時は昭和初期。
発端は一人の男の死。その第一発見者は主人公・清彬の親友・嘉人。
特権階級である華族の憂鬱な美青年・清彬の一年が描かれていきます。
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ロマンス
著者:柳 広司
発行:文藝春秋
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こういってはなんですが…。
こんなにも、主人公を気の毒に思ったのは久しぶりです。
没落したロシア貴族の血をひくがために周囲から認められることがなく、華族でありながら現実に対してなんの影響力を持たない清彬。
軍が不穏な空気を立ち上らせ、華族達が爛熟の時を迎えた時代、殺人事件をきっかけにして、彼にさまざまな立場の人間の思惑が絡んできます。
まるで出来事すべてが彼のほうを向き、彼こそが状況を変える力を持っているのだとでもいうように。
あるいは、彼ほど利用しがいのある道具はないとでもいうように。
彼は苦い思いと共に、その出来事のすべてに、彼なりの身の処し方で対応していきます。
その極意は誰にもなにも語らないこと。
憂鬱で、実は多才な美青年は魅力的な主人公ですが、疑問はわきます。
この流れの中にあって、彼に何ができるだろう、彼に何をさせたいのだろう、と。
読み終えたところに待っているのは、がっくりと肩が落ちるようなとてつもない無力感。
あれほど彼を必要としているかのように進んでいた出来事の流れは、そう思えただけの錯覚で、出来事がほんとうに彼に対して要求したものは傍観のみ。
主人公でありながら、彼に変えられることは何ひとつなく、彼のほんとうに欲しいものは得ることが叶わず、せめてと願ったものですら、手の中からこぼれてしまうのです。
主人公なのに!
主人公なのに!
主人公なのに!
物語の主人公であってすら、世界は彼のためには回らないのかと、あまりにもせつなくて、読まなかったことにしたくなりました。
参加しています。地味に…。
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