東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

忠弥坂

2012年12月17日 | 坂道

忠弥坂下 忠弥坂下 忠弥坂中腹 忠弥坂中腹 前回の金比羅坂上をそのまま北へ進み、突き当たりを右折すると、忠弥坂の坂上である。

写真は坂下側から並べた。一枚目は坂下から坂上を撮ったもので、坂下は緩やかだが、右にちょっと曲がってから中程度の勾配よりも急にまっすぐに東へ上っている(現代地図)。ここから坂下を右折し北へちょっと歩くと、前回の金刀比羅神社である。

二枚目はその上から坂上を、三枚目はさらにその上から坂上を撮ったもので、上側で左へちょっと曲がっている。四枚目は途中から坂下を撮ったものである。

本郷一丁目3番と5番の間から東へ本郷台地へ上る坂で、かなり勾配がある。三、四枚目の写真のように、坂の南側は崖になっているが、このあたりは本郷台地の南西端付近である。

忠弥坂中腹 忠弥坂中腹 忠弥坂中腹 忠弥坂中腹 一枚目の写真は坂中腹の曲がりの手前から坂上を撮ったもので、左側歩道の端に坂の標識が立っている。二枚目は標識のあたりから坂下を、三枚目は坂上を撮ったもので、曲がってから坂上へとまっすぐに上っている。四枚目は曲がりのちょっと上から坂下を撮ったものである。

標識には次の説明がある。

「忠弥坂(ちゅうやざか)  本郷一丁目1~2と6の間
 坂の上あたりに丸橋忠弥の槍の道場があって、忠弥が慶安事件で捕えられた場所にも近いということで、この名がつけられた。
 道場のあった場所については諸説がある。
 "慶安事件"は、忠弥が由井正雪とともに、慶安4年(1651)江戸幕府の転覆を企てて失敗におわった当時の一大事件であった。
 忠弥の名は、浄瑠璃や歌舞伎の登場人物としても有名である。
          東京都文京区教育委員会  平成元年3月」

慶安の変は、慶安四年(1651)4~7月に起きた事件で、由井正雪、丸橋忠弥、金井半兵衛、熊谷直義が幕府転覆、浪人救済を図ったが、計画は事前に露見した。丸橋忠弥は磔刑となった。浪人で、宝蔵院流槍術の道場を開いたという。

忠弥坂上 忠弥坂上 小石川谷中本郷絵図(文久元年(1861)) 一枚目の写真は、標識の上側から坂上を、二枚目は坂上から坂下を撮ったものである。

三枚目の尾張屋板江戸切絵図 小石川谷中本郷絵図(文久元年(1861))の部分図(右斜め上が北)を見ると、イキトノサカ(壱岐殿坂)の坂上から南へ神田川方面へ延びる道がある。その南端に建部坂があるが、現在もこれに相当する道が新壱岐坂の上側の曲がり付近から延びている。上記の切絵図の道から西側は武家屋敷が見えるだけで、この坂に相当する道筋は示されていない。近江屋板(嘉永三年(1850))も同様である。

実測東京地図(明治11年)には、この一帯に崖地のしるしなどがあるだけで、道は一本も示されていない。明治地図(明治40年)を見ると、建部坂から北に向かい、左折し西へ延びる道が示されているが、この道がこの坂と想われる。この地図では、この道の西の先は行き止まりで、右折し北へ向かう細い道が示されている。そして、その南側(神田川寄り)に金刀比羅神社がある。東京五千ノ一(明治20年)でも神田川近くにこの神社があるが、この坂道は示されていない。

戦前の昭和地図(昭和16年)を見ると、この坂や神社の位置は、現在とほぼ同じである。

忠弥が開いた道場の位置を横関はこの近くの建部坂の坂上と考えており、この坂についてはかなり否定的である。

この坂道は明治頃につくられたとすると、そのとき丸橋忠弥伝説と結びついて、このように命名されたのであろうか。

坂の位置の問題は別として、本郷台地の南西端付近にあるかなり勾配がある坂で、休日のせいかもしれないが、車も人通りも少なく、裏道の静かな散歩が楽しめるところである。
(続く)

参考文献
横関英一「江戸の坂 東京の坂(全)」(ちくま学芸文庫)
山野勝「江戸の坂 東京・歴史散歩ガイド」(朝日新聞社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)
「嘉永・慶応 江戸切絵図(尾張屋清七板)」(人文社)
市古夏生 鈴木健一 編「江戸切絵図集 新訂 江戸名所図会 別巻1」(ちくま学芸文庫)
デジタル古地図シリーズ第一集【復刻】江戸切絵図(人文社)
デジタル古地図シリーズ第二集【復刻】三都 江戸・京・大坂(人文社)
「東京人 特集 東京は坂の町」④april 2007 no.238(都市出版)
「古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩」(人文社)
「古地図・現代図で歩く戦前昭和東京散歩」(人文社)
「江戸から東京へ 明治の東京」(人文社)

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