
きさらぎ賞に続いて皐月賞トライアルの若葉Sも圧勝し、本番でも1番人気が予想されるワールドエース。
春のクラシック第1弾、桜花賞はディープインパクト産駒のワンツーフィニッシュだった。
断然の一番人気に支持されたディープ産駒のジョワドヴィーヴルが6着に敗れたものの、同じくディープ産駒のジェンティルドンナが勝って、ヴィルシーナが2着。昨年来、「ディープ2年目産駒は走る」と言われ続けてきたが、まさにその評判を裏づける結果となった。
となると、当然、続く皐月賞でも、ディープ産駒には期待がかかる。なにしろ、現3歳の牡馬のディープ産駒は牝馬以上に粒ぞろいと言われ、実際に昨秋の東スポ杯以来、ここまで5頭もの重賞勝ち馬を出しているのだ。
そのうち皐月賞には、きさらぎ賞(GⅢ)馬のワールドエースを筆頭格に、東スポ杯(GⅢ)を勝ったディープブリランテ、ラジオNIKKEI杯(GⅢ)を制したアダムスピークと3頭の重賞馬が出走予定。他に、アーデントとベールドインパクトの2頭が控え、合わせて、桜花賞より1頭多い5頭が名を連ねる。顔ぶれからいっても、層の厚さからいっても、桜花賞と同等か、それ以上の活躍が期待できるレベルだ。
けれども、この5頭の皐月賞組には、桜花賞組にはなかった不安もある。
皐月賞の、2000mという距離だ。
今回の桜花賞も含めて、ディープ産駒はこれまでにGIを4勝しているが、それはいずれもマイル戦。2000m以上のGⅠでは、昨年の皐月賞のダノンバラードと菊花賞のトーセンラーの3着が最高で、最も底力が求められるダービーとオークスでは計10頭(ダービーに4頭、オークスに6頭)の産駒を送りこみながら、掲示板に載ったのは、オークス4着のマルセリーナただ1頭というありさまだ。
もともとディープ産駒には「気のいい」タイプが多いと言われる。「気のいい」とは、素直で前向き。ただその分、競馬っぷりのメリハリに欠ける。こういうタイプは、本質的に距離に限界があるものだ。そうした点と、これまでのGI実績を重ね合わせると、ディープ産駒は2000mを越える距離ではパフォーマンスが落ちるのでは? という疑いが浮かび上がる。
もちろん現3歳世代では、アダムスピークが2000mのラジオNIKKEI杯を勝っているし、ワールドエースも重賞ではないものの、2000mの若葉Sを圧勝した。ゆえに、距離不安など、ただのアラ探しという見方もできるかもしれない。
とはいえ、GⅡ・GⅢやオープン特別と、GIではやはり違う。GIという、いわば能力の最後の一滴まで絞り切るような大舞台では、ひょっとしたら少し乏しい距離適性が、最後の”底力”に影響をおよぼしている可能性もありうるのだ。
事実、ワールドエースの主戦・福永祐一騎手もかつてのインタビューで、「2000mを越える距離でどんな結果を出せるかが、ワールドエースを含めたディープ産駒にとっての、ひとつの試金石になる」と話していた。少なくとも、その点について、少しも楽観視していなかったと、記憶している。
ある競馬関係者によれば、そこにはこんな背景もあるという。
「ディープ産駒は良血の期待馬が多いから、必然的に値段が高い。それはそれだけ、早期に結果を求められる馬が多いということ。そのため、早く仕上げて、早くデビューして、早く勝たせようとする。だから、結果的にスピードが優先され、その分、距離に限界のある馬が増える。人気種牡馬の産駒ゆえの宿命のようなものです」
また、関西の専門紙トラックマンは、1番人気と目されるワールドエースへの不安を漏らす。
「あの馬はもともと気が良過ぎるスピードタイプ。黙って走らせたら、引っかかって距離が持たない。そこで、なんとかあの非凡なスピードを制御しようとして考えられたのが、最後方で脚をため、直線で一気に爆発させるというあの戦法。それが、きさらぎ賞と若葉Sではうまくいきましたが、馬自身がまだ完成途上で、危なっかしさは残ったまま。だから皐月賞でも、その前2走のようにうまくいくとは限りません。勝って不思議はないけど、凡走してもうなずける。そのふたつの結果が背中合わせという感じがします」
このトラックマンは続けて、こう語った。
「それなら、レースの安定性を買って、スプリングSの勝ち馬であるグランデッツァと、共同通信杯を制して5戦5連対のゴールドシップのほうが、軸としての信頼は置ける」
グランデッツァもゴールドシップも強い馬だ。しかもどちらも前走で2着に退けたのは、2歳時に「最強ディープ産駒」と言われたディープブリランテ。それだけ、前記2頭の壁は厚い。
それでも、ワールドエースなど5頭のディープ産駒たちは、距離2000mの壁を打ち破り、さらにはライバル2頭の壁も越えてみせるのか。答えは、もうすぐ出る――。(スポルディーバ Web)