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前立腺癌 - 近藤誠理論に対する患者からの視点として

2021-09-11 14:00:19 | 前立腺がんと告知されて
2021年9月8日

現在65歳。前立腺全摘手術後 24日目。幸いにも尿漏れも想定ほどではなく対処できており、痛みのほうも解消にむかいつつあります。正直、この痛みは予想していなかったので、かなり辛い日々もありました。ただ、人間は忘れる動物ですから、やがて笑い話になるのだと思います。事実、最近は近所に住む友人に会ったときなどは、手ぶり交えて、尿漏れや痛みの状態などを笑い話にしています。術後合併症といえるほどのものもなく過ぎようとしていることに感謝しています。転移については、次回の診察まで正確なところは待たなければなりませんが、少なくとも術前のCTや骨シンチ検査では転移もなく、ある意味、仮に今後そういう事態になったとしても、対応できるだけのこころの在りようは確認できているつもりです。

下記のグラフは、国立ガン研究センターからの引用なのですが、術後5年生存率はほぼ100%というデータを見ると、まずはこころ穏やかに5年は過ごせそうです。


また次の表は、2020年3月の読売新聞からのコピーですが、術後10年生存率が97.8% とあり、
患者の身としては、捕らぬ狸の皮算用かもしれませんが、今後10年についてもある程度の目途は立つのかなあ、と思う次第です。




ただし、これらの数値は、前立腺癌の病期が限局性や領域性の場合であって、転移のある場合、この数値は5年生存率でほぼ半分、10年生存ではさらに減少することが想定できます。

「がん治療の95%は間違い」近藤誠 幻冬舎新書 2015年 の前立腺癌の項には次のような記載があります。

.........PSA検査で発見された前立腺癌は9割以上が “がんもどき” ですが、あなたのように経過中にPSA値が上がったり下がったりする場合は、99%以上が “がんもどき” でしょう。生検を断り、前立腺癌のことは忘れて、もう検査をうけないのが一番ですね..........

手術を経験した患者の立場として、同氏のこのような意見に対する違和感・疑問を感じました。

  ① 同紙で語られている患者さんの年齢は58歳。PSA検査値は、3.9 ⇒ 3.7⇒4.3
    なぜPSA検査をやる必要がないと断言できるのか?
    前立腺癌が高齢になるほどに発生率が高くなることを考慮すれば、
    血液検査を継続.....仮に毎年ではなくとも、2年おきとか....続けることは
    メリットこそあれ、どれだけのデメリットがあると言うのか?

近藤医師のコメントの背景には、同氏が引用している 2002年のNew England Journal : A Randomized Trial comparing Radical Prostatectomy with watchful waiting in Early Prostate cancer 前立腺癌に対する前立腺全摘手術群と観察群の比較試験 のデータがあるのだと思います。

下図はかなり簡略した図になりますが、この医学文献を見ながら私が作製してみたものです。



比較試験として、こちらの内容は非常によくデザインされており、優良かつ有用なデータであることが、素人なりに読み取ることができました。
近藤医師は「がん治療総決算」の中で、このデータを引用して次のように述べています。

 「片方は前立腺全摘手術を施行し、他方は無治療・様子見とし、最長12年経過をみています
  結果、総死亡の数は両群同じでした。総死亡数というのは、前立腺癌ばかりでなく、
  他のがん、心筋梗塞、脳卒中、事故などあらゆる原因による死亡をカウントした死亡数です
  総死亡の率が同じだったということは、両群の平均寿命が異ならないということです。」


手術をしても、しなくても、その人の持っている「運命」は変わらない。死は平等に訪れる。ゆえに、様々な合併症・不具合・副作用などに苦しめられる方法を選択することに、どれだけの意義を認めるのか、自分の人生の価値というものをしっかりと考えることが大切。

おそらく、これが近藤医師の語りたい言葉なのだと思います。この言葉の持つ、哲学的深淵には私も共感を覚えます。自分の人生をどう生きるか。それは自分の人生の最終章をどう迎えたいのか。と同一だと思います。その心構えをしっかりと考えて、しっかりと持つこと。それはとても大切なことだと思います。

しかし ①のように、紋切り型で、無駄だ ! と一刀両断されるのは、どうにもやりきれません

先に示した国内における5年生存率、10年生存率のデータも存在します。




前立腺癌が転移していた場合、その生命予後が劣ることは誰の目から見ても想像しうるものです。願わくば、転移する前に癌を発見し、対処したい。と考えるのは私達の願いでもあります。
これに対して近藤医師は、別の著書において「本物のガンであれば、転移が発見される以前に
すでに転移してしまっている」......いわんとしていることは、上述と同じく「抗っても運命はすでに決まっている」ということなのでしょう。

検査によって他の部位・臓器への転移のない段階で発見された癌だとしても、本物の癌の場合は、目に見えないだけであって転移はすでに存在しているのだ。“もどき”癌の場合は、転移はしないのだから、手術等の対応することすら百害あって一利なし、だ。と近藤医師は述べられているようです。

   では、“本物の癌” と “もどき癌” とはどうやって判別するのでしょうか?

   私の情報収集が未熟なのだと思いますが、近藤医師がこの判別方法について明確に
   説明し、証明している文章は寡聞にして知りません。


   医師の診断で、「あなたの余命は5年です」と言われた患者でも、すでに10年以上も
   生きている患者はいる。これはその癌が “もどき癌” だったからだ。

   これは証明ではありません。

   特発性側弯症において、多くの整体が次のような宣伝を繰り広げています。
   「医者に行く必要はありません。ご覧ください、これだけ多くの患者のお母さん方から、
    私の施術によってこどもの側弯が治った。という感謝の手紙が届いています」

   近藤医師の述べている内容全てを否定することはできませんが、
   “もどき癌” 理論と 側弯整体の宣伝内容とは 根っこが同じに見えてなりません。

   特発性側弯症においても、進行しない側弯が存在しますが、進行しないタイプの側弯と
   整体の施術によって進行しなかった、というのは 全く土台の異なる出来事です。
   そして、特発性側弯症においては、進行しないタイプと進行し続けるタイプを識別
   するために、25度~45度 という検査可能な方法が確立されています。

   “もどき癌” にはそのような識別方法は提示されているでしょうか?



私は、自分の年齢と生活・家庭環境、そして自分の性格や考え方をもととして、PSA値9、
生検検査結果(限局性)を判断材料として 前立腺全摘手術を選択しました。
もしかしたら私の前立腺癌は “もどき癌” だったかもしれません。何もしなくても、この先
10年、20年は普通の生活を過ごせたかもしれません。手術をしてもしなくても、私の寿命には
違いはなかったかもしれません。

しかし、“もどき癌” であると判断できる指標がない状態で、何もせずに「観察・待機」を
選択した場合、私の内部に存在した癌が、他の部位・臓器に転移しないという保証も存在しません。 前立腺癌の場合、例えば PSA値の上昇具合や画像診断で その癌が増大しているとか、転移しているとかの医学的事実を100%確認できる、という手段がありません。
確実に知る方法なんて存在しないのだから、なまじ検査なんてしないほうがこころ穏やかに暮らせる。それもひとつの考え方です。
同時に、転移のない前立腺癌であれば、10年前後の予後は見込める、というデータをもとに、
SEXは諦めて、尿漏れに対処しながら10年という時間を心穏やかに楽しむ、という考え方も存在するわけで、私は、こちらを選択しました。 検査をせずに、あるいは検査結果を無視して生活を続けていき、その数年後に、突然 「すでに転移しています。5年生存率は50%弱です」と宣告を受けるほうが、よほどのショックです。少なくとも、私にとっては、そちらのほうがショックです。

同氏の著作「医者に殺されない47の心得」を読み、その多くの内容について、医療の世界で40年以上働いてきた身として、賛同する部分が少なくありませんでした。

でも、やはり、是々非々 というのが私にとっての結論でした。


august03
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