大英博物館を振り出しに、魅力的な収蔵品を生み出した土地を訪れる旅。
面白そうとおもって手に取ったら池澤夏樹の本だった。
考えてみれば、いかにもそれっぽいという印象の1冊。
パレオマニア 大英博物館からの13の旅
著者:池澤 夏樹
発行:集英社
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旅に出るのは「男」。
大英博物館の収蔵品を観て回るのが好きな彼は、時間的余裕と金銭的余裕の両方がそれを許したので、旅に出ることにする。
収蔵品を生み出した土地への旅。
この専門家よりも浅く、観光客よりも少し深い旅で、文明の来し方行く末を考えようという旅である。
古代の遺物とそれを生み出した文明・文化に愛情を持っている「男」は、出だしから現代には否定的な考えを持っている。
御説ごもっともなのだけれども、こんな旅に出ることのできる彼に対して若干のやっかみを感じずにはいられないので、最初はあんまり素直に聞けない。
そんなこと言われてもね…と多少はナナメにみたくもなるというものだが、確かに、現代の生み出している数々のものが、幾世紀も経た遥か未来に残っているかどうかは私も怪しいと思う。
13の旅は、ギリシャに始まり、エジプト、イラン、イラク、インド、ヴェトナム、トルコ、韓国、メキシコなどを経て、オーストラリア・アボリジニの地を巡り、最後、大英博物館のあるロンドンに戻ってくる。
その土地のものを食べ、その土地のものを飲む。
その国の現在を感じながら、その遠い過去の人々の息吹を探す。
行った先々で専門家に話を聞き、また市井のガイドの説明にも耳を傾ける。
文明について考えるという大きな大きなテーマはあるにしても、もともとは大好きな収蔵品の展示ブースから始まった旅には、ここに来ることができて嬉しい、これを観ることができて良かったという気分があるので、読んでいても楽しい。
男が官能的な美しさをもつ彫像や浮彫を観ているときは、こちらもそれを想像して(あるいは画像を検索して)、おお~と思う。
乾いた国から熱帯雨林の国へ移動した時には、あまり汗をかかなそうなその「男」が、階段の上り下りに苦労している姿を想像しながら、その空気の違いに思いを馳せ、その石の遺跡に触ったら、熱いのか冷たいのかを想像してみる。
旅行記の多くはそうだけれども、この本は何かと妄想を呼びやすい本だった。
「男」は紛れもなく著者本人で、それは読んでいてもそうとしか思えないのだけれども、ふと気がつくと、全く違う男の人の後ろ姿越しに遺跡を観ているような映像が浮かんできていて、いったい今のは誰だったのかと思うこともあったり、綴られている「男」の思考を勝手に渋い声のナレーションで聴いてしまっていたり。
そのうちの何回かは明らかにショーン・コネリーだったし、それが女の人だったりしたこともあったので、きっと何かで観た映像がつぎはぎになっていたのだろうとは思う。
遺跡を透かして、今はもう無いもの、今も有るものを感じて考える旅、何より「パレオマニア=古代妄想狂を自称する男」の旅なのだから、妄想を呼ぶのも当たり前かもしれない。
鹿島茂の『情念戦争』とあわせて読むのを楽しみにしておりました。
こういった本を読むと、自分もそこに行きたくなります。
playboyで連載していたとは知りませんでしたが、もうひとつの「情念戦争」。
気になって検索してみました。Skywriterさんが楽しみにされていたというのも納得という雰囲気の本みたいですね。こちらもおもしろそうです。