キタムラサキウニ Strongylocentrotus nudus (A. Agassiz, 1863) の口器。
いわゆる"アリストテレスの提灯(Aristotle's lantern)"
この通称はもちろん、かのアリストテレスが"提灯型をした歯があり"と記載している故。
棘皮動物門 Echinodermata
ウニ綱 Echinoidea
ホンウニ目 Echinoida
オオバフンウニ科 Strongylocentrotidae
オオバフンウニ属 Strongylocentrotus
キタムラサキウニ Strongylocentrotus nudus (A. Agassiz, 1863) 。
ちなみにムラサキウニ (Anthocidaris crassispina)は、ナガウニ科 (Echinometridae)。
似て非なるものなのだ。
この口器はウニの腹面に組み込まれている摂餌器官であり、
非常に堅牢に出来ているため、化石などにも残りやすい。
これを使って、ウニ君は海藻などをハミハミしています。
総じて連中はベジタリアン。
ちなみにヒトデは肉食系、ナマコは掃除屋さん。
約50もの骨格要素が結集したもので、およそ60もの筋肉が付着しているというが、
あんまり解剖学的な様子とかは文献もなし観察出来ていないのでパス(ゴメンネ)。
→このサイトが詳しいかも:[The Echinoid Directory - Natural History Museum](英語)
ウニをはじめ、ナマコ、クモヒトデ、ヒトデ、ウミユリなど、棘皮動物(Echinoderm)の成体の体制は
ほぼ例外なく五放射相称を基本としている。
↓上(背側)から見ましたよの図。ホラ、分かりやすい。
我々脊椎動物もそうだし、直感的に分かるだろうが、
現在身の回りに認識できる動物の多くが左右相称動物(Bilateria)のはずだ。
放射状の体制を持っているものとしては、
他にクラゲやイソギンチャクのような刺胞動物(Cnidaria; こういうのってよく発音に悩むが、英語では、ネイティヴの発音を聞いたら"ナイデぇリア"でした)
などが挙げられるだろうし、
こういった動物の体制が比較的原始的(…という乱暴な言い方は不正確だし好きじゃないが、ここではそう言わせてもらう)で、
我々のように左右相称な動物がそこから派生したのだ、というのも直感的に納得できると思う。
じゃあ、ウニやヒトデやナマコは"原始的"な体制を保持したままなのか、
というとそうではない。
「系統的に奴らは左右相称動物であり、二次的に五放射相称になったのだ」なんてことはもう
分子でも化石記録でもパーフェクトにコンプリートリーに分かっている。
しかも、(生物を専攻していない方々や子どもに話すといつも大変興味深そうに聞いてくれることには、)
棘皮動物というのは後口動物(新口動物; Deuterostome)の1グループであって、前口動物(旧口動物; Protostome)では決してない。
もっと楽しげな言い方をすると、
ウニって蟹のみたいな節足動物はおろか、貝みたいな軟体動物とかよりもずっと我々に系統的に近い存在なんだよ☆なんである。
後口動物内での系統はだいたいこんな感じ。↓
珍渦虫動物(Xenoturbellida; Xenoturbella. 英語での発音は"ゼノターベラ")は、先の動物学会で知ったが、
また枝の位置が怪しくなってるので、とりあえず?マーク。
ホントにこの位置だったら面白いのになぁ。
そもそも、放射相称なのは、最初に書いたとおり、成体の特徴であって、
小さな小さな幼生は左右相称形である。
幼生を見たことがある人は意外と多いだろう。
中学・高校でも、ウニやヒトデの受精の実験などは比較的よく行われるし、
その時リアルタイムで泳ぐ幼生を、というのはなかなか難しいけれども、
資料集に乗っているプルテウス幼生の写真を覚えている人もきっと多いはずだ(であることを望む)。
ちなみにウニに卵を産ませたり、精子を出したりするときには、
塩化カリウム(KCl)で刺激を与えるのが容易だが、
この時これを注射する位置がこの"アリストテレスの提灯"の脇。
そんなこんなで提灯に話題が戻ってきたところで、
今回は少々軽めの内容(?)ながら閑話休載。
<weblog内-関連記事LINKS:>
・specimens: うちの収蔵標本。
・Branchiostoma belcheri: ヒガシナメクジウオ。同じ後口動物(Deutrostome)の類。
・Takydromus tachydromoides: ニホンカナヘビ。同じ後口動物の類。
・Phascolosoma scolops: サメハダホシムシ。
・Spadella sp. イソヤムシ属。
Reference:
・『バイオディバーシティー・シリーズ5 無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く)』
岩槻邦男・馬渡俊輔:監修 白山義久:編 (2000, 裳華房)
・『輓近動物分類學』 清水傳吉:著 (昭和六年 啓文社)
・新日本動物図鑑 (上) 岡田 要, 内田 清之助, 内田 亨:編 北隆館 (2004)