東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

新坂(本郷六丁目)

2012年10月18日 | 坂道

今回は、文京区菊坂下からはじめて、お茶の水坂の方まで歩いた。菊坂等は本郷台地の南側に位置しその西面にできた坂である。このあたりには古くからの坂が多く、しかも急坂が多い。(現代地図参照)

新坂下 新坂下 新坂中腹 新坂中腹 午後地下鉄後楽園駅下車。

千川通りを北に歩き、こんにゃくえんま前の交差点で右折し、白山通りを横断し、東へ菊坂下方面に進み、菊坂下の信号を通り過ぎて一本目を右折すると、新坂の坂下である。本郷五丁目33番と本郷六丁目10番との間である。

この菊坂下の交差点のある通りは、本郷通りにつながり、その下を地下鉄南北線が通っている。

一、二枚目の写真は坂下から撮ったもので、まっすぐに東へ上っている。三、四枚目は坂中腹あたりから撮ったものである。狭くかなり勾配がある坂である。

新坂中腹 新坂中腹 新坂上 新坂上 一、二枚目の写真のように、坂中腹、下から見て、右側に坂標識が立っている。三、四枚目は坂上近くから撮ったものである。四枚目のように坂上で左に曲がっている。

新坂という坂名は、都内に多く、この近くにも、西片一丁目の北に新坂(福山坂)、根津神社近くに新坂(権現坂・S坂)がある。また、今回行ったが、本郷一丁目にも別名外記坂という新坂がある。文字通り新しい坂であるが、できた時代によるから、江戸時代にできた新坂もある。

上記の文京区の坂標識に次の説明がある。

「新坂
 区内にある新坂と呼ばれる六つの坂の一つ。『御府内備考』に、「映世神社々領を南西に通ずる一路あり、其窮(きわま)る所、坂あり、谷に下る、新坂といふ」とある。名前は新坂だが、江戸時代にひらかれた古い坂である。
 このあたりは、もと森川町と呼ばれ、金田一京助の世話で、石川啄木が、一時移り住んだ蓋平館別荘(現太栄館)をはじめ、高等下宿が多く、二葉亭四迷、尾崎紅葉、徳田秋声など、文人が多く住んだ。この坂は、文人の逍遥の道でもあったと思われる。
  東京都文京区教育委員会 昭和63年3月」

小石川谷中本郷絵図(文久元年(1861)) 御江戸大絵図(天保十四年(1843)) 石川啄木ゆかりの蓋平館別荘跡 一枚目は、尾張屋板江戸切絵図 小石川谷中本郷絵図(文久元年(1861))の部分図であるが、これには菊坂町のとなりにムナツキサカとあるが、この北側は本多美濃守の屋敷で、この坂に相当する道筋はない。近江屋板にも見えない。二枚目の御江戸大絵図(天保十四年(1843))の部分図にもない。

上記の文京区の標識には『御府内備考』にある説明が引用されているが、同著をいくら見てもそのような説明はない。同じ説明が石川や岡崎で『新撰東京名所図会』のものとして引用されている。これから上記の標識の『御府内備考』は誤りで、『新撰東京名所図会』であると思われる。

明治四年(1871)の東京大絵図を見ると、この坂はのっていない。明治十一年(1878)の実測東京全図も同じである。いずれにも、現在胸突坂とされている坂の北側に道筋がまったくなく、上記の尾張屋板と同じである。実測東京全図によると、現在の菊坂下から本郷通りへ向かう通りの西側は、本郷台地の崖下で、現在の白山通りの方から入りこんだ谷地であったことがわかる。明治四十年の明治地図では、この通りができており、その途中にこの坂がある。

以上から、この坂は、江戸時代の坂でなく、明治になってから開かれた新坂と思われる。

新坂上 新坂上 新坂上(太栄館前) 新坂上(太栄館前) 一枚目の写真は坂上から坂下を撮り、二枚目はその反対側を撮ったもので、坂上で左に曲がった道が平坦にまっすぐに北東へ延びている。

二枚目のように、坂上左に旅館太栄館がある。ここは、もと蓋平館別荘で、石川啄木が住んだことがあるとのことだが、三枚目のように、その説明板が立っている。上三枚目はその拡大写真である。四枚目は、太栄館前から坂上側を撮ったものである。

このあたりには、ここ以外にも樋口一葉や宮沢賢治などのゆかりの場所がある。
(続く)

参考文献
横関英一「江戸の坂 東京の坂(全)」(ちくま学芸文庫)
山野勝「江戸の坂 東京・歴史散歩ガイド」(朝日新聞社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)
「嘉永・慶応 江戸切絵図(尾張屋清七板)」(人文社)
市古夏生 鈴木健一 編「江戸切絵図集 新訂 江戸名所図会 別巻1」(ちくま学芸文庫)
デジタル古地図シリーズ第一集【復刻】江戸切絵図(人文社)
デジタル古地図シリーズ第二集【復刻】三都 江戸・京・大坂(人文社)
「古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩」(人文社)
「江戸から東京へ 明治の東京」(人文社)
「大日本地誌大系御府内備考 第二巻」(雄山閣)
「東京人 特集 東京は坂の町」④april 2007 no.238(都市出版)

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