この本は旅先で読んだ。
時間の境のない、ぼんやりとした流れの中で、ゆっくりと文字を追った。
熊の敷石
著者:堀江 敏幸
発行:講談社
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仕事で異国を訪れた「私」。
旅ではないが、日常でもない時間の中で、友人とすれ違うような再会を果たす。
眼前に現れる、水と砂の中の僧院。
在り得ない公の悲しみと、公の怒り。
『熊の敷石』の話。
眼を閉じた子供とくまのぬいぐるみ。
私自身を包んでいるものを思った。
しめつけられる圧迫感はない。
だが、心地よいというのでもない。
空気が何かを含んで、膜をつくっているような感覚。
人と人とを隔てるもの。
それは確かに存在して、人との間に距離をつくる。
目の前にいるその人の痛みを、私の痛みとできるか。
否。
私の痛みは、その人の痛みか。
否。
人と人とを隔てるもの。
けれど、それは隔てたその先で、人と人との間を触れ合わせる。
うっすらと伝わってくるその先の人の想いを、どこまで感じとるか。
感じとろうとするか。
せめて、私を包む何かが、殻にならぬよう、壁にならぬよう。
そんなことをつらつらと思うような作品だった。
他に『砂売りが通る』、『城跡にて』の2編。
解説は川上弘美氏。
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