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あすかパパの色んな話

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【男子ゴルフ】松山英樹の崩壊をもたらした、オーガスタの「罠」の正体

2012年04月10日 18時33分58秒 | コラム

マスターズ最終日、大きくスコアを崩した松山英樹は通算9オーバー54位タイに終わり、2年連続のローアマも逃した。

松山英樹の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

 最終18番ホールを終えてテレビのインタビューをこなし、その後、現地メディアのインタビューに答えて、日本人記者の囲み取材が始まった直後だった。

 ひと言も発することなく、突然、左手の親指と人差し指で目頭を抑えた。抑えても、涙があふれ落ちた。言葉が出ない……。そして、軽く会釈して、いったんクラブハウス内に駆け込んだ。

 驚いたのは、囲んでいた日本人記者たちだった。一瞬、何が起きたのかと呆気にとられていた。

 数分後、松山が姿を見せた。
「すいませんでした……」

 松山は、悔しさを隠し切れなかったのだ。

 初日は71の1アンダーで回り、14位タイと好位置につけ、2日目は74とスコアを落としたものの、通算1オーバーの31位タイで見事に予選通過した。マスターズが始まる前に設定していた3つの目標のうち、ひとつ目は難なくクリアした。

 次の目標は、ローアマ(ベストアマ)だった。2日目が終わった時点で、アマチュア2位のパトリック・カントレーに4打差をつけていた。さらに3日目、72のパープレイだった松山は、全体で27位タイ。アマチュア部門ではもちろん1位で、カントレーには6打差と、その差を広げていたのである。

 そして、3つ目の目標である、16位以内を狙うにも好位置につけていた。最終日、2アンダーで回れば、通算1アンダーになる。それは、十分に16位以内に入れるチャンスがあるスコアだ。松山の実力ならば、不可能ではない数字だった。

 しかし、ともに実現できずに終わった。

予選通過を果たした2日目を終えて、松山はこう語っていた。
「(予選を突破して)ホッとしました。ローアマというより、来年の出場権(16位以内)のほうがほしい。(ローアマに)なれなくても、そっちは取れるようにしたい。今、31位タイですよね。あと4つくらい伸ばせば可能性はあると思うので、しっかりやっていきたいと思う」

 つまり彼は、目標のその2である「ローアマを獲る」という意識でプレイするのではなく、全体で「16位以内に入る」という、3つ目の目標だけに絞ったプレイをしようと決めていたのである。それは、東北福祉大の阿部靖彦監督も容認していた。昨年、ローアマを獲得し、この1年間、監督も松山も、次なる高みの目標を設定していたのだ。そのために松山は、昨年のマスターズが終わってからすぐに、体幹を鍛えるためのトレーニングに着手した。

 ゴルフゲームの難しいところは、実は、ここにある。

 手堅く、今のスコアを落とさずに守備中心にプレイする場合と、一気にバーディーを狙って上位を目指すプレイをする場合では、ゲームの組み立て、進め方が大きく違ってくる。上位を目指すならば、後者のゴルフが必要だ。

 そのうえで、ゴルフトーナメントは4日間72ホールで戦われる。それは、まるで起・承・転・結のように、3日目、最終日のゴルフをどう組み立てるかで決まる。

「転」となる3日目。松山は当然、攻めて行くゴルフを選んだ。前半でふたつのバーディーを奪って通算1アンダー。あわやベスト10に入る勢いだったが、後半の13番、15番をボギーとしてパープレイ。27位タイに止まった。

「この緊張感?(経験)ないです。まだそういう舞台に立っていないのかもしれないけど、(経験して)良かったです。明日はアンダーで回りたいと思います。アンダーで回らないと、16位以内には入ってこないと思うので……」

 そう語った松山だったが、このとき、少し違和感を覚えていた。

 それは、後半になってパッティングがイメージ通りに決まらないことだった。パッティングは松山の大きな武器である。その違和感を持ちながら、最終日も「攻める」ゴルフをしなければならなかった。

 最終日、スタート前の練習グリーンでは、まずまずの感触があった。けれども、いざ1番ホールをスタートすると、「(2打目をショートして)いいアプローチで2mほどに寄せて、(パットは)いい感じで打てたはずなのに、外れてしまった。それで、少し不安感を抱きました」という。

 それでも、松山は逃げることをしなかった……。

オーガスタというコースは、攻めて行くと、見えなかった罠(わな)にどんどんはまる。

 手堅くいけば、パープレイは可能だ。でも、それ以上はない。ゆえに、どの選手も迷う。常に「攻める」とそれを「放棄する」とが背中合わせとなり、しかもそれは、信じられない勇気と決断を要求される一打ばかりだからだ。

 かつて、マスターズを戦った金子柱憲はこう語っている。
「攻めれば、危険。『安全に』と思っても、逆にボギーを叩く可能性が大きい。そのときの一打を放つ勇気は、他のコースでは経験したことがない」

「WIN」or「LOSS」……。松山は、どんなにボギーを叩いても決して怯むことなく、攻める気持ちを捨てなかった。ただ、心の奥に不安を感じながらも、必死に食い下がる松山の勇気は、残念ながらスコアには反映されなかった。

 初めて知った壁だと思う。16位以内、ベスト10以内を目指そうと思ったときに、また別の壁が立ちはだかるのである。

 試合後、松山が突然涙を流したのは、世界のメジャーで初めて、上位への壁にぶつかったからだろう。その壁にぶつかっては跳ね返されることを、何度も繰り返しての歯がゆさもあると思う。自分のパッティングが、もう少し普段どおりだったら……。その悔しさもある。

 松山にとって2度目のマスターズ挑戦は、残酷極まりないものとなったが、これからもっと強くなるうえでは、得難い経験だった。

 その松山が涙を流していたころ、コースでは優勝争いが佳境に入っていた。

 特に「サンデー・バックナイン」と呼ばれるように、メジャーでは最終日の後半から真の戦いが始まる。リアルタイムでスコアの動向を示す、上位20位までの大きなスコアボードが、数分ごとにどんどん入れ替わる。

 序盤、ウエストハイゼンが2番ホールでダブルイーグル(アルバトロス)をもぎ取れば、B・バン・ペルトとアダム・スコットが16番でホールインワン。オーガスタの森のあちこちから、轟音(ごうおん)のような歓声が沸き起こる中、サンデー・バックナインでは一時、トップと3打差以内に8選手がひしめき合う混戦となった。

 結局、最終組からひとつ前のウエストハイゼンとババ・ワトソンが10アンダーで並んでホールアウト。プレーオフとなった。

 勝負は、2ホール目に決まった。ババ・ワトソンの初優勝である。

 彼は、その場で号泣した。涙が止まらなかった。ネイションワイド(下部ツアー)の下積みを経て、這い上がって来た苦い経験が、一気にあふれ出たのだろう。同じ下部ツアーで必死に戦ってきた選手数人が、ババ・ワトソンの勝利を喜び、一緒に抱き合っていた。

 この日見た、ふたり目の涙……。

 次に松山が目指すのは、あらゆる経験を積み重ねて勝ち取ることができる、この勝利の涙である。(スポルディーバ Web)



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