ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

堀江 敏幸 【熊の敷石】

2006-04-25 | 講談社
 
この本は旅先で読んだ。
時間の境のない、ぼんやりとした流れの中で、ゆっくりと文字を追った。

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 熊の敷石

 著者:堀江 敏幸
 発行:講談社
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仕事で異国を訪れた「私」。
旅ではないが、日常でもない時間の中で、友人とすれ違うような再会を果たす。

眼前に現れる、水と砂の中の僧院。
在り得ない公の悲しみと、公の怒り。
『熊の敷石』の話。
眼を閉じた子供とくまのぬいぐるみ。

私自身を包んでいるものを思った。

しめつけられる圧迫感はない。
だが、心地よいというのでもない。

空気が何かを含んで、膜をつくっているような感覚。

人と人とを隔てるもの。
それは確かに存在して、人との間に距離をつくる。

目の前にいるその人の痛みを、私の痛みとできるか。

否。

私の痛みは、その人の痛みか。

否。

人と人とを隔てるもの。
けれど、それは隔てたその先で、人と人との間を触れ合わせる。
うっすらと伝わってくるその先の人の想いを、どこまで感じとるか。
感じとろうとするか。

せめて、私を包む何かが、殻にならぬよう、壁にならぬよう。

そんなことをつらつらと思うような作品だった。

他に『砂売りが通る』、『城跡にて』の2編。
解説は川上弘美氏。





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