奥様的部屋

主婦の独り言&映画や本の話もちょこちょこ(ネタバレあり)

クライマーズ・ハイ/横山秀夫

2006-10-28 18:10:57 | 本など_いろいろ


またまた横山秀夫
文庫

文庫化されてからずっと読みたい読みたいと思っていて、やっと読めた
あまりの評判の高さに、思いっきり期待して読み始めたのだが、まさに期待通り
横山秀夫作だし、 このミステリーがすごい、にランクインしてるし・・・
てっきりミステリー作品だと思っていた
墜落事故を巡る謎に向かって、新聞記者が活躍する・・・というような

ところが、私の中のミステリーのイメージ、つまり、謎解きとか、推理とか・・(←同じ意味か・・・)とはぜんぜん違った
凄く骨太で、記録モノ、と言われてもうなずけるような内容

横山秀夫といえば、警察モノで組織内のドロドロした部分を描いた作品が有名だ
最近は、色々な作品も発表されているけれど、やはり、動機・陰の季節・顔・・・と言った"組織としての警察"を描いた作品はどれも素晴らしい
私もここ最近連続してそれ系のReviewを書いた

でも、横山氏自身は元々新聞記者
そしてこの作品では、まさに新聞社の中にいないとわからない感じられない体験できない深い深い部分が濃密に描かれている

"新聞記者"というと、思い出すのは所謂"事件記者"で、事件が起きたら小さなショルダーバッグを持って駆け出す・・・・というイメージだ
もちろんこの作品でも、そういった"外回り"の記者も登場するが、主人公は普段は遊軍として外回りをしているものの、日航機事故については"担当特命デスク"つまり、飛び回っている記者や通信社からもたらされる記事をチェックし、どのような紙面を作るか、を取りまとめる統括係・・・・・に抜擢される

その主人公の視点で事故発生後は凄いパワーで物語が進められる
毎日紙面を仕上げ、新聞を印刷し、発行する、という時間に区切られた世界であるだけに、普段でも恐らく毎日が緊張感に満ちていているのだろうが、この作品での事故発生後のその"ぴりぴり感"はハンパじゃない

読んでいる私までなんだか疲労を感じてしまった

そして、その事故にまつわる緊張感に、組織内の抗争や派閥争いが絡んで来る
新聞、という利益を追求する企業である以上、広告を出すことも大切、毎日宅配している販売店との関係を保つことも重要、
そして社外重役達の意見も尊重しないと将来が見込めない、という事情もある

普段当たり前のように読んでいる新聞でも、そういう"企業としての営み"があることなど殆ど考えたことは無かったし、その日の朝刊の1面TOPに何を持ってくるか、というだけであれほど熾烈なやり取りがあるとは思ったことも無かった

タイトルのクライマーズ・ハイ とは、興奮状態が極限に達してしまうと恐怖心が麻痺してしまうということらしい

これを"大事件に遭遇した記者の状態"と考えるのはこじ付けが過ぎるかもしれないけれど、連日ぎりぎりの状態で紙面を作りながら、少しずつみんなが"壊れて"行く様子も臨場感に溢れていて圧倒された

物語は航空機事故と、その同じ日にくも膜下出血で倒れた山登り仲間、安西の様子を描く"過去”の部分の章と、航空機事故のお陰で登ることができなかった衝立山に17年を経て挑戦する""の部分に別れている

最初はなんのつながりも無かったようなその3つが最後の最後に一気に1本になる

その時に文中の何気ないセリフが大きな意味を持つことがわかり、もう一度最初から読み直してみたくなった
このラストを"きれいにまとめ過ぎ"という意見もあるようだけれど、私はすごく感動したし、これ以外のラストは考えられない

どこまでがノンフィクションでどこからがフィクションなのかわからないけれど、(全てノンフィクションに感じられた)読後の疲労感を自覚したときに、この作品の凄さを実感した

とにかく、沢山の人に読んでもらいたい作品

ブログランキング

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿