1969年。ロンドンの老舗デパート・ハロッズ。
アンソニーとジョンは、そこで大きな、いや、大きくなる買い物をした。
動物売り場の一角、シャムの仔猫と、オールド・イングリッシュ・シープドッグの間にみつけた雄の仔ライオン。
すごいぞ、ハロッズ。
ライオンも売るのか。
ライオン街を行く
A LION CALLED CHRISTIAN
著者:アンソニー・バーク ジョン・レンダル
訳者:藤原 英司
発行:平凡社
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ひとめでその仔ライオンに惹きつけられた二人は、この仔ライオンと一緒に過ごしたいと心を決める。
でも、「飼いたいです。」「はい、どうぞ、どうぞ。」と行くわけがない。
相手はライオン。
今は小さくても、猛獣であることは紛れもない事実なのだ。
彼らはデパートの仕入れ係と真剣に話をする。
ピューマを飼っている人にも会って話を聞く。
仔ライオンを受け入れてくれる家を探す。
そして大切なのは、仔ライオンが大きくなり、飼うことができなくなる後のこと。
いくつかの問題をクリアして、彼らはついに仔ライオンとの生活を始める。
名前はクリスチャン。
出会った時からもう決めていた。
むくむくとした毛皮。
丸い大きな目。
生後4ヶ月。体重約13キロ。体長約60センチ。
ところどころに差し挟まれている写真のかわいらしいこと。
アンバランスに大きい前足のぽってりした感じがたまらない。
伸びかけのたてがみが、これまたかわいいのだ。
生きたぬいぐるみの如き愛らしさのクリスチャンは、しかも、愛嬌のある穏やかな性格だった。
クリスチャンとの楽しい生活。
だが、もちろんそれは、絶え間ない不安と背中合わせでもある。
相手は生き物。
しかも、百獣の王と呼ばれる獣、ライオンなのだから。
すくすくと大きくなるクリスチャン。
二人の手に負えなくなるのも時間の問題だった。
期限はおよそ6ヶ月。
その後には避けようもなく別れが訪れるのだ。
クリスチャンには、二人と別れた後、どのような生活が待っているのか。
飼い始める前に決めていたライオンの公園は、経営体質が考えていたものと異なり、実際はサーカスに売ることとさして変わりがなかった。
そんなところに、クリスチャンを送るようなことはできない。
自由のない動物園もだめだと、二人は考える。
不安と焦りが募る中、二人とクリスチャンは運命の出会いを体験する。
嘘のような幸運だが、あの「野生のエルザ」に出演していた俳優夫婦が、彼らのいる家具店に偶然訪れたのだ。
夫妻は、動物を野生に戻す活動をしている「野生のエルザ」のモデルであるジョージ・アダムソンに橋渡しをしてくれる。
本当にクリスチャンはツイている。
幸運の星の下に生まれていたのかもしれない。
すべてが順風満帆というわけにはいかなかったが、クリスチャンには自然へ還る道が開けたのだ。
本来あるべき場所、アフリカの野生の中へ。
1974年初版発行。
古本屋さんで見つけて購入した。
本を開くと、あの古い本独特の匂いがする。
文章はいまひとつだったが、小説ではないのでガマン。
訳者あとがきの文頭はこうだ。
『この本を読んで、ライオンを自分の家で飼ってみようなどと考える読者がでないことを、まず第一に望む。』
至極真っ当で真摯な呼びかけが続く。
クリスチャンのケースはごくごく稀な、幸せなケースなのだと読んでいる最中も思い続けていた。
いつ悲惨な状況に事態が転んでもおかしくはなかったのだから。
本は、二人がクリスチャンをジョージに託し、クリスチャンの野生回帰への希望を持ってアフリカを去るところで終わっている。
幸せな出会いと幸せな別れと言ってもよいだろう。
だが、この顛末は映画として残されているという。
クリスチャンのその後が気になって検索。音楽が切り口だったけれど、内容が詳しいサイトが見つかった。ありがたい。
映画『Christian The Lion』。
ジャケットは雄々しいライオンの顔だったが、これがクリスチャンなのか。
やはり、生易しいことではなかったけれど、その映画の終わりでクリスチャンは元気だった。
野生のライオンの寿命は15年ほどだそうだ。
天寿を全うしてくれたのであればよいと思わずにはいられない。
甘っちょろい感傷、というものではあろうけれども。
きしさんの記事を読ませて頂き、僕も本を購入しようかなと思いました。とても惹きつけられるレビューで、映像で観るのとはまた違った感動が得られそうです。僕も読書が趣味ですので、こちらのサイトのレビューを参考にさせていただきます。またお邪魔させてもらいますね。ではでは!
その番組を観られなかったのは残念ですが、本のほうにも興味を持っていただけたとのこと、とてもうれしいです。
この本は2006年時点ですでに絶版本で、私は古本を読んだのですが、youtubeでの動画がきっかけで新しい本が出ているようですね。写真も綺麗そう。
お読みになったら、感想をぜひ!