選挙に「出馬」の意味を求めて

　８月６日（月）毎日新聞の一面を見てさもありなんと思った。安倍政権の支持率が２２パーセント。さらに堕ちよと単純にいえないのは、政治が生活に結びついているからだ。選挙で経験したことをいずれまとめなければならないなと思っている。まずは感性的な疑問から。どうして選挙に立候補することを「出馬する」というのだろうか。ずっと疑問に思っていた。そこで『日本国語大辞典』を開いてみた。すると「出馬」の項目のひとつに「選挙に立候補すること」とだけあった。根拠が説明されていない。そこでネットや書棚を見ていたら、おおむね理解できる説明に出会った。馬が主要な交通手段だった時代、馬に乗って出かけることは一大事だった。戦時にあっては「出馬する」ことが戦場に向う意味に使われるようになった。そこから選挙に立候補することが、平時ではあっても戦場に臨むほど大変なことだと理解されるようになったというのだ。なるほどなと思う。その「戦場」にあって、わたしたちの手段はこの身体一つ。組織も動員もないのだから、まさに徒手空拳の「辻説法」を繰り返すだけだった。その経験を意味付けるため、これまた小沢昭一さんから献本していただいていた『日本の放浪芸　オリジナル版』（岩浪現代文庫）を読む。とくに小沢さんが「舌耕芸」と名づけた香具師の口上や節談説教などは興味深い。

　整形外科で左腕に注射を打つ。近くを歩いていると「ここがそうか」という蕎麦屋があった。「田中屋」というよく知られた店だった。家人と入り生ビールに蕎麦。話題店は昼間から客が多い。練馬駅から東銀座へ。路上でばったり永六輔さん。「お疲れ様でした」と選挙戦を慰労してくれた。「エディット・ピアフ　愛の讃歌」の試写を見る。３０分前に到着したのに、席はすでにほぼ埋まっていた。関係者に聞けば満席は３度目だという。2時間２０分でピアフの激しくも哀しい生涯がよく描かれていた。構成上はいくつか「くどい」シーンもあったけれど、話題作であることは間違いない。「悔いはない」と歌ったピアフは本当に悔いがなかったのだろうか。そんなことはないだろう。悔いを未来に向けて開放していったから、救われたのではなかったか。戻らない過去を悔いとして蓄積しないのがピアフの「生きる流儀」であった。夕方の銀座を歩く。和光の前で街頭インタビューをしているクルーの姿を発見。「ザ・ワイド」の村本リポーターたちだった。朝青龍の病気問題で意見を聞いているというので、わけのわからない医師ではなく、相撲協会が責任を持って精神科医を送るべきだなどとコメントする。もちろん使われるわけもない「たわむれ」なのだが。山野楽器店に入りジャズのコーナーへ。ピアノジャズのCDを探していたが、結局いまの気持ちに合うジャネット・サイデル・トリオの「プリーズ・リクエスト」を買った。ジャネット・サイデルのヴォーカルとピアノが、いささか疲れた心のなかに染み入ってくる。