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側弯そくわんをもう一度基礎から(進行しないタイプの側弯もある part II)- 中国,南京大学医学院報告

2017-10-24 00:04:17 | 側弯そくわんをもう一度基礎から
初回記載:2017年10月24日
追記:2017年12月10日 中国南京大学医学院の側弯症治療調査報告

コブ角40°を超えたら手術を想定することになるわけですが、一方、中度側弯の場合も「進行しないタイプ」の側弯があることもご紹介してきました。ここでは、中国、南京大学医学院における初診時コブ角40°を超える患者の経緯に関する研究論文を見つけましたので、ここに追加してご紹介します。

引用
Clin Spine Surg. 2017 Mar;30(2):85-89.
Is Brace Treatment Appropriate for Adolescent Idiopathic Scoliosis Patients Refusing Surgery With Cobb Angle Between 40 and 50 Degrees.
Zhu Z1, Xu L, Jiang L, Sun X, Qiao J, Qian BP, Mao S, Qiu Y.
Spine Surgery, the Affiliated Drum Tower Hospital, Nanjing University Medical School, Nanjing, China.

アブストラクトのみですが、
・A cohort of 54 patients,adolescent idiopathic scoliosis patients with Cobb angle between 40 and 50 degrees who utterly refuse surgery.
 手術を拒否したコブ角40~50°の装具療法中の54名の思春期特発性側弯症患者の経過
・All the patients refused surgery at their first visit and insisted on receiving brace treatment. Each patient was followed up at an interval of 3-6 months. Variants such as initial Risser sign, initial age, sex, curve pattern, and initial curve magnitude were compared between patients with and without curve progression. A logistic regression analysis was performed to determine the independent predictors of the curve progression.
 全ての患者は初診時に手術をすることを拒否し、装具療法を継続した。これらの患者を3~6か月のインターバルでフォローアップした。リッサー、年齢、性別、コブ角等をもとに、カーブ進行の有無を調査した。
・On the whole, the curve progressed in 35 patients, remained stable in 12 patients, and improved in the else 7 patients. All the patients with curve progression finally received surgical intervention. initial Risser sign of grade 0 or 1 had significant associations with the curve progression of patients with curves >40 degrees

 カーブ進行した患者   35名 (65%) これらの患者は全員、手術を施行した。
 進行せずに安定した患者 12名 (22%)
 改善した患者       7名 (13%)

 カーブが進行した患者の背景要素としては、初診時のリッサーサインが0または1、コブ角が40°を超えていた


(comment by august03)
・初診時で40°を超えていた場合も、全ての患者さんでカーブが進行するわけではなく、この報告では35%の患者さんは (少なくともこの時点では)装具療法を完了することができたことが確認することができます。
・逆に、カーブが進行するリスクとしては、やはり初診時リッサーサインが 0 や 1 という骨成熟がこれから始まろうとしている患者さんで、かつ、コブ角が大きい (40°以上) 患者さんであることが報告されていました。

☞非常に悩ましい決断ですが、早期発見が遅れ、初診時にコブ角がすでに40°以上あり、かつリッサーサインが0や1のお子さんの場合、そのままカーブが進行し
 手術となる確率は70%前後ある、ということにもなります。 装具療法を頑張れば、30%前後の確率でその角度を維持したまま (あるいは減少させて)装具療法を終える可能性もあります。

☞ワーストシナリオとして、手術を決断せざるえない場合も、コブ角50°の手術と、60°の場合、70°の場合では、将来像が変わってくるであろうこともつねに考えていただければと思います。脊柱固定手術をしても、曲がった脊柱は、「真っすぐ」「ゼロ度」にはなりません。それでも、50°であれば、それに近いところまで矯正することはできるかもしれません。しかし、60°、70°と角度が大きくなればなるほど、曲がりはやはり残ります。それだけ難しい手術となる。ということを頭の片隅においていただきたいのです。

☞こういうケースになればなるほど、藁をもつかむ思いで、側弯体操をすれば! ? と考えるのは親心として当然だと思います。手術の確率70% から逃れることができるかもしれない、と期待したい、望みをつなぎたいと考えるのは当然だと思います。 そういう心情を否定はいたしません。しかし、客観的立場からのコメントとしては、リッサーサイン 0 や 1 で、コブ角40°を超えていたお子さんが、体操でコブ角が減少し、手術をせずにリツサーサイン5を迎えた、手術をせずに20才を迎えた、というような医学データは、私がこれまで探した中にはありませんでした。

国内で Schrothシュロスなどの体操を宣伝する人たちも、その宣伝のなかで「日本では側弯症は治らない病気で、病院を受診しても経過観察という名の元でフォローもせず、手術が必要な状況まで放置されている。 側弯症の人たちは、科学的根拠のない民間療法に救いを求めている。」 と述べられているようですが、残念ながら、その治療実績や、医学データを示してはおりません。

特発性側弯症の原因がいまだに不明の現状で、皆さんがどういう判断をされるのか、それはわかりませんし、またどういう判断をされたとしても、その結果を受け入れるのは、皆さんご自身、そして皆さんのお子さんであり、私augsut03でも、またSchrothシュロス体操を施すトレーナーでもありません。それが現実です。

そういう現実のもとで、私にできることは、おおやけにされている「医学データは何か」をご提供することしかできませんが、同時に、それを示すこともできずに「海外には実績がある」「ドイツでは国の保険で体操療法が認められている」という言説を述べてる状況に違和感を感じているものです。ドイツの保険制度のもとで、理学療法のとある分野が保険適用されているということと、「治る」ということはイコールではありません。ロジックをすり替えています。あたかも、ベンツやBMWのような高級車を生み出した優秀なドイツ人の国では、側弯症患者はすべてSchrothシュロス体操で完治しているかのような印象を与えていますが、そのような事実も存在しません。ドイツでも、側弯症に対する手術は行われており、多くの側弯症専門医師が活躍しています。

下記はそのホームページのひとつです。

  Scoliosis Surgery - Medical specialists




医学上のエビデンスを示すこともなく、自分達のすることは「民間療法」とは異なる、という主張もいかがなものでしょう.....


august03



関連するトピックス
[側弯そくわんをもう一度基礎から(進行しないタイプの側弯もある)]

[側弯症-自然緩解、装具療法の効果等に関する医学文献をここに一覧にしました]

[思春期特発性側弯症25度以下の患者さんの50%以上は進行しません]


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2017年10月24日

始めにご理解いただきたいこと、として。
❝データ❞というものは取扱が非常に難しいものです。特に医学データの場合は、人間がその対象である為に、個体差・個人差があり、また例えば「装具療法」と言ってもそこには装具のタイプ、装具の製作者の技術、家庭での装具の装着状態などに「差」があります。「体操療法」と言っても、その内容(方法・実施時間・ひとりでやるのか、指導の監視のもとでやるのか等)の「差」があります。対象となる患者さんにおいては、性別、年齢、初潮の有無、骨成熟度、初診時コブ角、回旋の強弱、側弯のタイプ、遺伝的リスクの有無、BMI等、それらのデータが全て網羅されているのか、何があり、何がないのか、というように、どこかに必ず十分とは言えない要素があるものです。しかし、それを突っ込みすぎては前進できなくなります。従いまして、いまここに入手できている❝データ❞を単純化した形で、コメントを書かせていただいておりますこと、ご了承下さい。データとは100%ではありません。しかしゼロでもなく、そこから「見えてくるものはある」という姿勢で書いております。

私august03は、40年以上 Medical に携わってきた者として、ある意味医療の限界というものも理解しているつもりです。同時に、医療のあるべき姿ということに対する私自身のポリシーがあります。医学は100%完全と言えるものではありません。しかし、「側弯症を何千人治した」「側弯症は治る」という言説は医学ではありません。そこには、側弯症は全て悪化(カーブが進行)する病気であるという読み手の先入観・思い込みを利用したレトリックがあります。患者の「5年後、10後、15年後...その後」を証明するデータはどこにもありません。患者の手記や手紙は「データ」ではありません。思春期特発性側弯症は、全てが悪化(カーブ進行)する病気でもありませんが、また同時に、骨成長後もカーブ進行が続くケースもある病気です。ゆえに「側弯症は治せる」という表現は、患者に責任を負わない民間施術師ゆえにできる表現ということです。ヒトには自然治癒力がある。それを引き出すのが側弯エクササイズである。一生続ければ側弯で悩むことはない。途中で投げ出す人はそれなりの結果しか得られない(☞カーブが進行したのは、お前が努力しなかったからだ、と患者に責任転嫁ですか)。他人に依存してもこの病気は治らない。治すのは本人次第である。......これが医療? これを「側弯は治せる」と言うのでしょうか??

話しをもとに戻します。

進行しないタイプの側弯もある、の続きとして、幾つかの文献をご紹介したいと思います。しかし、先にも記載しましたが、私は「進行しないタイプもある」だから、病院に行く必要はない。ということを述べているわけではありません。民間療法に騙されて欲しくないがゆえに、医学上のデータは何か、ということを皆さんにご提示し、皆さんご自身が勉強し、皆さんご自身が判断できるベースメントを築いていただきたい。というのが私の願いです。

◇2007年 A Prospective Study of Brace Treatment versus Observation Alone in Adolescent Idiopathic Scoliosis: A Follow-up Mean of 16 Years after Maturity. (スウェーデン)

・思春期特発性側弯症患者において、装具療法実施者と無治療者の、骨成長終了後 16年間(調査時平均32歳)のフォローアップ



・装具療法患者35名も無治療患者57名もその背景は近似している 
・初診時平均年齢13歳 
・初診時リッサーサイン0~2 装具グループ22名 無治療グループ39名 いずれも60%強
・初診時コブ角平均     装具グループ32° 無治療グループ30°
・骨成熟終了時平均年齢 16歳
・骨成熟終了時コブ角平均  装具グループ26° 無治療グループ30°
・骨成熟時角度が6°以上増  装具グループ0%  無治療グループ 23名(40%) →カーブ進行により13名は装具療法開始、6名は手術実施
・骨成熟時角度が45°以上増  装具グループ0%  無治療グループ 0%
・骨成熟までに手術実施   装具グループ0名  無治療グループ 6名 (11%)...コブ角45°を超えた為



・上表は、初診時~骨成長終了時~最長18年後までのカーブ進行状況を示したもの
 黒直線が無治療グループ、一度カーブが減少しその後進行している点線が装具療法グループです

(コメントby august03)
繰り返しになりますが、ここに示されたデータが、貴方自身(あなたのお子さん)に当てはまるかどうかはわかりません。ただここから見えてくるであろうことは、思春期特発性側弯症の中には、13歳(骨成熟に近い)・コブ角30°程度であれば、カーブが進行しない(遅い)タイプもあり、およそ50%の患者にはその可能性があるだろう、ということです。ただしその裏には、50%の確率でカーブが進行し、2年ほどの間に手術になるケースもあります。一方、装具療法の場合は、カーブ進行を抑え、このデータの場合は、30代までは30°台を維持できる可能性があるということです。装具の効果は、装具の種類や装着の状況・装着時間などの因子が関与してきますので、データによりまちまちの為、確実にこうなるということも言えませんが、装具療法によりカーブ進行を抑える可能性が高まることは言えると思います。
☞医師の中には、装具は患者(こども)に多大な負担をかけて、しかも効果を持たずに手術になることもある不確実性を持っているので、よほど適応を吟味して使用すべきである、という意見を述べられている方もおられます。その例を示す研究を下記にご紹介します。


上記文献はスウェーデンのものでしたが、下記は米国で発表された骨成長終了後16年間をフォローした文献です。

◇2012年 Body Appearance and Quality of Life in Adul Patients with Adolescent Idiopathic Scoliosis Treated with Brace or Under Observation Alone during Adolescence. (USA)

・初診時コブ角25~35°の思春期特発性側弯症患者に対して装具療法37名、無治療40名の研究報告



                   装具グループ   無治療グループ
・初診時年齢               13歳        14歳
・初診時コブ角平均            31°         30°
・骨成熟終了時年齢            16歳        16歳
・骨成熟終了時コブ角           28°         31°
・調査時年齢               32歳        32歳
・調査時コブ角              34°         35°
・骨成熟時から調査時までの間のカーブ増  6°          4°
・上記6°以上増の割合           20名(54%) 15名(38%)  
・上記で45°以上増の割合 2名(5%) 3名(8%)
・手術実施                なし        なし

(コメントby august03)
このデータでは、装具グループと無治療グループには、その成績(outcome)に差が見られません。ニュアンスとしては、無治療グループのほうが良いアウトカムであったという印象を与えます。装具作成の技術なのか、装着時間の問題なのか、あるいは遺伝的要素の高い患者の比率が高かったのか、こういうアウトカムになった原因は不明ですが、人間を用いた臨床試験には様々なバイアスが入ってきますので、原因を特定することは難しいといえます。しかし、同時に、こういうデータがでてくるほうが原因不明の病気を相手にする医学研究では自然とも言えます。この施術を使うことで、あるいはこの側弯体操をしたことで、全ての患者が治った。という宣伝のほうが不自然というものです。

30代でコブ角30°台をこのまま維持してくれることがベストなわけですが、残念ながら大人になっても進行するタイプの側弯が存在します。全てがすべて進行するわけではありませんが、骨成長終了でもカーブが進んでいくタイプや、手術をしないケースで骨成長終了時のコブ角が55°を超えた場合、年に1.5°ほど進行し続けるこという報告(1987年The natural history of unfused scoliosis)もあります。このようなデータから見えてくるのは、できるだけ早く側弯を発見して、それが進行していないことを定期検査で確認し、もし進行が疑われたら、時期を逃さずに装具療法をするのかしないのか熟考し、装具療法をするのであれば、一日の装着時間はできるだけ長くして装具の効果を高める努力をする。そして、骨成長の終了とともに装具療法を終えることができても、その後も自分のからだ(脊柱)の状態に気を配り、必要なときに診断してもらい、相談に乗ってくれる医師との長い付き合いを意識しておく、ということになるのではないかと思います。

august03

☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。
 医学文献の拙訳を提示しておりますが、詳細においてはミスが存在することも否定できません。もしこれらの内容で気になったことを主治医の先生に話された場合、先生からミスを指摘される可能性があることを前提として、先生とお話しされてください。
☞原因が特定できていない病気の場合、その治療法を巡っては「まったく矛盾」するような医学データや「相反する意見」が存在します。また病気は患者さん個々人の経験として、奇跡に近い事柄が起こりえることも事実として存在します。このブログの目指したいことは、奇跡を述べることではなく、一般的傾向がどこにあるか、ということを探しています。
☞原因不明の思春期特発性側弯症、「子どもの病気」に民間療法者が関与することは「危険」、治療はチームで対応する医療機関で実施されるべき。整体は自分で状況判断できる大人をビジネス対象とすることで良いのではありませんか?



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