fantasia*diapsida

とりとめのないメモの山

Spadella sp.:

2009-02-18 00:00:00 | biologie*

イソヤムシ属 Spadella sp.
たぶん、イソヤムシ Spadella cephaloptera (Busch, 1851) 。

毛顎動物門 Chaetognatha
ヤムシ綱 Sagittoidea
単膜筋目(イソヤムシ目) Monophragmorpha
イソヤムシ科 Spadellidae  。


ヤムシはほとんどはプランクトン性だが、イソヤムシ属(Spadella)は数少ない底生性のグループだ。
矢虫とは英語;arrow wormの直訳。
他にglass worm(写真は固定標本で白化しているが、生時は透け透けやからね)とか、sagittaと一般に呼ばれる。
sagittaはそのままラテン語で矢の謂、他にsagittarius(射手座)、sagittal section(矢状切片)などに見られますね。
ちなみに、ヤムシの代表的な属でサギッタ属(Sagitta)がある。
  
毛顎動物(Chaetognatha)は細長く、左右相称で背腹に扁平な、体長数mm(10cm近いやつもいる)の海洋性の動物門。
頸部横隔膜(head septum; neck septum)と尾部横隔膜(tail septum)により、
頭部(head)・胴部(trunk)・尾部(tail)に3分される。

小型の海洋プランクトンの中では頂点に立つような肉食動物であり、
1日に自分の体重の半分ほど捕食することもあると言われる。
中には噛み付いた獲物に共生細菌の産生したテトロドトキシンを注入する種もいる。
たまにシラス干しに混じって干からびているのがあったりするが、
パッと見そんなにシラスと区別付かないし、食べても特に問題はない。
全世界中の海洋で見られるので、個体数は莫大だが、動物門内での形態的な多様性は少ない。

外部形態で特徴的なのが、体側方に生じた1対or 2対の側鰭(lateral fin)と、尾端の尾鰭(caudal fin; tail fin)。
鰭は皮膚の伸張により生じたもので、鰭条(fin ray)に支えられるため、一見すると脊椎動物によく似ているような気もするが、
全ての鰭が水平方向に生じるのを基本にする点で脊椎動物とは大きく異なる(脊椎動物は垂直方向の鰭が基本形)。
体壁には背腹で各1対ずつの縦走筋があり、これで屈曲することにより、ピッ、ピッ、とかなり俊敏に泳ぐ。

更に頭部には、毛顎動物の名の由来である顎毛(hook; seizing jaw, prehensile spine, grasping spine)が生える。
通常、頭部は伸張した頭被(フード, hood)に覆われ、顎毛を籠状に閉じて保護しているため、頭端は丸みを帯びた三角形を呈している。
捕食時には頭被伸張筋(hood protractor, protractor preputii)が収縮してフードが後退、
それと共に顎毛が露出して展開し、獲物を捕らえることができる。
顎毛自身はキチン質の湾曲した棘状器官で、かなり複雑な構造を持っている。
  
表皮(epidermis)は多層で肥厚して泡状組織を形成。
消化管は口から屈曲することなく縦走し、尾部横隔膜の直前で肛門に終わる。
上皮性の中枢神経系を持つのが大きな特徴。
はしご状神経系に類似し、頭部には脳節の膨らみも見られる。
雌雄同体。


以上のように毛顎動物は独特の体制を持っているが、
何より胚発生が特異なため、その系統的位置が未だによく分かっていない。

卵の卵黄量は各グループで大きく異なり、発生速度も非常~に異なる。
しかし総じて発生は迅速で(温度にも影響されやすいが)、Sagitta属は産卵-孵化まで50時間で終えてしまう。
一般に卵割方式は全等割。放射卵割と長らく言われてきたが、最近はむしろ螺旋卵割に近いらしいと言われている。
体腔形成も特殊で、原腸前部に2つの褶曲が生じて後方に伸張し、1対の体腔嚢(coelom sac)をつくる。

さて何より、原口が将来の口にならず、体後方に来ることから、
長い間ヤムシは後口動物(Deuterostome)の中に区分されてきた。
しかし、数多の形質や分子系統により、後口動物説は否定されている。
現在でも動物内での系統関係は明らかにされていないが、
脱皮動物(Ecdysozoa)の線形動物(Nematoda)に近いなんて話もあったり…
どうなんでしょうねぇ。


LINK:
Interactive Key to the Species of Chaetognatha from the South Atlantic Bight and northern Gulf of Mexico
 ヤムシの分類検索

BLOG内LINK:
specimens: その他の収蔵標本。



referense:
『バイオディバーシティー・シリーズ5 無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く)』
 岩槻邦男・馬渡俊輔:監修 白山義久:編  (2000, 裳華房)
動物系統分類学 第8巻 (上)
 内田亨:監修 (1965, 中山書店)

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3 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
ヤムシ素敵 (クロス)
2009-02-20 13:42:43
ヤムシって、生きてる奴どころか、標本でもあんまり見たことないですね。底生性の奴もいるんだ。すごい。
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いいでしょー (LOKI:(fantasia*diapsida))
2009-02-22 00:14:39
私もコイツ以外ほとんど見たことないかも。
生きてるときはちゃんともっと透明なやつなんですけどね~。
返信する
ヤムシの画像につきまして (gengo)
2011-07-26 09:29:33
ブログを拝見させて頂き,興味深い写真が掲載されているのを見て,御連絡させて頂きました.

私は群馬県立自然史博物館の田中源吾と申します.
現在,カンブリア紀の眼の進化についてのレビューを書いているのですが,そのなかで,ヤムシについても触れたいと思っています.

つきましては,ブログに掲載されているヤムシの全体像と頭部の画像につきまして,使用を許可して頂きたいのですが.もちろん,クレジットは明記します.

また,もし原画像をお持ちでしたら,そちらをお送り頂けると非常に助かります.

私のアドレスは以下の通りです.
tanaka@gmnh.pref.gunma.jp

よろしくお願いいたします.
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