を見て眼が覚めた今朝

一足先に起きて子供たちの世話をしていた嫁が僕の顔を見て笑ってる
何おかしいの??って言ったら『寝ぼけてたよ』

ああ、釣りの夢を・・ と言いかけたら

『寝ながら、よし!よし!って腹筋運動していたよ(爆笑)』

え??
おっかしいなあ、、釣りの夢を見てたんだけどなあ・・
そういえば何か疲れてるかも(^^;








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『最近のデジカメってすごいよね・・』

デジカメを新調した僕は彼女に向けてパシャパシャとシャッターを切る

『画素数とか?粗が見えるからあんまり写さないで』
彼女は不機嫌な顔をした
本当はまんざらでもないくせに(^^;

僕が言うところのスゴイは画素数じゃなくて 『顔検出機能』
カメラを被写体に向けるだけでカメラが自動的に人間の『顔』を検知して
その部分にピントを合わせるといった とても便利な機能



カメラを向けてシャッターを半押しにすると、液晶の中に四角い囲みが現れて、彼女の顔に重なる
彼女が動いてもカーソールが自動で追いかけて その部分にピントを合わせてくれる ホント、最近のカメラってスゴイ・・

『でも、この機能、魚にはだめなんだよねぇ・・人の顔限定みたいだよ』
『あ、そうなんだ、、じゃ、あんまり需要ないかもね(笑』

ま、そういっちゃおしまいでしょ(^^;


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



今日は仕事で遅くなった

時間は既に午前様
街、街の間にある峠は現在道路拡張中
所々で片側交合通行してる

今夜も谷間を流れる川をまたぐ橋の上で仮設信号に止められた



最近の仮設信号は停車時間を知らせるために、砂時計のような電光掲示板が付いてる
光の筋がだんだん減っていって無くなったら青信号
きっと僕みたいなせっかちなドライバーが信号無視しないように
残り時間を知らせて宥めてるんだな・・

ちょうど信号が変わったばかりだったのか
光の砂時計は満杯
しばらく待たなきゃだめみたいだ


今日は半月を過ぎたあたり
月明かりに照らされたトド松の影がとても綺麗だったので
カメラを取り出して月に向けた

シャッターを半押しにすると、カーソールが右の隅に小さく現れた
『あら?そこには何にも無いでしょ、月にピント合わせてよ』

何度かシャッターを押してみたけどそれっきり顔検知機能の表示は出なかった
機械もたまには間違うんだな(笑


いつの間にか光の砂時計も残りふた目盛
慌てて運転席に戻り、僕は再び岐路に付いた


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


家についた僕はいつものごとくパソコンを立ち上げて
デジカメをクレードルに差し込む
パソコンがカメラを認識して今日撮った画像を取り込み始めた

彼女は寝ないで待っていてくれた
僕は今日一日の他愛の無い話をしながら、ディスプレーに映し出された画像を見ていた

『あ、そういえば、今夜さ、月を写そうとしたら全然関係ないところにピント合っちゃってさ、機械もやっぱ、完璧じゃないんだよね(笑』

『あ、これ、この写真、、やっぱり月にピント合ってな・・』

そう言い掛けて僕は絶句した・・
え??・・何コレ・・

画像の右隅

真っ暗な空中に見知らぬ女の顔だけが写ってる・・
ありえない場所に
コチラに向かって、カッっと目を見開いて口元だけうっすらと笑って・・


両腕の毛穴がざわざわと縮み上がった
背中に冷たいものが走った

あのとき顔検出機能が働いた場所だ、、、、



『どうしたの?』彼女がそう言って近寄ってきた

『ううん、なんでもないよ、、』

僕は思わず画像を閉じた・・・








妄想毛鉤劇場  ・・・顔検出機能・・・ オワリ





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僕はようやくふもとに降りてきた
途中から林道に上がれたのだがそれでも何時間も歩いた

実家では遭難騒ぎになっていて消防や警察まで出動する始末
両親にはしこたま怒られたが正直うれしかった
極度の疲労のために一日入院
でも次の日にはすっかり元気になっていた

街に帰ったら友達にも謝ろう
僕は勘違いをしていたようだ
竿のことを話しても誰も信じてはくれないだろうけど、
でも高飛車になっていたことは素直に謝ろう



でもその前に、あの骨董店に向かった

店主はにこやかに迎えてくれたが、事の由を話すと

『そうですか、やはりあの竿はお譲りするべきではアリマセンでしたね
 絶対に釣れるということは
 裏を返せば釣れるまで絶対に釣りを止めないということでもあるのです
 川以外で竿を振るのは止めてくださいと言いましたが、魚のいないところでは、、 と言うべきでしたね・・』

不思議と苦情を言うつもりにもなれなかった
それよりも竿の魔力に翻弄された自分恥ずかしかった

結局竿はお店に引き取ってもらうことにした  
買い取ってくれるというのだが、買った値段よりもずいぶんと安い買値だ
そのあたりは流石に商売だなあ、、と思った(笑

竿は綺麗にウエスで磨かれるとまた奥の壁の元の位置に置かれた
薄暗い照明に照らされて竿は再びあやしく鈍く輝いている

やっぱり綺麗だな。。いや、もう二度と手にはするまい・・


竿の脇には 額に飾られた綺麗な毛鉤が並んでいる
とくにこの ロイヤルコーチマン なんともいえない雰囲気のある毛鉤だなあ・・

美しい毛鉤ですね、特にこのコーチマンなんて・・
僕がそう言うと店主は僕の背中越しにこう言った

『さすがにお目が高い、実はそのコーチマン、絶対に釣れる毛鉤なんですよ
 お求めになりますか?』

僕は振り向いて思わず苦笑いをした・・・

店主はにこやかに微笑んでいた・・・



妄想毛鉤劇場  『絶対に釣れる竿』  おわり







後記
先日姉が僕にこんな話をしました

『雨乞いってあるでしょ、あれって絶対に雨が降るんだって どうしてかわかる?』

僕は きっと雨乞いをするくらいだからよほど雨が降ってないんでしょ?
   だからそろそろ降るころだったんじゃない??

すると姉はこう言いました

『惜しい、、 答えは 降るまで絶対に雨乞いを止めないから・・(笑 』

なるほど
あきらめないで貫けばいつか成る日も来るという意味らしい
そんな話を聞いた後に 釣れるまで絶対に釣りを止めなければそれは絶対に釣れるってこと・・
そんなことが頭に浮かんで『絶対に釣れる竿』の発想につながりました
主人公はそのおかげで大変なめにあっちゃいましたけけど(^^;

いつものコトながら書きなぐりの駄文ですが
大勢の方が見てくださったようで申し訳ないやらありがたいやら

またそのうちに何か思いついたら書かせてくださいマセ

NaO











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ワンキャスト、ワンヒットのうわさは仲間内にとどまらず
いつのまにか雑誌やTV番組の取材まで舞い込み
仕舞いにはロッドメーカーからスポンサーの話まで
でも無論断るしかない
このロッドだから釣れるわけだし・・

そこそこ有名人になってしまい、ちやほやされて僕は有頂天になっていた

でも
『お前、最近ずいぶん変わったよな』
『顔色が悪いぞ、大丈夫なのか?』
そう言う仲間もいた

きっと妬んでいるんだろう?
そうとしか思えなかった

昔からの釣り仲間は一人二人と距離を置かれるようになったが
取り巻きはずいぶんと増えた 
そんな状態に僕はまんざら悪い気はしなかった

この竿がある限り僕はずっとこの生活をおくっることが出来るんだ、、
友達なんてこれからも沸いて出てくるだろうし、
基本的に釣りは一人で出来るだろう




そんな中
実家に用事が出来て久々に地元に帰ることになった

久々にあの川で釣りをしてみようかな・・
用件を済ませて地元の川に向かう

この川は僕が子供のころずいぶん釣りをして遊んだ場所だ
でもダムが出来てしまい釣りの良い話も聞かなくなった
僕も就職で地元を離れ、必然的にこの川で釣りをする機会も無くなっていた

それでもこの竿があれば、釣れない事は無いだろうし・・

流れに足を踏み入れてみたがずいぶんと様子が変わっている
少し歩くだけでも泥が舞うような
水量も減ってる

虹鱒くらいはいろうだろう

正直釣りを楽しむロケーションじゃないけど
暇つぶしにロッドを振ってみた・・

いつものように毛鉤を流れに放つ・・

さあ、いつでもドウゾ・・

・・・・

おや?

どうしたことだろうか、魚は食いついてこない
こんなことは初めてだ・・・
どういうことだ??

また竿を振る   やはり魚は反応しない  なんど流しても同じコトだった

もしかして竿の力がなくなってしまったのだろうか・・
不安感が沸いてくる
僕は何度も何度も竿を振った、、それでも 小魚一匹毛鉤に食いついてはこなかったのだ・・

既に数時間上流へと場所を移しなが竿を振るが状況は同じ
ダメだ、、きっと、この川にはもう魚がいないんだ・・
魚道の無いダムが魚たちの遡上を阻み
残った魚も釣りきられたのか、農薬でも流れ込んで全滅したのか、はたまた上流の森の伐採が影響しているのか
何れにしろ、川に魚がいなければどんなに絶対に釣れる竿でもつれるわけが無い・・

そう思って釣りをやめようと岸に向かって歩き出そうとしたとき
意思に反して僕はまた流れに向きなおしていた

ん?なんだ
体が勝手に・・・  

いつの間にかキャストをしている

止まらない・・いったい何が起こっているんだ??

僕の体は何かに操られているかのように自動的にキャストを繰り返す
なんとか抵抗しようと思っても竿は手に張り付いたように離せない

いったい何なんだ!!止めてくれ!!!

でも腕は勝手に竿を振り、足は勝手に上流へと歩みだす
とまれ、とまれ!!
  




もずいぶんとあたりも暗くなってきた  何時間こんなことをしているんだろう
毛鉤なんてとっくに見えない  もう釣りをやめたいんだ・・
いないんだよ、もうこの川には魚はいないんだよ・・・

それでも釣りをやめられずに川の中を上流へ上流へと這いずり回り
真っ暗闇の中、ひたすらに竿を振り続けている
魚は一尾も反応してくれない  いや、反応があるかどうかなんて僕には既にわからない・・

もう疲れ切って抵抗する気力もなくなっていた
糸で吊られた操り人形だ

不意に背中の辺りに何かの気配を感じた
必死で顔を後ろに向かせようと、首に力を込める
ようやく少しだけ動かせたその視線の先に見えたのは・・

僕の肩口
真っ暗な闇の中に青白く浮かんでいたのは・・見たことも無い青年の顔
悲壮感極まりない表情の男が僕のことなど目もくれず
ギリリと歯を食いしばり
真っ暗な闇の先の見えない毛鉤の方向を真っ赤に血走った目で凝視している

ああ、やっぱりそうなんだ、、僕は竿に篭った作者の怨念に取り付かれているんだ・・
こいつは魚が釣れるまで釣りを辞めるつもりは無いんだ・・魚なんていないのに・・

疲労と恐怖と絶望
僕の精神も既に常軌を逸していた

・・もうわかってくれ、、この川には魚なんていないんだ・・

それでも釣りは終わらない
ひたすら闇の中を上流へ、上流へと竿を振りながら進むだけだった・・
アチコチと体を岩にぶつけながらも、すでに四肢の感覚さえ失いつつあった


何も見えない
何も聞こえない
何も感じない
生きているのか死んでいるのかもわからない

いっそのこと殺してくれればいいのに・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その次に見えたのは青空だった
木々の間から垣間見えた青空



どうやら川原に仰向けに倒れているようだ・・

体が痛い・・ 
痛みと疲労感で動かない体を無理やり動かしてようやく起き上がった
すっかり日も昇っている  
竿はいつの間にか手から離れていた

でもここはどこだ?

いったいどれくらい上流までさかのぼったのだろう
こんなに細い枝沢
見たことも無い風景に驚きながらも
ようやく竿の魔力から開放されたことに安堵した

のどの渇きに耐えられず沢の水をガブガブと飲んだ・・
そして不思議に思った

どうして釣りを止められたのだろう・・?


恐る恐るリールを回してラインを回収してようやく気が付いた

毛鉤には小さなイワナが食いついていたのだ
ピチピチと跳ねる小さなイワナ


お前、釣れてくれたんだ・・・





いや、
お前、この川で生き残ってくれていたんだ・・・・




・・・あとがきへ・・・






















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絶対に釣れる竿なんてありえませんよ・・

やっぱり冷静に考えるとありえない
少しムキになって言い返した僕に、店主は笑顔でこう言った


『いいえ、この竿は本当に絶対釣れる竿なんですよ、、
どんなにスレた鱒でも、そこに魚がいる限り、この竿から放たれた毛鉤には食いつくんです
何故って?理由なんて知りません、、でも、本当なんです。。 
職人は、他の竿は売ってもこの竿だけは手放さなかったそうで、いつも自分で使っていたそうです
そして、この竿は、その職人が亡くなった時に手に握られていた竿・・
実はその職人は釣りをしている最中、川で流されて亡くなったのですが
岸に打ち上げられてもこの竿だけは握ったままだったそうです
よほど大切だったんでしょう、、
きっとこの竿には職人の魂と無念がこもっているのかも知れませんね・・
その思いが魚を引き寄せるのかも知れません、、』

そう言われてからもう一度竿を見た
薄暗い照明に照らされて怪しく浮かびあがる竿のシルエット
背筋にゾゾっと悪寒が走った
でも魅力というか魔力というか、そう聞くと竿は冷たい宝石のように、いっそう存在感をかもし出していた・・

手にとって振ってみたい・・
まるで妖刀に魅入られたように、そんな衝動が突き上げてくる
いや、刀じゃなくて妖竿か・・

もしも本当に絶対に釣れる竿じゃなかったとしても、既に僕はこの竿の虜になっていた
どうしても手に入れたい気持ちを抑え切れなかった
いや、この竿が僕に握られることを望んでいるかのようだ・・

この竿は譲っていただけるのですか?

『いえ、非売品です・・職人の思いが強すぎて普通の方が扱うには荷が重過ぎるかもしれません』

それでも、なんとか譲ってもらえませんか?
答えは同じだった

それからも僕はこの店へ足を運んでは竿見る毎日
そういえば、昔黒人の少年がガラス越しにトランペットをうらやましそうに覗いているCMがあったっけ
そんな心境だなあ、、などと思っていた

そんなこと繰り返していた後日、いつものように竿を見ていた僕に店主が言った

『こんなに惚れ込まれた方に使っていただければ、竿も職人も喜んでくれるでしょう・・・』

僕はいったん店を出ると、もよりのATMに走った
出たばかりのボーナスを全額下ろすと店に取って返し店主に渡した
無名の竿に正直ありえない金額だけど
この竿が手に入るならばお金なんてどうでも良かった・・
試し振りさえしていないのに。

帰り際、店主はこう言った
『ひとつだけお願いがあります、くれぐれも川以外では絶対に竿を振らないでくださいね』

僕は竿を抱えて家路に着いた
近所の公園にでも行って早く振りたかったけど店主の言葉を思い出して堪えた
川以外で振ってしまったら竿の魔力が失われてしまいそうな気がしたからだ

週末にはあの川でこの思いっきり振るんだ
僕はその夜、朝まで竿を眺めていた・・






週末、僕はいつもより早起きをしていつもの川に向かった
川に付くやいなや、そそくさと身支度を整えて竿を接ぎ、メープルのリールシートにリールを止めてラインをガイドに通す

毛鉤はいつものトビケラパターン

流れに降り立つとラインをリールから引き出す

グリップのコルクはしっとりと僕の手に馴染んだ
2度、3度と竿を前に後ろに曲げてやるとラインの重みが心地よく手元に伝わってくる・・
いい感じだなあ・・・ 感触にうっとりしながらも何気にシュートした


低い軌道をラインはタイトなループでゆっくり伸びていく
ちょうどブラビの映画のシャドーキャストみたいに・・
するとどうだ、ループに引っ張られる毛鉤に 次々に魚が飛び掛る
手前から順にバシャバシャと一列に数尾も・・  
どの魚も毛鉤には食いつけなかったが
ターンオーバーして着水した毛鉤は流れるまもなく視界から消えた

グッと併せると竿は綺麗に弧を描いた
よってきたのは尺イワナ  嘘みたいな光景にあっけに取られた

それからもどこで竿を振っても大なり小なり必ず魚は釣れた
あんまり釣れすぎてしまうので小さな魚には併せずにやり過ごすほど
この川にこんなに魚がいるとは思いもしなかった・・
僕は終日昼食もとらずに竿を振りまくり、釣りまくった
休むことが惜しいくらいに体が動くのだった。。

帰り道の車の中、腕が上がらないほどだけど、こんに良い釣りは初めてだ
それにしてもキャストが上達したような・・思うように毛鉤を操れる
勝手に腕が動くよう感覚だ

本当に絶対釣れる竿なんだ・・・   僕は本当にそう思った



それ以来僕はボウズの日は無くなった
仲間内でも釣りの天才などともてはやされた
どんなに難しいライズでも、ベタ底に張り付いているスレた魚でも必ず仕留めてしまう、、先行者がいてもお構いなしだから仕方が無い
無論竿の話は誰にも内緒なのだけどね、、

でもどこか違和感は残った
やっぱり腕が勝手に動いているような、、そんな感覚
本当に竿には死んだ職人の魂がこもっていて、僕の体を使って勝手に竿を振ろうとしてるのではないだろうか・・?

でも、そんなことは既に気にならないくらい竿は僕の腕に馴染んでいた
いや、張り付いているというか
まるで竿先の感触が脳に直接伝わっているような、神経的なつながりだ
このいわくつきの竿はもう僕の体の一部も同じ
絶対に手放せないモノになっていた・・




つづく


























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奥に見え隠れするアレは・・
・・・・ん?フライロッドじゃないのか??

職場の帰り道、買い物ついでに遠回りした日に偶然見つけた町外れの骨董店
小さな店だけど、どこと無く気品があるような雰囲気 その周りだけ空気の温度が5度くらい低いような、そんな雰囲気の骨董店

何気にショーウインドウを覗くと・・
整然と陳列された価値の高そうな骨董品の数々
その奥の壁にフライロッドのグリップが見え隠れしている・・・・
リールシートの位置からしてフライロッドに間違いないよなあ、、

店の一番奥の壁に、接がれた状態の竿がかけられているようだ

やっぱり あれはフライロッドだよなあ・・
きっとメイプルだと思うリールシートが裸電球の明かりに照らされて美しく光ってる

もしかしたらとんでもない名品なのでは??? と想像だけは十二分に膨らんでいるのだが、古めかしい雰囲気の店のドアを開けるのはちょっと勇気がいるし
とんでもない値段が付いていそうだし、、
頑固おやじみたいな店主が出てきて難しいコトでも言われそうだ・・

それでも次の日も次の日も何故か骨董店のあのロッドが気になって仕方が無い
いつのまにか遠回りして 窓際に張り付いて顔を伸ばすように覗き込んでロッドを見てる

今日も帰り道に
窓際からいつものごとく竿を見ていると 『お客様・・』
後ろから声をかけられた

慌てて振り向くと、和服姿の女性が立ってる
気品のある美しい女性 年のころなら40がらみ??といったところだろうか・・
慌てて謝る僕に、彼女は『ドウゾ、よろしければ店内に・・』

どうやらこの女性がこのお店の店主らしい

彼女に導かれて僕はようやくこのお店のドアをくぐった・・

いかにも高価そうなアンティークな家具や皿が飾られた店内
僕はそんな数々の展示品に世辞も言わずに
店の一番奥へ歩み寄ると竿の前に立った

やっぱりフライロッドだ、、
綺麗な六角竿 

奥の一角だけは古いリールや竿で飾られていた 古そうなランディングネットもある
クラッシクスタイルの毛鉤もたくさん飾額されてる
この店の店主は毛鉤釣りの趣味でもあるのだろうか? 

飾られたその竿の怪しい美しさに見とれていると  店主が僕に話しかけた

『毛鉤釣りをされるんですか?』

振り向きもせずにうなずく僕に彼女は続けてこう言った

『この竿は名工が仕立てた竿なんですよ・・』

僕はなんという名前の職人かを尋ねたが、彼女の教えてくれた名前は聞いたことが無かった

『あまり知られてはいませんが、若い天才的な竹竿職人だったそうです、、
でも、早くに亡くなってしまい、一般に出回っている竿の本数もわずかだそうですよ・・』

この竿のほかにももっと年代モノや、有名どころのサインの入った竿が幾本も飾ってあったけど僕の視線はこの若いビルダーの作った竿以外には向かなかった
竿の魅力に吸い込まれるような不思議な心境だった・・

『よほどこの竿がお気に入りなんですね・・』

ハイ、、とても美しい竿ですよね、、と僕が答えると


『美しいだけじゃなく、実はこの竿には不思議な力があるんです、、 』

不思議な力??
振り向く僕に店主はニコニコと微笑みながら

『ハイ、この竿は絶対に釣れる竿なんです。。』

絶対に釣れる竿??
普通なら冗談に他ならない店主の言葉にも何故か説得力を感じてしまう
それくらいこの竿には魅力がある・・不思議な魅力が・・・



つづく。。













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