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皆さんへのお願い:10月30日から始めたこの連続講座「スウェーデンの脱原発政策の歩み」(私の理解では「エネルギー体系修正のための政策」という表現のほうが適切だと思う)がカバーする範囲は、1960年代から1990年頃までです。その頃を振り返りながら読んでください。その後のスウェーデンのエネルギー政策は「緑の福祉国家22~30:エネルギー体系の転換」を参照してください。
ここでは、多くの記事に共通する誤解を二つ挙げるに止めます。
第一は「スウェーデンの脱原発政策が国民投票によって決まった」とする点です。この点には二つの誤りが含まれています。その一つは国民投票の結果は12基までとの上限はあるものの、過半数(58.0%:第一案+第二案)が原発の存続に投票していること。もう一つはスウェーデンの国民投票は、スイスの国民投票とは違い、投票の結果が自動的に国会や政府を拘束するものではないことです。
つまり、この誤解は「スウェーデンの国民投票とはどのようなものなのか」を理解していないという単純な理由によるものです。それでは、何がスウェーデンの原発廃棄を決めたのでしょうか? それは1980年3月の国民投票の3か月後、つまり同年6月の「国会決議」によって「2010年までにスウェーデンの原子炉12基すべてを段階的に廃棄すること」が正式に決まったのです。
第二はスウェーデンのエネルギー政策に関する英文資料にしばしば登場する「Energy Bill」とか、「Government Bill on Energy Policy」という言葉の中の「Bill」という単語の意味です。この場合の「Bill」を日本のジャーナリズムやエネルギー関係者はほとんど例外なく機械的「法案」と訳し、読者を混乱させています。「法案」が国会に提出され、国会を通過したので「法律」ができた、つまり、「エネルギー法」とか、日本の最大の関心である原発のみに注目して「脱原発法」ができたという理解が多いのですが、実際はそうではありません。
しかし、このように報じた一般紙がかなりあります。この場合の「Bill」は「法案」ではなく、法律とは何ら関係のない「政策案」と訳すべきものです。つまり、政府が国会に提出した政策案が国会で承認され、「政策」となったということです。スウェーデンでは、国の重要な政策の決定に国会の承認が必要なので、政府は定められた時期に「政府の政策案」(Government Bill)を国会に上程し、その承認を得るという手順を踏みます。
これら共通の誤りはスウェーデンの政策決定システムが日本のそれと異なることを理解せずに、日本の政策決定システムを頭においてスウェーデンを解釈していることから生じた単純な誤りなのです。
日本のジャーナリストや専門家と称される方々が書くスウェーデンのエネルギー政策に関する論文や記事の中には、スウェーデンの社会システムを考慮に入れないために生じた誤解や曲解の例が多々見受けられます。
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