東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

服部坂~横町坂

2011年02月11日 | 坂道

黒田小学校跡地説明板 服部坂下 服部坂下 服部坂下 大日坂の坂下の水道通りを左折する。水道通りはここを流れていた神田上水を明治はじめに暗渠にした道で、このあたりの旧町名が小日向水道町である。この通りをちょっと歩くと、歩道左わきに黒田小学校の説明板が立っている。ここは、文京区立第五中学校となっていたが、最近、閉校となったらしく、門に、筑波大学理療科教員養成施設の標識が貼りつけてある。それで、説明文の該当個所に旧区立第五中学校の訂正シールが貼られている。

説明文にもあるように、黒田小学校は、この近くに実家のあった永井荷風が通ったところである。映画監督の黒澤明もここの卒業生とのこと。

荷風「断腸亭日乗」昭和11年(1936)に「十一月十六日。小石川服部坂上に黒田小学校とよぶ学校あり。余六七才のころ通学せしことありき。今より五十二三年前の事とはなるなり。・・・」という記述がある。この後、荷風は、その学校からの度々の寄附金募集のことを不快の念をもって記している。「余は事の善悪に係らず、現代人の事業には一切関係することを欲せざれば、いづれも知らぬ振にて取り合はざるなり。」と拒否している。いかにも荷風らしい。

その説明板の先の交差点を左折すると、服部坂の坂下である。ここからまっすぐに中程度の勾配で上っている。坂下東側に、旧第五中学校の門があって、その脇の壁に服部坂の説明板が貼り付けられている。

服部坂下 服部坂説明板 服部坂説明板 服部坂中腹 説明板には次のようにある。

「坂の上には江戸時代、服部権太夫の屋敷があり、それで「服部坂」と呼ばれた。服部氏屋敷跡には、明治2年(1869)に小日向神社が移された。
 永井荷風は眺望のよいところとして、『日和下駄』に「金剛寺坂荒木坂服部坂大日坂等は皆斉(ひと)しく小石川より牛込赤城番町辺を見渡すによい。・・・・」と書いている。
 坂下にある旧文京区第五中学校はもと黒田小学校といい、永井荷風も通学した学校である。戦災で廃校となった。」

説明板には、写真のように、尾張屋板江戸切絵図のこのあたりの絵図が添えられている。この切絵図からもわかるように、ハツトリサカ、とあり、坂下に神田上水が流れている。近江屋板にも、△ハツトリサカとある。坂の両側に小日向水道町とある。坂上に服部権太夫の屋敷があるが、ここが、小日向神社となった。前回の記事のように、小日向神社は、八幡坂下の田中八幡が日輪寺境内にあった氷川神社と合併して明治二年(1869)にできた。写真のようにまっすぐな坂を上ると坂上左側にいまもある。樹木が少ないのがちょっと寂しい。

服部坂上 服部坂上 小日向神社 小日向神社 服部坂は『御府内備考』に、「服部坂は荒木坂の西なり、此坂の上に服部氏代々おれり、ゆへに坂の名となす、寛永の江戸圖にも服部氏の屋敷をのす、【改選江戸志】」とある。服部氏は、江戸時代、かなり長い間坂上に屋敷があったようで、そのため、坂名となった。

この坂が三遊亭円朝作の怪談ばなし「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」にでてくる。

「宗悦は前鼻緒のゆるんだ下駄を穿いてガラガラ出て参りまして、牛込の懇意の家へ一、二軒寄って、すこし遅くはなりましたが、小日向服部坂上の深見新左衛門と申すお屋敷へ廻って参ります。この深見新左衛門というのは、小普請組で、奉公人も少ない、至って貧乏なお屋敷で、殿様は毎日御酒ばかりあがっているから、畳などは縁がズタズタになっており、畳はただばかりでたたは無いような訳でございます。」

「真景累ケ淵」のはじまり"一"の後半部分である。宗悦は、江戸・根津七軒町に住む鍼医で高利貸で、この後、借金の督促をめぐる口論の果てに、服部坂上の屋敷で深見新左衛門に斬り殺されてしまう。ここからこの怪談ばなしが始まり、登場人物が次々と変わりながら延々と続く。

横町坂上 横町坂上 横町坂下 横町坂下 服部坂上の神社前を右折すると、横町坂の坂上である。中程度の勾配だが服部坂よりも緩やかに東へ下っており、途中で坂下側の道幅がちょっと狭くなる。坂上北側が福勝寺である。江戸切絵図にも福勝寺があり、その前の道に、近江屋板には坂名はないが、坂マーク(△)がある。ということで、この坂も江戸時代から続く坂である。

『御府内備考』の小日向の水道町の書上に次のようにある。

「一坂 登凡廿六間程、幅凡壹間程、右者町内横町福勝寺前の通より御持筒屋敷え出候横町に有之候、」

横町にあった坂であるのが坂名の由来のようである。
(続く)

参考文献
横関英一「江戸の坂 東京の坂(全)」(ちくま学芸文庫)
山野勝「江戸の坂 東京・歴史散歩ガイド」(朝日新聞社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)
市古夏生 鈴木健一 編「江戸切絵図 新訂 江戸名所図会 別巻1」(ちくま学芸文庫)
「切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩」(人文社)
「大日本地誌体系 御府内備考 第二巻」(雄山閣)
三遊亭円朝作「真景累ケ淵」(岩波文庫)
永井荷風「新版断腸亭日乗」(岩波書店)

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