→:01からのつづき
コウベモグラの全身骨格標本。
Mogera wogura (Temminck, 1842)
モグラ君の解剖学的特徴は、その全てが地中生活に特化していると言っても過言ではあるまい。
ガッシリした骨格に支えられた弾丸状の体型、
狭い穴の中で前進・後退しようと引っ掛からない短く放射状に生えた柔らかい体毛、
そして何よりこのシャベルのような前肢!(関係ないけど、"シャベル"と"スコップ"は地域によって語の使い方が異なるよね)
↑右腕を前側から捉えた。
Topの画像でも分かるが、そもそも前肢は体に対してほぼ外側に向くように付いており、
地上で掌を接地させて歩行することはほとんどできないかのように見える。
それにしてもこの前肢の骨の形態は頑強そのものである。
ヒトの腕の骨などと比べれば、まるで重機の様な印象すら受けるが、
もちろん、その各骨の繋がりやそれに付随する筋などは我々と変わらない。
↑同じく右前肢。
上腕骨(humerus)も鎖骨(clavicle)も、我々や多くの動物では細長い棒状の長骨だが、
モグラ君では強力な筋肉や腱の付着する突起などが圧倒的に発達し、
まるでブロックの様な巨大な1つの骨になっている。
その遠位には、これまた強力でブレの少ない関節を持った尺骨(ulna)と橈骨(radius)が続き、
最後にスプーン状にまとまった中手骨-指骨に繋がる。
しかしここで不思議な骨が1つ。
第1指(親指)の更に外側に、三日月形の扁平な硬骨がある。これは何だろう?
前母指(praepollex)、また鎌状骨(falciforme)とも呼ばれるこの骨が、
他の動物でのどういった骨に相同(homolog)なのだろうか、という件には未だに少々議論があるらしい。
手根骨と似た発生を行うという説(Prochel and Sanchez-Villagra,2003)がある(つまり他の動物で云う橈側手根骨)一方で、
結合組織などに発生する種子骨だという説も組織学的に(Clark and Stechschulte, 1998)、また発生学的に(Prochel, 2006)提唱されています。
さて、モグラはまた(:01で少し書いたように)、眼が矮小になり皮膚に埋まっている。
これがために古くからモグラは盲目の象徴となり、「眼を持たない」とさえされたことがあった。
これに対する最初の反論として知られるのが
Ἀριστοτέλης(アリーストテレース)の『Περι τα ζωια ιστοριαι (動物誌)』の以下の2部分だが…
「モグラは、ある意味では眼があるともいえるし、まったくないともいえる。
なぜなら、まったく見えないし、外からはっきり見えるような眼はないからで、皮膚をはぎ取ってみると、がんらい体表の、
眼のために備えられた場所あるいは領域に、眼の領域と黒目とがあって、あたかも眼が発生の途中で退化し、その上を皮膚が被ったもののようである」(『動物誌』第1巻9章)
「…発生の途中で本性が退化したかの如く見える
(というのは、脳の脊髄との接着点から腱状の強靭な二本の管が出て、眼の座[眼窩]そのものに沿って伸び、上の牙に終わっているからである。)」(『動物誌』第4巻8章)
これらはモグラではなく、モグラネズミ(Myosplax属など)を混同している可能性が指摘されている。
少なくとも第4巻の記述は、実際のモグラとはどうも似ていない。
では実際の解剖学は、眼の発生はどうなっているのか?
気になるところですねぇ。
-References-
・Clark J, Stechschulte DJ Jr. (1998) The interface between bone and tendon at an insertion site: a study of the quadriceps tendon insertion. J Anat. 1998 192 ( Pt 4):605-16.
・Gambaryan P.P., Gasc J.-P., Renous S. (2003) Cinefluorographical study of the burrowing movements in the common mole, Talpa europaea (Lipotyphla, Talpidae)
Russian J. Theriol. Vol.1. No.2: 91–109
・Prochel J. (2006) Early skeletal development in Talpa europaea, the common European mole., Zoolog Sci. 23(5):427-34.
・Prochel JA, Sánchez-Villagra MR. (2003) Carpal ontogeny in Monodelphis domestica and Caluromys philander (Marsupialia). Zoology (Jena). 106(1):73-84.
・『動物誌』 アリーストテレース
島崎三郎:訳, (岩波書店, 1999)
・『バイオディバーシティーシリーズ7 脊椎動物の多様性と系統』
松井正文 :編集, (裳華房, 2006)
・specimens: その他の収蔵標本。
・vertebrata:01・02 脊椎動物。
・Gryllotalpa orientalis: ケラ
・pig's foot: 豚足骨格
・avian digit: 鳥の指。
・gw wander -yokohama: 横浜Y150
・gecko:skelett トッケイヤモリの骨格標本。
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